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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
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8−23 魂ごとぶった切れば問題ない

 メルポレットなんて目立つ場所で会合を開いているもんだから、野次馬目当てに「出来損ない」がお出ましになったらしい。そんなお邪魔虫の出現に、エルダーウコバクがさも憎々しげに舌打ちし始める。


「チィ……こんな時に出てきやがったか。……悪い、ベルゼブブ。俺はあいつらを鎮めてくるから、後は適当にまとめといて」

「えぇ〜? 別に放っておけば、いいじゃない。出来損ないにやられる奴なんて〜」

「そうもいかないだろう? お前がシールド外のこんな場所を指定したのが、悪いんだろ。だったら、責任は取るべきだろうが」

「そうなる? そうなるの? 確かに、メルポレットは所轄外の無法地帯だけど。僕、そこまで考えてなかったし〜」


 真面目な上に責任感も強いらしいエルダーウコバクと、やっぱり適当で無責任なベルゼブブ。とは言え、まとめ役のエルダーウコバクがここで抜けたら、帰りが遅くなりそうだし……ったく。仕方ねぇなー……。


「……そういう事なら、俺が鎮めてくる。エルダーウコバクはその間、ちゃんと話をまとめておけ」

「え? あ、あぁ……。知っていると思うが、あいつらに斬撃はご法度だぞ? だから凍らせるか、動きを封じるか……」


 んなこたぁ、言われなくても分かってるよ。俺は腐っても、真祖だし。……悪魔歴もそれなりに長いもんだから、奴らの対処法なんざ、いくらでも知ってるさ。


「お前さ、俺のこと舐めてんの? そんなもん、魂ごとぶった切れば問題ないだろうが」


 そんでもって、今回はイラついている気分を発散するべく、有無を言わさずジ・エンドと洒落込みましょうか。こういう時は、出来損ない相手に八つ当たりするに限る。


「……あ、そこまでしちゃうか。……分かった。それじゃ、ご希望通り話をまとめておくから」

「ハイハイ。つーことで出番だぞ、十六夜。……それと、ダンダリオン。悪いんだけど」

「うん、分かってる。君が不在の間は、ちゃんと話くらいは聞いておくから。流石にそのくらいはしないとね」


 珍しく殊勝な言葉を返すダンタリオンの手元を見れば、本にはちゃんと栞が挟んであり、その間の我慢はするつもりらしい。ふ〜ん。やる気はないなりに一応、配下としての自覚はあるんだな。


「そういう事。それじゃ、ちょっと行ってくるわ」


 軽口を叩きながら、翼を広げて悲鳴の先に飛び立つ。しっかし、あぁ〜あぁ……いくら相手が不死身だったとしても、そんなに泣き喚いて逃げ回る事ないだろうに。……最近は妙に、悪魔の弱々しい部分が目に付くようになったな……。


「ったく、出来損ない相手に情けない……! 腕に自信のない奴は下がってろ!」


 十六夜丸を振るうと、たった一閃で視界の中にいる出来損ない共が綺麗に横一文字で切断されていく。


 武器としての十六夜丸は、その刃に切れぬものはないとか言われてはいるが、実際の性能よりも重要なのは相手に対する特殊効果だったりする。十六夜丸が本当の意味で恐ろしいのは、斬り伏せた相手の魂を捕食して恨みと呪いを溜め込む点だ。それは要するに魂を奪うということ……如何なる手段の復活すらも即座に封じるということであり、刈り取った相手の存在を容赦なく踏みにじることに他ならない。


 そして、いつも「意地汚くて空腹」な十六夜丸は切った相手が多ければ多い程、力を発揮してご機嫌が良くなる……切れ味が鋭くなり、斬撃の効果範囲が広がると同時に、呪詛を吐き出しまくる……傾向がある。

 で、今回は流石に数が多い分、腹が満たされるんだろう。一方的としか思えない強襲に、片っ端から出来損ないどもを土塊にしながらも……当の十六夜丸は吸い取った魂の質はともかく、量には満足げな様子だ。


 そんな事を確認しながら、なんだかんだで数太刀で綺麗に任務完了した十六夜丸を鞘に戻す。……今日はこれだけ十六夜丸を派手に暴れさせたし、明日あたりは手入れをしてやった方がいいかな。でも、そうなると全員セットでやらないと、拗ねる奴が出てくるし……毎回、手入れの順番でいちいち揉めるんだよな……。あぁ、面倒クセェ……。


「……?」


 帰る前から「事後処理」の事を考えつつ。出来損ないを全員斬り伏せたところで、円卓に戻ろうとする俺を見つめる妙な視線が気になり始める。えっと……俺、何か悪いことしたか?


「……とりあえず、出来損ないどもはいなくなったから、情けない顔してんじゃねーよ。次からは、自分でなんとかできるようにしておけよな」


 誰に言うでもなく、呟くと。何やら、キラキラとした眼差しが向けられている事に気づいて、却って気持ち悪い。多分、これは悪い事をして詰られている視線じゃなくて……まぁ、いいや。とにかく、円卓に帰ろ。

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