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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
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8−17 もちろん貶してるけど、何か?

 4組の真祖が集まって、ちょっとした歓談をしていたところで……約束の時間にやや遅れて、1組の悪魔が騒がしくこちらに向かってくる。あれは、確か……?


「この、万年寝太郎が! あれだけ言うたのに、どうして起きられない⁉︎」

「ごーでりあ、ゆるじて〜……おで、おきるのにがて……」

「口答えするでない! あぁ、ったく! お前が起きてこないおかげで、約束に遅れてしもうたではないか!」

「あゔ〜。おで、みみがいだいよ〜。ごーでりあ、こえのおおぎさ、おざえで〜」

「無駄口はいい! トットと皆さんに、挨拶と詫びを入れておけ!」


 俺としては、片方は初顔の悪魔だが。様子からしても……青ざめた顔で窶れた、背虫の悪魔が怠惰の真祖・ベルフェゴールだろう。


「遅れてしまい、誠に申し訳ございません。この寝太郎なりに努力して起きて参りましたので、それに免じてご容赦をば」

「コーデリア、ご苦労様〜。そんなに遅れてないし、アスモデウスもまだだし。大丈夫。気にしないで〜」

「べるぜぶぶ、やざじい。おで、とでもうれじい」

「……はぁ。挨拶しろと言ったのに、答えがそれか。全く、情けない……」


 変なイントネーションと舌ったらずの真祖に対し、怠惰の悪魔にしてはピリッとしている伊達女。コーデリアは熊系統の悪魔にしては妙にスリムで、片手に添えられている煙管が小粋な印象だ。


「コーデリア、久しいな。にしても……お前の所も、相変わらずみたいだな」

「あぁ、ザーハか。お久しゅう。こちらはお察しの通り、いつも通りだよ。ウチの男どもは相変わらず、寝ることか、起きている間は女を抱くことしか考えてなくてなぁ……。私はオチオチ寝ることもできん!」

「う、うむ。お前はお前で、苦労させられているようだな……」


 なるほど。彼女が怠惰の悪魔の割にピリピリと神経を尖らせているのは、そのせいか。変に寝込むと、襲われる……と。

 老執事風のザーハがやや及び腰でコーデリアに応じているが。俺の方はさっきまで、ここがどんな世界かを忘れかけていた。……いろんな意味でやっぱり魔界だな、ここは。


「ごーでりあ、いろいろ、やわらがい。おで、きょううまくできたら、ごほうびもらう」

「ここで妙な事を言うでない! この甲斐性なしが!」


 そうして、さっきの話の続きなのかは微妙に分からないが。変な事を言い出すベルフェゴール。きっと、軽口を注意するつもりなのだろう。コーデリアが手に持っていた煙管をひっくり返すと、ベルフェゴールの頭に灰を落とし始めた。しかし、ベルフェゴールはすぐに反応せずに……されるがままになっていたかと思うと、しばらくしてもうもうと煙が上がったのに、ようやく気づいたらしい。3テンポ程遅い反応を示すと、慌てて泣き始める。


「あぁ〜、あづい、あづいよ、ごーでりあ〜! ひどいじゃないが〜」

「うるさい! 人前でそういう事は言うなと、申しておろう! どうして、学習せんのだ⁉︎」

「だっで〜。そうでもいっでおがないと、おまえ、びじんだがら、ほがのやつにどられちゃうし〜」

「ひゃいっ⁉︎ い、いやそんな事を言うても……。う、うぐ……! あぁ、もう。ほら、火は点いていないから、みっともなく泣くでない。お前は本当に、手がかかるなぁ……」


 あぁ〜……このペアはこのペアで、そういう仲なわけね。

 きっと、美人と言われたのが嬉しかったのだろう。ツンツンしっぱなしだったコーデリアが顔を赤く染めながら、ベルフェゴールの灰を落としつつ撫でてやっている。


「ったく。そういうのは、済ませてから来いよ……。おかげで妙な空気になったろうが」

「す、すみません、マモン様……。今後は注意いたします故、何卒、お赦しを」

「まもん〜、ごめんよ〜」

「……確かにアスモデウスがまだだし、今のは別にいいけど。俺は早く帰りたいから、会合中にそれは無しにしとけよ」


 眉間に皺を寄せながら、隣のベルフェゴールを見やることもなく、黙り込むマモン。さっきまで上着に引っ込められていた左手が、肘掛けの上で人差し指をカツカツと鳴らしている。会合がなかなか始まらなくて、イライラしているみたいだが。その薬指に何かが嵌っているのに気づいて、彼の早く帰りたい理由をそっと納得する。


「フフフ、マモンも隅に置けないなぁ」

「あ?」

「リッテルちゃんに結婚指輪、ちゃんと渡せたんだね〜」

「‼︎」


 しかし、目敏く俺と同じことに気づいたらしい。ベルゼブブに指輪のことを指摘されて、顔を真っ赤にしながら慌てて左手を引っ込めるマモン。だけど、ベルゼブブがバラした以上……手遅れだと思うぞ、それ。


「……べ、別に、それはどうでもいいだろ……」

「えぇ〜そうなの? まぁ、いいや〜。アスモデウスも来てから、じっくり聞くとして……。それにしても、アスモデウス、遅いねぇ。何をやってるんだろう?」

「約束の時間から、大分経ってるな。どうするよ?」


 悪魔は時間の感覚が若干アバウトなのは、否めないが。噂好きなアスモデウスであれば、開始前の世間話も含めて参加したがるだろうから……早めに来ていると、思っていたんだけど。うーん。ベルフェゴールよりも遅いだなんて、予想外だ。


「全員揃ってから、始めた方がいいんだろうけど。他のみんなを待たせても良くないし……。仕方ない、そろそろ始めようか〜。で、ハーヴェン!」


 しかしながら、アスモデウスは噂話が好きなだけで、今回のお題にはあまり興味を示さないとも思われる。きっと、ベルゼブブも会合自体はアスモデウス抜きでも大丈夫だと、よくよく分かっているのだろう。彼女を待たない判断をすると同時に、当然のように俺に進行役を押し付けてくる。


「へいへい、分かってますよ。……本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。ご存知の通り、先日傲慢のルシファーが魔界を去ったことに伴い、ヨルムの玉座が空になっています。本日は持ち主を決めるべく、僭越ながら暴食の真祖・ベルゼブブにて話し合いの場を設けさせていただきました。ご足労の足代に、ささやかながら粗品をご用意いたしましたので、皆さまに進呈したい次第であります。会合中の口休めに、どうぞご賞味ください」

「ウンウン、さっすが僕のところのナンバー2〜。この調子で進行役、全部お願いしちゃおうかな〜」

「……そうだな。お前は黙ってた方が話、纏まりそうだしな」

「あ、それどういう意味〜? もしかして僕、貶されてる〜?」

「もちろん貶してるけど、何か?」

「あぁ〜! もう〜。ハーヴェンは本当に可愛くないんだから。ベルちゃん、超悔しい〜」


 自分の親玉に可愛くないとか言われつつも、サッサとお持たせを配ってしまうに限る。それでなくても、さっきから赤い紙袋が嵩張って、ちょっと邪魔だったし。配ってさえしまえば、俺も身軽になれるだろう。

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