8−14 妙な頭痛のタネ(+おまけNo.5)
戻ってきた子供達に試食をしてもらって、特に評判の良かった6種類を大量に作り上げて。それぞれを箱に詰め分けると、そのうちの1箱をプランシーに預ける。ギノが帰ってきたおかげで、ゲルニカの所に差し入れができるようになったが……肝心のエルノアの魔力コントロールは難航しているらしい。それでも、ギノの話では以前よりも本人の腰の入れ方が違うとかで……彼女もかなり頑張っているようだ。
「悪いが、今日は俺の方が魔界に用事があってな。……これ、今日のおやつ。で、こっちはお茶のアレンジレシピなんだけど、アレンジに使うコンフィチュールはコンタローに持たせたから。忘れずに渡してくれよ」
「あい! 任せてくださいでヤンす!」
「かしこまりました。私達はゲルニカ様の所で過ごさせていただきます。ハーヴェン様もお気を付けて」
「おぅ。それじゃ、みんな頼んだぞ。それと、エルノア。しっかり頑張れよ〜」
「うん! 私、頑張るの!」
そんな事を言いながら、彼らを見送って……俺も早速「あっちの姿」に戻ると、ベルゼブブの屋敷行きのポータルで趣味の悪い廊下に足を踏み入れる。待ち合わせの時間にはちょいと早いと思うが、子分達にもおやつを配ってやりたいし、このくらいで丁度いいだろう。
それにしても、真祖の会合か。……個性豊かすぎる真祖が顔を付き合わせた所で、話が纏まるんだろうか。
「って、その為のお供か」
サタンの所は切れ者のヤーティ。で……確か、ベルフェゴールの所はコーデリアという、やたら頭の回るオリエントデヴィルが仕切っていた気がする。リヴァイアタンの所はこっちが真祖なんじゃないかと思える実力者、ダイダロスのザーハ。そんでもって……マモンの所はアークデヴィルのダンタリオンか。アスモデウスの所は誰がナンバー2なのか、ちょっと分からないが……まぁ、それを抜きにしても、この顔ぶれなら話は纏まりそうだな。俺がそんなに頑張らなくてもいい気がする。お役目があるとすれば、お調子者のベルゼブブが変なことを言わないよう、見守るくらいか。……あっ。これが1番、難題な気がしてきたぞ。
「お頭〜、お帰りですぅ」
「お帰りなのです!」
「お、ただいま〜。みんないい子にしてたか〜?」
「は〜い!」
いち早く俺の匂いを嗅ぎつけて、子分達がわらわらと集まってくる。2人いないならいないなりに、6人できちんと仕事はこなしていたらしく、彼らからは暖かい毛皮の匂いと、油の匂いが混じり合った懐かしい香りが漂ってくる。
「俺の留守中もちゃんと仕事してたんだな。偉いぞ〜。さて、そんないい子達にもお土産があります。ベルゼブブに見つからないように食べろよ〜」
期待で一杯の子分達に見上げられて。早速とばかりに、ウコバク用に小分けにしたボンボンショコラの小箱を配る。赤いリボンを摘みながらそれぞれに渡すと、目を輝かせて尻尾を振っているのが、相変らず可愛い。
「お頭! これ、中身は何ですか?」
「ボンボンショコラの新作バージョンだ。みんなにも6種類を1個ずつ用意したから、大事に食べるんだぞ」
「ありがとうございます!」
「わぁ、楽しみだなぁ……」
両手に小箱を乗せている子分達の頭を一通り撫でてやると、部屋に戻るように促す。一応、配下の悪魔にはそれなりに優しいベルゼブブでも、好物のチョコレートがその手にあるとなると、話は別だ。今回はベルゼブブにも大きめの箱を用意してはいるが……「ゲテモノ」とチョコレートには見境のないアイツが、子分達の分を横取りしない保証はない。
ウコバク達がその辺りを分かっているのか、分かっていないのかは判断がつかないが。相変らず俺の言うことはキチンと聞いてくれる彼らが、早々に部屋に引き上げていく。まぁ、あの様子だと……仲良くおやつを摘みながら、カードゲームでもするのだろう。
(……さて、と。後はベルゼブブか。この部屋に入るのは、ちょっと勘弁して欲しいんだけど。仕方ないか……)
相変わらず、この扉は触るのさえも勇気がいるな。何度やっても慣れないぞ。
「ベルゼブブ、いるか〜? 約束通り、来てやったぞ〜」
「あ、ハーヴェン、待ってたよ〜。ね、ね。チョコ、持って来てくれた?」
「心配するな。お前には大容量で用意してきたぞ」
「やった〜! ベルちゃん、超楽しみにしてたんだよ〜。早速、頂戴〜」
「ダメ。会合とやらの時に改めて配るから、もうちょい我慢しろ」
「えぇ〜! ハーヴェンのイケズ!」
ブーブーと文句を垂れる親玉に、いつも通りに呆れつつ。とにかく、用事を済ませようと話を向けるが。……今からこの調子じゃ、先が思いやられるな……。
「……お前に先に渡したら、全部平らげた挙句に、他の奴の分にも手を出すだろうが。今はとにかく会合を上手くこなす事を考えろ」
「もぅ〜、ハーヴェンは真面目で頭が硬いんだからぁ……。僕の配下とは思えない〜」
「それは俺のセリフだ。どうしてお前みたいないい加減な奴が、俺の親なんだろうな……?」
「ブゥ〜! それは僕も知らないも〜ん」
知らないも〜ん……じゃねぇよ、全く。どこまで無責任なんだよ、お前は。
「……まぁ、そんなことはどうでもいいや。とにかく行くぞ。会場はどこなんだ?」
「うん? あぁ、メルポレットの円卓だよ〜」
「メルポレットか……って、あんな目立つ所でやるのか? そんな事をしたら、野次馬が集まっちまうんじゃ?」
メルポレットはどの真祖の所轄地にも属さない、中立地帯にある円形の遺跡なのだが。基本的に出入り自由でもあるため、とにかく人目につく場所でもある。そんな場所である意味、魔界の頂点を決める会合を開いて……大丈夫なんだろうか。
「逆にそれがいいんだよ。この際だから、真祖が顔を突き合わせてどんな風に話をするのかとか、雰囲気が他の子達にも伝わればいいな、なんて思ってて。それでなくても、親が違う悪魔同士が喧嘩になった場合は、僕達も意外と苦労したりするし。真祖同士は仲が悪くない事を分かってもらうには、いい機会じゃないかな」
うん? そうだったのか……? 今ひとつ、ピンとこないんだが……。
「え〜と……親が違う悪魔って、そんなに仲が悪かったか?」
「仲が悪いって言うよりは、交流が少ないって言うか。友好的な情報交換はあんまりないんだよねぇ。もちろん、アスモデウスとかベルフェゴールの所みたいに、来る者拒まずのオープンな所もあるにはあるけど……中にはリヴァイアタンの所みたいに、素通りでさえ難しい場所もあったりするし。……マモンの所は妙によそよそしいし。僕としては、そういう垣根みたいなものを少しでも低くしたいんだよね」
「そっか。そういう事なら、俺としては異論はないかな。理由もないのにいがみ合うよりかは、仲良くできた方がいいだろうし」
「そういう事〜。という事で、そろそろ行こっか。時間的には余裕だろうけど……遅れるのも、格好悪いしね」
「あぁ、そうだな」
意外とベルゼブブが魔界全体の事を考えていた事に感心しつつ、悪趣味が加速しているとしか思えないドギツイ緑とオレンジ色のガウン姿にゲンナリする。その上に、妙に派手な蛍光イエローとロイヤルブルーのマフラーを首元に巻き始めたもんだから、凶暴な色彩が目に染みる。……幾ら何でも、その色合わせはないだろうよ……。
妙な頭痛のタネが増えた所で、ベルゼブブの後について黒い空に飛び立つ。メルポレットはここから少しあるけれど、苦労する道程でもない。そんな道中に、向こうに着いたらどう振る舞えばいいのかを思い巡らせるが、さっきの様子からしても……鼻歌交じりで飛んでいる真祖の手綱を握るのが、最優先事項な気がしてきた。だとすると、俺はいつも通りで大丈夫だろうか。
それに他の真祖の雰囲気を確かめるのにいい機会だと思うし、俺自身も会合自体を楽しんでみるのも、アリかもしれない。張り切って、お土産も用意してみたし……。お土産に必要以上の効果を期待するつもりもないけれど。とりあえず穏便に進められればいいなと、俺は他人事のように考えていた。
***
「……行ってらっしゃい。気をつけて」
「分かってる。……お前らも留守の間、頼むぞ」
「は〜い! もちろんですよぅ」
「僕達もしっかり、リッテル様と一緒にいるです」
「思いっきり、べったりするです!」
「……いや、べったりしている必要はねぇんだけど……」
この間の事があってから、色々な意味で俺も吹っ切れたというか。グレムリン達がリッテルにくっついているのに、以前ほどイライラしなくなったのが、少し不思議だったりする。一方で、「ようこそ! ニュー俺!」な感じなのだろう。リッテルはリッテルで、初めて出会った時よりも遥かに雰囲気が柔らかくなった。
「それはそうと、今日もお願いがあるのだけど……」
「ハイハイ、それも分かってるよ。こいつらに正式な個体名を付けたいんだろ? 下級悪魔は記憶がすっからかんだし、名前を覚えていないんだよなぁ。その場合は、真祖が名前を付けてやったりもするらしいんだけど。……俺はネーミングセンスはゼロっぽいから、お前が考えといてくれると助かる。その名前を基準に、こいつらにも祝詞をやるから。……それでいい?」
「えぇ。そうしてくれると、とても嬉しいの。ありがとう、あなた。……ちゃんとみんなで待っていますから、早く帰って来てくださいね」
「うん。……それじゃ、行ってくる」
素っ気なく答えると、今日は彼女の方から頬に口づけをしてくれる。こんな風にしてもらえる日がくるなんて思ってもみなかったから……冗談抜きで嬉しい。
「マモン様、顔真っ赤ですよぅ?」
「わぁ、いいないいな〜。おいらもリッテル様にチューしてほしいです」
「僕も!」
「……1000年早いわ、ボケナス共」
照れ隠しで憎まれ口を叩きながら、これ以上からかわれても敵わないとばかりに、サッサと空に飛び立つ。とりあえず、途中でダンタリオンを拾ってメルポレットに向かえばいいだろうか。
……にしても、他の奴らもリッテルに興味津々みたいだし 、本題に入る前にこっちの話題で話が逸れそうな気がする。……これ以上の飛び火は防ぎたいんだけど、どうしたもんかな……。
※コンタローの呟き No.05
あい! お待ちかね(じゃないかも知れないですが)、コンタローの大きさ講座の時間でヤンすよ!
一方的に情報を発信しているだけでヤンすが、今日も元気にモコモコするです! 早速、今回のお題いくでヤンす!
『魔界について』
……あぁ。随分とザックリしたお題を出してきたでヤンすね……。おいらもホベっとした感じで、ふんわり紹介すればいいですかね……。
うんと……全体的な広さは分かりませんが、それぞれの真祖様の領地の特徴と、大きさを順番に紹介するでヤンす。
まず、1番広い領土を持っているのはベルフェゴール様でヤンす。永久凍土全てを縄張りにしているヤンすから、魔界の半分くらいがベルフェゴール様の所轄地でヤンすね。
でも、普通に住める場所が少ないんですよねぇ。これ、広いって言えるんでしょうか……?
えぇと、次はサタン様の所轄地が広いでヤンす。魔界のヨルム川最下流の溶岩湖を中心にした領土を持っていまして。ベルフェゴール様の所は暮らせる場所が少ない事を考えると、まともな領土を1番持っているのはサタン様でヤンす。
その次は……あ、リヴァイアタン様の領土が広そうでヤンす。ヨルム川上流の紫色の範囲がリヴァイアタン様の領土になるみたいですから、結構な広さでヤンすよ。
4番目はアスモデウス様の領域ですね。ヨルム川中流域に広がる盆地を領土としていまして、窪みの中央にお屋敷(娼館)を構えているでヤンす!
それにしても、娼館でヤンすか……。おいらは行った事ないですけど、ベルゼブブ様はよくご厄介になっているみたいですね。ちょっとはお頭を見習ったら、どうなんでしょう……?
あぁい、余計な事を言いました! えっと……で、5番目はベルゼブブ様の領地が広いでヤンす。小っちゃいながらも悪趣味な洋館を中心に、ヨルム川が溶岩に変わりかけているポイントの温暖な草原地帯を領土としていまして。広さはそこそこですが、魔界で1番暮らしやすい場所を陣取っているのは、流石でヤンす!
最後は……マモン様の領土が1番狭いんですね。……意外でヤンす……。えぇと、永久凍土下の崖一帯がマモン様の縄張りみたいですよ。永久凍土が溶けてできた滝が流れ着いた先と、ヨルム川が合流するポイントがあって、実は自然豊かで綺麗な場所らしいんですけど……。歓迎ムードはないんですよねぇ。
とりあえず、おいらが知っている限りでは、魔界はこんな感じでヤンす! ちょいと長くなりましたが、ここまで読んでくれて嬉しかったですよ!
またお会いすることがあれば、よろしくです! ありがとうございましたでヤンす!




