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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
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8−1 嫌われるよりはマシ(+おまけNo.4)

「あのぅ……。ここに来れば、怪我を治してもらえるって聞いたんですけど……」


 情報の発信源はきっと、アスモデウスだろう。

 ひっそりと竹林の中に建っているはずの俺の家に、グレムリンの3人組が訪ねて来やがった。

 グレムリンは強欲の最下級悪魔で、弱さはベルゼブブの所のウコバクといい勝負だろうが……ウコバク共はベルゼブブが手厚く面倒を見ているもんだから、怪我とは無縁の生活を送っている。そういう意味では、俺もちょっとは責任を感じるけど。弱い奴が強い奴に虐められるのは、魔界では常識でしかない。こいつらが死にかけていようが、知ったことか。


(家に押しかけてくるなんて……。こいつら、よくここが分かったな……)


 俺自身は家の場所を公開していない。とは言え、配下の悪魔はある程度、場所を知っているのか……大怪我をしたグレムリンと、それを運んで来た2人の疲れ顔を見る限り、正確な位置は分からないなりに辿り着きました……って感じのくたびれ方をしている。

 ま、俺だって、少しは罪悪感を覚えたりはするけれど。こんなことでリッテルを働かせるつもりもない。


「下級悪魔の怪我はそんなに時間もかからず、治るだろ。帰った、帰った。ここは病院じゃねーんだよ」

「そ、そんなぁ……こんなに苦しそうにしてるんですよぅ? お腹の大きな傷くらいは、塞いでやって下さいよぅ……」


 情けない返事をしながら、帰ろうとしないグレムリン共を玄関先で追い返しあぐねていると。騒ぎを聞きつけたのか、リッテルが奥から出てくる。自力で起き上がれるようにはなっても、まだ足取りは少し弱々しいが……無事、耐性とやらが定着したのだろう。顔色はそこまで悪くない。


「どうしたの?」

「あ、あぁ……別に。押し売りを追い払おうとしていただけだ」

「押し売り?」


 俺の言葉に引っ掛かりを覚えたのか、彼女が玄関の3人を見やる。そうして、1人が大怪我をしているのにすぐさま気が付いたらしい。彼女は小さく「まぁ大変」とか言いながら、早速回復魔法の詠唱に入り始めた。

 いや、まずは事情くらいは聞け。大体、相手は悪魔だぞ? 回復してやった側から襲われるかもとか、少しは警戒心を持てよ……。


「嘆き、苦しみ、痛み……汝の命を脅かす咎を禊ぎ、清めん……ミディキュア‼︎」


 彼女が躊躇もないまま、いとも簡単にアッサリと回復魔法を展開すると。腹を掻っ捌かれてパックリと開いていたグレムリンの傷が、みるみるうちに塞がっていく。光魔法を使えない悪魔にとって、リッテルの回復魔法は超貴重だろうが、俺にはそれをシェアする気はこれっぽっちもないんだけど。これでまた、変な噂が広まったらどうしよう。


「さ、これで大丈夫かしら。どう? 痛くない?」

「あ、うん……ポンポン痛くない」

「おぉ〜! 流石、天使様!」

「傷が元どおりですよぅ! ありがとうです!」


 桃色の長い髪を纏め上げた彼女の頸を見つめながら、そんな事を考えている間に、治療とやらが終わったらしい。興奮した声をあげるグレムリンの様子に、一抹の不安を覚えるものの。とりあえず、やっちまったものをどうこう考えても、仕方ないか。


「どうして、そんな怪我をする羽目になったんだか。まぁ、いいか。ほれ、用事が済んだら、とっとと帰れよ。長居は迷惑だ」

「マモン、そんな言い方をしなくてもいいでしょう? こんなに小ちゃな子を怖がらせて、どうするの?」

「だってさ、こいつらの傷はすぐに治るんだぞ? 別に放っておいてもいいだろうよ……」

「だって、じゃありません。すぐ治るにしても、痛みはあるのでしょう? こんなに大怪我をしているのを放っておくなんて、可哀想じゃないの」


 俺、もしかして……薄情者認定された感じか? ちょっと怒ったリッテルの言葉が、ズキンとどこかに刺さった気がして、かなり辛い。


「……わぁ〜ったよ。理由くらいは聞いてやる。お前ら、誰にそんな事されたんだ?」

「あ、あの……ゴブリンに……」

「ゴブリンに? また、何で?」

「あ……えっと」


 俺が問い詰めるように質問をすると、怪我をしていたグレムリンがモゴモゴと吃る。その様子を見るに見かねたのか、リッテルがこれまた優しくグレムリンに尋ねるが。優しくしてくれるのは、俺に対してだけでいいんだけど……なんて言ったら、更に怒られるだろうか。


「マモンも怒ったりしないから、大丈夫よ? もしかしたら、同じ目に遭わないようにしてくれるかもしれないし、お話ししてみたらどうかしら?」

「本当? マモン様、怒らない?」

「……事と次第によっては怒る」

「アゥぅぅ……」

「マモン?」

「ったく、仕方ねぇなー……ハイハイ、怒りません。怒りませんよ、っと……」


 かなり強引に「怒らない宣言」をさせられたところで、ようやく渦中のグレムリンが口を開く。こちらを窺うような顔つきを見る限り……訳アリみたいだ。


「ちょっと前に……この辺りに綺麗な女はいないか、ってゴブリンに聞かれて。何でも、親玉が連れて来いって言ったみたいで……。あいつらも親玉が怖いみたいで、ちょっと可哀想だったから、おいら、この近くに綺麗な女の人がいるみたいって話したんだけど……」

「ほぉ〜?」

「あ……マモン様、怒るの? ……やっぱり、怒る?」

「……とりあえず、最後まで聞いてやる。で?」

「うん……近くの紫紺沼にお水を汲みに来ていた綺麗な人がいるみたいって、話をしただけだったんだけど……。ゴブリン達、その人を攫ったまでは良かったんだけど……マモン様の女の人だったみたいで……。おかげでマモン様を怒らせる羽目になったって、おいら、ゴブリン達に怒られて。それで、殴られて、お腹を斬られて……」

「あぁ、そういう事……! この間のあれは要するに、お前のせいだったんだな……?」


 あの時にリッテルが受けた屈辱を考えると、こいつを許す理由はないだろう。これを怒らない、は俺には無理だ。


「アゥぅぅぅ! ご、ごめんなさい〜!」

「その腹、もう1度掻っ捌いてやる! そんで、2度とそんな事を言えないように……!」

「マモン、怒らないって約束はどうしたの?」

「……お前、分かってる? こいつがそんな事を言ったせいで、お前も嫌な思いをさせられたんだろうが! それを怒らないで済ませられるか!」

「約束は?」

「そんなもの、知らねーし!」

「……マモンはさっきしたばかりの約束を守れない程に、無責任な人だったの?」


 ワントーン低い声で言われると、どうしていいのか分からない。……何で、俺が怒られないといけないんだよ?


「マモンは、私に言ってくれた事も忘れてしまったの?」

「……忘れる、って何をだよ?」

「私、そんな風に言った事も守れない人は嫌い。……今のマモン、もの凄く嫌い」

「ゔ……」


 嫌われないように頑張る、って確かに言った。確かに、言ったけど! だけど、俺はお前のために怒ってるんだぞ? それをどうして、悲しそうに嫌われないといけないんだ?


「あぁ、もぅ! リッテルがそれでいいんなら、俺もこれ以上は怒らない! だが、お前ら! 見返りと言ってはなんだが、俺としてはタダで許すつもりも、リッテルを貸し出すつもりもないぞ! だから、家を掃除するのを手伝え‼︎」

「あ、ハィ! その位なら、喜んでお手伝いしますです」

「うん、手伝う!」


 無事に命拾いをして、三者三様に前向きな返事をしてくるもんだから……こいつらに掃除をさせれば、色々と片付くか。片付かないままの家に住むのも落ち着かないし、これはこれで都合がいいかもしれない。ちょっと納得できないけど。それでも、リッテルに嫌われるよりはマシ……だろうか。


「あ……。それは……ごめんなさい。私がお掃除できなかったばっかりに……」

「仕方ねぇだろ。お前は魔界の水、使えないんだから。それに、こういう雑務は下っ端にやらせるに限る」

「……そういう事なら、私は水を使わなくてもできるお掃除をするわ。掃き掃除なら、できるかな」

「お前はもう、掃除しなくていいんだよ。召使いは卒業したんだし」


 大体、お前は病み上がりだろうが。なんで、病人が掃除をしようとしてるんだよ。


「でも、しばらく体を動かさなかったし、ちょっと手持ち無沙汰だし……あの子達と一緒に掃除するのも楽しそう」


 あ、そうなるのか。確かに、しばらく寝っぱなしだったもんな。体を動かした方がいいのは、分かる気がする。……掃除が楽しいのかどうかは、知らんけど。


「そう言えば、あの子達はなんていう悪魔なのかしら?」

「あいつらはグレムリン。俺の配下の中でも、最下級の悪魔でな。生前人の物をイタズラ目的で奪ったり、損なったりした奴が欲望だけ残して闇堕ちすると、あぁなる。……と言っても、基本的に臆病でな。闇堕ちの理由から強欲に連なってはいるが、弱すぎて誰かのモノを奪ったりなんて芸当はできないし、魔界では無害な方だ」

「そう、なんだ……。色んな理由で闇堕ちした悪魔がいるのね……」

「まぁ、な〜。そんな風に闇堕ちしてきた奴を管理するのも、真祖の仕事らしいんだけど。俺はとっくに、そういう面倒な事は放棄しててな。だから……今の俺は真祖って呼ばれるのも、ちょっと違うのかもしれない」


 俺が頭を掻きながら、若干自嘲気味にそんな事を言ったもんだから、リッテルがどこか慰めるように背中を摩ってくれる。以前はこんな事を話す相手もいなければ、慰めてくれる奴もいなかったけど。……初めての暖かさが、嬉しい。


「それでは、私はあの子達に混ざってお掃除していますね。マモンは今日、どこかにお出かけするの?」

「とりあえず、大した用事はないんだけど……まぁ、ダンタリオンにちょっと話をしに行くくらいか」

「そう。それじゃぁ、お出かけの時は声をかけてね」

「あぁ。ま、しばらくしたら出かけるよ」


 声をかけてね……か。きっと、彼女は「行ってらっしゃい」と言ってくれるつもりなんだろう。空っぽだったはずの家で見送りの言葉をかけてくれる相手がいるなんて、想像もできなかったけど。これはこれで……悪くないな。

※コンタローの呟き No.04


 あい! 皆さまお元気でしたか? 相変わらず、モコモコでモフモフのコンタローでヤンすよ!

 ちょっとした大きさの話をしに、お邪魔しているでヤンす! よろしくです!

 えっと……じゃ、今日のお題、早速行くですよ!


『真祖の大きさについて』


 ……おいらでも分かりそうなお題できたでヤンすね。と言っても、ベルゼブブ様以外の正確な数値はよく分からないので、この場合も「魔界ガイド」に頼るです。


 う〜んと……まず、おいらがよーく知っているベルゼブブ様は179センチくらいですね。お頭ほどじゃないけど、ベルゼブブ様も背が高いと思うでヤンす。

 それで、よくベルゼブブ様のお屋敷にやってくるサタン様は266センチ、アスモデウス様は180センチでヤンす。……2人とも大きいでヤンすね。特にアスモデウス様は靴のヒールも高いから、余計デカく見えるです……。

 気を取り直して次は……リヴァイアタン様は147センチ、ベルフェゴール様は175センチ。……うん、この辺りは見た目通りな感じでヤンしょか?

 で、最後はマモン様ですけど……えっと、168センチなんですね。あっ、170ないでヤンスか……。もっと背が高いと思っていたでヤンすけど、こんなもんなんですね。

 って、そんな事を言ったら怒られてしまうです。特にマモン様は急に怒るし、怖いし……強欲の悪魔はみんな、威張りん坊で乱暴でヤンす。滅多な事は、言わないに越した事ないですね。


 と、とにかく! 今日もここまでお付き合いいただけて、嬉しかったでヤンす! ありがとうございました!

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