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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第7章】高慢天使と強欲悪魔
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7−44 とにかく愛なの!

「何と、ハーヴェン様とプランシー様、悪魔。それで、みんな同じ天使様と契約していらっしゃる。だけど、2人とも悪魔に見えない。嘘じゃないのですか?」


 ハーヴェンさんの提案に沿って、神父様がみんなの正体と関係性を明かしたけれど。アウロラちゃんは信じられないと、目を丸くしては代わる代わるに、みんなの顔を見つめている。


「えぇ、嘘ではありません。因みに、コンタロー君も悪魔なんですよ。彼はハーヴェン様の部下なのだとか」

「あい! おいらはウコバクっていう悪魔でヤンす。ウコバクのおいら達を纏めているのが、さっきのお頭でヤンすよ。あ、一応、言っておくとですね。お頭はエルダーウコバクっていう、魔界でもかなりの実力を持った、超大物でヤンす!」


 神父様に話を振られて、自信満々にアウロラちゃんにそんな事を答えるコンタロー。麻呂眉の凛々しさもちょっと戻ってきて、尻尾も満足げにブンブン振られている。久しぶりにそんな姿を見られて、心なしかホッとするけれど……コンタローを心配していたハーヴェンさんにも、この姿を見せてあげたい気がする。


「まぁまぁ、そうなんですの? しかし、私も少し信じられないというか……。あぁ、でも。そう言えば、マハ様の所にもモフモフの悪魔のお供がいると、お話があったような。もしかして……?」

「あい、そいつは同僚のクロヒメでヤンす。マハ様がどうしてもウコバクを貸して欲しいって仰ったので、特別に魔界から派遣しているでヤンす」


 どうやらクロヒメは、竜界でもちょっとした話題になっているみたいだ。カミーユ様にそんなことを言われて、また得意げに胸を張って答えるコンタロー。とても悪魔に見えないちんまり具合に、アウロラちゃんもカミーユ様も……そして、使者の人もどことなく嬉しそうにしている。


「あら、そうでしたの? 実はクロヒメちゃんを自慢されたとかで、主人が歯噛みしていたものですから。どこでそんな可愛い子を見つけてきたのやらと、思っていまして。クロヒメちゃんが来てから、マハ様のご様子が随分と朗らかになったと主人も喜んでおりましたわ。それはそうと……こちらの猫さんも、ウコバクという悪魔なのですか?」

「あ、違いますよ。俺達はケット・シーっていう魔獣族の精霊でして。俺はダウジャって言います」

「私はハンナと言います。同じマスターと契約しているご縁があって、旦那様のお屋敷に上がらせて頂いております。現在の魔獣界は非常に荒れておりまして……マスターが私達を保護してくださったのです」


 簡単な自己紹介をするダウジャと、しっかりとマスターや父さまとの関係性も説明するハンナ。ハンナはいつもながらの優雅な口調に戻っている。……さっきまで怒っていたのが、嘘みたいだ。


「魔獣族、初めて見る。悪魔も、初めて見る。あの、どっちかでいいから、モフモフしてもいいでしょうか?」

「あ……かっ、構いませんぜ。俺でよければ、抱っこさせてあげます」

「おぉ! 黒猫さん太っ腹。それじゃ、早速……ほわぁ……! この抱き心地、堪らない。カカ様、これは未体験の感動です。モフモフのお供がいるマハ様がとても羨ましい」

「あらあら、良かったわね〜、アウロラ。可愛い猫さんを抱っこできて」

「はい、この手触りの虜になってしまいそうです。ギノ様もいいけど、モフモフも捨てがたい……。あぁ、まさに至福……」


 さっき険悪な空気になったせいもあって、ハンナがちょっと怖い顔をしているのに気が付いたんだろう。ダウジャが珍しく、抱っこされてもいいなんて言ってくれているけど……あぁ、そうだよね。コンタローはエル専用だもんね。

 見れば、負けじとコンタローを抱っこしたエルが嬉しそうにしていて、コンタローの方も尻尾を振って楽しそうにしている。そうして2人が女の子達に抱っこされているのを……ちょっと寂しそうに眺めているハンナ。


「ハンナ、よければおいで。ハンナはモフモフというよりは、ツヤツヤだもんね」

「ぼ、坊ちゃん……!」


 両手を合わせて感極まったように、ハンナが僕の腕の中に収まる。ハンナの綺麗な銀色の毛並みは相変わらず、キラキラとしていて、これはこれで触り心地は抜群だと思うのだけど。毛足が他の2人より短い分、モフモフ加減は敵わないのかもしれない。


「それにしても、ゲルニカ様も契約されるほどの天使様となると、相当の実力者かとお見受けしますが……。どのようなお方なのでしょうか?」

「私達のマスターはルシエル様と仰いまして。6翼を持つ上級天使様でいらっしゃいます。見た目は小柄で非常に愛らしい姿をしておいでですが、神界でもかなりの実力者らしく、人間界の最重要区域の監視を務めているのですよ」

「ほぉ……なるほど。プランシー様やハーヴェン様も相当のレベルとお見受けしますし、契約主も一廉の人物ということでしょうか」


 神父様の答えに使者の人が感心したように、そんな事を言っているけど……マスターはどちらかというと、ハーヴェンさんのお嫁さんの印象が強いと言うか。実力者であることは、間違いないんだろうけど……。


「私もギノも、それでエメラルダもルシエルと契約しているの! でね、ルシエルはハーヴェンのお嫁さんなのよ?」

「……お嫁さんですか? プリンセス。えっと、天使が悪魔の……お嫁さん?」

「うん! 私もあんな風に、可愛いお嫁さんになりたい!」


 きっと、僕が考えている事を都合悪く読み取ったんだろう。エルがそんな事を暴露すると、微妙な空気に包まれて……その妙な空気を更に混乱させるようなタイミングで、ハーヴェンさん本人がお茶を淹れて戻ってきた。


「は〜い、お待たせ……って、お? どした?」


 勢い、自分に集中した視線の意味が分からないハーヴェンさんも、流石に困惑した表情を見せる。


「……僕達が同じマスターと契約していることや、種族についてお話ししていたんですけど……」

「悪魔の旦那、こちらの皆さんは……天使と悪魔の組み合わせが信じられないみたいですぜ」

「え? あ、えっと? プランシー、これどういう状況?」


 いつもスマートに状況を判断できるハーヴェンさんが、首を傾げているなんて。よっぽど想定外の状況なんだろうなぁ……。


「すみません。エルノアちゃんが勢い、ルシエル様がハーヴェン様のお嫁さんだとお話ししてしまいまして……。それは流石に、伏せておこうかとも思っていたのですが……」

「そうなの? 別に気にしないけど。ただ……ゲルニカとエメラルダはあまり驚かなかったから、今更そこに疑問を持たれるなんて、思いもしなかったな。ま、それは仕方ないか。確かに、天使と悪魔の組み合わせはあり得ないんだろうし。強いて言えば……愛の力でめでたく、ってところかな? 誰が納得しようとしまいと、こればっかりは仕方ないだろ。好きになっちまったものは、どうしようもなかったんだから」


 いつものカラッとした口調を取り戻し、みんなにミルクティーらしいお茶を配ってくれるハーヴェンさん。具体的な説明にはなっていないのに、何故か……その言葉はズシリと重い説得力があった。


「お待たせしました……おや? どうしたのかな? みんなでコンタロー君達を抱っこして……」

「あ、父さま! コンタロー、あったかいの! それで、ハーヴェンは愛の力なの!」

「……? え〜と、エルノア。それ、どういう意味だい?」

「ムゥ〜! とにかく愛なの! もぅ。父さまは本当、鈍感なんだから!」

「え、えぇ?」


 今度は父さまが戻ってくるけれど……。帰ってくるなり、明らかに色々と足りない説明で理解を迫られて、困った顔をしている。エル、それはちょっとあんまりだよ……。


「エルノア……今ので理解しろ、はいくらゲルニカでも無理だ。とにかくお茶も新しく淹れてきたから、お前も座れよ。エルノアの言ってることは、大したことじゃないから気にするな。それよりも……奥さん、大丈夫か?」

「あ、あぁ……ありがとう。テュカチアも少し落ち着いたみたいだ。それでなくても、色々と疲れていたんだろう。今は寝室で休んでいるよ」

「そか」


 ハーヴェンさんにも大したことないで流されて、エルがちょっとむくれた顔をしているけど。その様子がおかしいんだろう。みんながクスクスと笑って楽しそうにしている。さっきまでの重たい空気が和らいだように思えて、母さまも大丈夫そうだということもあり、僕は少しホッとしていた。


「さて、ではお話の続きですが……よろしいでしょうか」

「えぇ、お待たせしてすみません。是非、お願いいたします」

「と、申しましても……この先はフュードレチアが見つかってからのお話になるのですが。罰に関しては、相当に厳しいものになるかと思います。女王殿下とエレメントマスターの皆様の協議の上、決定されることかと存じますが……ゲルニカ様はお籠りの期間中でもあるため、お戻りになるまでの間に関して、あらかじめ決定権をどなたかに委任いただかなければいけません。大変申し訳ございませんが、決定権の委任状をいただけないでしょうか」

「承知いたしました。……委任先はエメラルダ様で問題ありませんか」

「えぇ、結構です。王族に連なる貴人でもあり、オフィーリア様の曽孫でもあらせられるエメラルダ様であれば、問題ありますまい」

「かしこまりました。では、早速……」


 大人の事情に踏み込んだ内容に、僕も思わず緊張してしまう。それでも、父さまは手慣れた様子で綺麗な文字を書面に綴ると、最後に手元に呼び出した立派な金印をサインの横に押印する。


「エレメントマスターの金印も含めて、確かにお預かりいたしました。それでは私はこれにて、失礼いたします。本日は興味深い話も含めて、色々とありがとうございました。この先にあることは、テュカチア様やエルノア姫にとっても辛いことになるかもしれませんが……ゲルニカ様。何卒、ご配慮とご助力をお願いいたします」

「もちろんです。何かあれば、私も最大限の対応をいたしましょう。……女王殿下にもよろしくお伝えください」

「かしこまりました。それでは、皆様。失礼いたします」


 最初から最後まで真面目だと思っていた使者の人が、ようやくちょっと微笑んで帰っていく。その様子につられるようにカミーユ様がアウロラちゃんに帰る支度を促すけれど……。


「ほら、私達も帰りますよ。アウロラ、さっきの約束はどうしたのです」

「あ、はい……エルノア様」

「うん? なぁに?」

「先程はとんだ失礼なことを申しまして、誠に申し訳ありませんでした……。酷いことを言って、ごめんなさい……」

「別にもういいの。私も大人になるってことがちょっと分かった気がするし、頑張らないといけないことも分かったし。それに! カッコイイギノが見られたから、満足だもん!」

「そ、そうなのですか? えっと、具体的にどのような?」

「うん! 叔母さまに悪いものを投げられた時に、私を守ってくれたの! それでね、地属性のさいきょまほう? をバシッと使って! もぅ、とっても格好良かったんだから!」

「さいきょまほう、じゃなくて、最上位魔法だよ……。しかも構築も未熟だから、まだまだだと思う……」

「ギノ様、最上位魔法をもう使える。ご謙遜する謙虚さも含めて……ますます、お婿さんにしたくなった」

「え、えぇ! ダメ! ギノは私のなの! 渡さないもん!」

「……私もそれ、同じ。だから、これからはギノ様を巡る恋のライバル。私、負けないように頑張る」

「わ、私も頑張るもん! 負けないもん!」

「結局、そうなるの? もぅ、2人とも仲良くしてよ……」


 未だに抱っこされたままのコンタローとダウジャが勢い、向かい合わせに突き合わされて、互いに困った顔をしている。そうして彼女達の様子を、嬉しそうに笑う大人達。

 2人の意地っ張りは治らないみたいだけど、それでも仲直りはできたみたいだし……これからもっと、みんなで仲良くできるといいな。

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