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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第7章】高慢天使と強欲悪魔
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7−39 心が未熟な者は大人になれない

 なぜかエルと一緒に、真剣な顔をしたアウロラちゃんが中庭にやってくる。ハーヴェンさんに言われて、こちらで大人しくして入れば巻き込まれないかな、なんて思っていたのだけど……。どうしてエル、アウロラちゃんを連れて戻ってきちゃったんだろう……。


「ギノ様。いても立ってもいられず、会いにきてしまいました。出会ったあの時から、寝ても覚めてもあなた様の事ばかりが思い出されて、寂しゅうございます。……あぁ。今日もこうして会えて、私、幸せでございます」

「あ、うん……アウロラちゃんは、どうしてそんなに僕のことを思ってくれるのかな……。出会ったのだって、昨日の今日だし、互いに何も知らないし……」

「運命です! それ以上の理由はございません」

「う、運命……」


 一途なのは、悪いことじゃないのかもしれないけど。僕にしてみれば、理由を運命で片付けられてしまうと、よく分からなくなってしまう。細かい理由があって、僕も納得できるのであれば、ある程度は断りようもあるのかもしれないけど……見えない基準で物事を測られるのが、僕はとても苦手だったりする。


「……アウロラが変な事を言うから、ギノも困っているじゃない。私はこれから、ギノに魔力コントロールのやり方を教えてもらうの。邪魔しないで!」

「魔力コントロール? エルノア様……まさか、そんな事もできないのですか?」

「ゔ……」

「魔力のコントロールは精霊として基本。その歳でできない、あり得ない。エルノア様、未熟。大人になれない未熟者はお嫁さんになる資格ない」

「そ、そんなこと……ないもん……」


 硬い表情でかなりキツい事を言い出すアウロラちゃんに、言い返せないんだろう。さっきまでの勢いが急に萎れるエル。そんなエルの様子が居た堪れないと、励ます言葉をすぐに見つけられないにしても……寄り添う事で何とか元気付けようと、コンタローがエルの足にピタリとくっ付く。……アウロラちゃんを睨みつけているのを見ても、コンタローはエルを応援するつもりのようだ。


「コンタロー?」

「お嬢様、負けちゃダメでヤンす。魔力コントロールの練習を頑張って、こちらのお嬢さんを見返してやるでヤンすよ」

「う、うん……だけど、私、本当に分からないの。魔力って、どう感じればいいの? どうすれば、大人になれるの?」

「お嬢様、それは自分で考える事ですぜ。大人になるのはそういうことも含めて、できるようになる事だと思いますよ。だから逃げちゃダメです。今度こそ、ちゃぁんと自分で考えて、頑張らないと」

「そうですよ! 何事もチャレンジですっ! 行動する前から、諦めちゃダメです!」


 コンタローだけではなく、ハンナやダウジャもエルの肩を持つつもりらしい。3人のモフモフが一様にエルを励まし始める。そして……きっと、その様子があまり面白くないんだろう。アウロラちゃんが更に厳しい事を言い始めた。


「でもエルノア様、今までそれすらしてこなかった。竜族は自分と向き合う事で、大人になる。それが未だにできていない、これから先も大人になれる可能性が低いという事。エルノア様、未熟なまま。未熟なままのエルノア様、大人になれない。エルノア様の父上や女王殿下も、さぞ落胆されるに違いない」

「ゔ、父さまやお祖母様は……そんな風に言わないもん……」

「言わないだけ。心の中でそう思っている。竜族は守護を務めとする、誇り高き一族。その竜族にあって、誰かを守ることを考えるでなく……自分のことしか考えてないエルノア様、竜族としても失格。……きっとテュカチア様のお子が生まれたら、見限られる。未熟なままの竜族、竜界にはいらない」

「……‼︎」


 そこまで言われて、大粒の涙を流しながら……声も上げずに泣き始めるエル。


「エ、エル! 大丈夫だから! 父さまも女王様も、きっとそこまでは……」

「……ギノ、困ってる……。ギノもそんな風に思ってる……知ってたもん。……みんな、私のこと子供だって思ってる……ワガママだって思ってる……。知ってるもん……分かってたもんッ!」


 とうとうグシャグシャに泣きながら、最後は叫ぶように言葉を吐き出すと、ドラゴンの姿に変身して空に飛び上がるエル。どこに行くつもりなのかは分からないけど、とにかく後を追わないと!


「ごめん、みんな! ハーヴェンさんと父さまに伝えてくれる? 僕はエルを追うって!」

「あぁぃ!」

「わ、わかりやした!」


 素直に返事をするコンタローとダウジャを尻目に、かなり怒っているらしいハンナがアウロラちゃんに噛み付く。……この辺りはハンナが1番、敏感みたいだ。


「それにしても、こっちのお嬢さんは随分と酷い事を言うんですね? お嬢様が可哀想でしょ⁉︎」

「いずれは誰かが言わないといけない事。竜族はそうして大人になる。心が未熟な者は大人になれない。甘やかされて育ったエルノア様、このままじゃ大人になれない。竜界の魔力は無限じゃない。大人になれない竜族はやがて間引かれて……ドラグニールに捧げられる」

「……間引かれるって、どういう事……?」

「ギノ様もそれ、知らない。だったら、教えてあげる。……エレメントマスターは竜族の数も調整してる。最近、本性を持たずに生まれてくる子供が出てきている。その子供達、しばらくしても本性を持てない、つまり……心も未熟なまま成長できない場合は、やがて理性すらも失って死ぬしかない。……親が子供を殺すのは、とても辛い事。だからエレメントマスターが代わりに理性を失って魔物になった子供達を、できるだけ苦しまない方法で殺している」


 子供達を……殺す? それ……嘘、だよね?


「トト様もゲルニカ様も、そして長老様もマハ様も……涙を流しながらそれ、やってる。竜族の大人はそういう事もできないといけない。……大人になる、とても辛い事。でも子供のままでいる事を許されるほど、竜界は甘くない。この世界は竜族に対して、とても優しくない。だから、大人達は子供にはとても優しい。……竜族が優しいのは、その裏返し。でも、優しさに甘えたままだと、優しさに溺れて死ぬしかない。エルノア様、一応、本性持ってる。だけど、このままではいずれ見捨てられる。……ゲルニカ様も女王殿下も優しい。でも、その優しさでエルノア様を最後まで庇えるほど、竜界……ドラグニールは甘くない」


 父さまはそんな素振りを見せた事も、話してくれた事もなかったけど……。ただ、竜族は理性を失うと処刑されてしまうことだけは、何となく聞いていた。その延長線上に、子供を間引くという事実が転がっていて……この竜界にそんな厳しい現実があったなんて、思いもしなかった。


「だったら、ますますエルを探さないと。そして今度は……もっと粘り強くコントロールの方法を教えてあげなきゃ」

「どうして? ギノ様、どうして……そこまでする?」

「……エルはワガママだし、未熟かもしれない。だけど、僕の命を繋いでくれた大事な相手である事も、間違いないんだ。僕はきっと、エルが殺されなければいけない事になったら、必ず後悔するだろうし、それを防げなかった自分を一生許せなくなってしまう。……だから、ごめん。僕はエルを探してくるから、みんなは先に戻ってて」

「あぃ! 坊ちゃん、気をつけて」

「旦那達にはちゃんと伝えておきますから、こっちは心配しなくていいですぜ」

「……お嬢様が飛び出した原因が、こちらのお嬢さんだという事も伝えておきますっ! 言い分はご尤もなのかも知れませんが、傷つけていいわけじゃありません。それが分からない時点で、アウロラ様も随分とお子様だと私は思います」


 妙にアウロラちゃんに突っかかるハンナにちょっとやり込められて、アウロラちゃんも少し冷静になったみたいだ。少しオドオドとした表情を見せた彼女が、ようやく僕達と同じ年頃の女の子に見える。


「う、そうなのか?」

「えぇ。私はそう思いますよ?」

「そ、そうか……私、言い過ぎた。エルノア様戻ってきたら、ちゃんと謝る」

「そうですね。そうした方がいいと思います!」


 ハンナが思いの外、プリプリと怒っているのが気になるけれど……。今はエルを探す方が先だ。多分、向かった先は女王殿下のところだと思うけど。……エル、大丈夫かな。

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