7−20 誰だって、一度や二度は間違えるもんだろ?(+おまけNo.3)
リッテルの痕跡を探しにきていただけなのに。そこには運悪く、見慣れない先客がやって来ていた。しかも……ご厄介な事に、相手はかなりの実力を持つ悪魔だったらしい。悪魔は天使と見れば、裸足で逃げ出すもんだと思っていたのだけど……相手は天使すらも小馬鹿にするように、若い見た目とは裏腹に、余裕の風格を醸し出している。ゔ……あまり、考えたくなかったけど。そこは流石、大物悪魔と言ったところなのかも知れない。
「……さって、ちょっと本気で行くぞ。安心しろよ。お前ら程度だったら、まとめて一瞬だから。きっと気づいた時には、胴体と頭が分離しているさ!」
「頼むよ、アンヴィシオン! ボクの魔力をジャンジャン使っていいから、最大限の攻撃を!」
とにかく、ここは乗り切らないと……!
ボクの魔力をかなり受け取ったアンヴィシオンから、幾重もの光の矢が打ち込まれる。その数、多分数百発。にも関わらず……彼は両の手に携えられた武器で、光の弓矢さえも簡単に撃ち落としながら、あっという間に距離を詰めてくる。
「……クッ‼︎」
「さっきの攻撃もまぁまぁだったけど……なるほど? その武器、魔法を自動発動するんだな。へぇ〜……やっぱ、天使ちゃんはいいもん持ってるなぁ」
余裕の表情で軽口を叩きながら、彼はアンヴィシオンが展開していた防御魔法を器用に2本の刃を十字に滑らせて、アッサリと打ち砕いてくる。そうされて続け様に放たれる斬撃を、アンヴィシオンの本体で何とか受け止めるものの……。
「嘘……ッ⁉︎」
たったの1撃を受けて、神鉄レベルに硬いはずのアンヴィシオンに深い傷が入っているのが見える。これは……いよいよ、冗談抜きでマズい? ここはとにかく、話し合いで解決した方がいいかな……。彼が話を聞いてくれれば、だけど。
「……まさかアンヴィシオンの攻撃を突破して、本体に傷をつけてくる奴がいるなんて……。あぁ〜、もう分かったよ。降参。君の探し物のベルなんだけど、リッテルのベルはガラス製だったから、壊れてて使い物にならないよ。それでも持ち帰るかい?」
「そっか。壊れちまってるんなら、仕方ないな……。使い物にならないんだったら、いらねぇよ」
「そう。それじゃ、取引と行こう」
「あ?」
「ボクとしては、リッテルの無事が確認できれば、それで良かったんだけど……君の話だと、彼女の状態はあんまり良くない、と」
「さっきから、そう言ってるだろーが。だから、お前達をぶった斬ってベルを頂戴しようってなったんだろ?」
「あ、ゴメンゴメン。そうだったね。とは言え、ボク達も当然、死にたくないんだよ。だから、ボクの持っているベルをあげるから、許して。それでどう?」
「……ふぅ〜ん。だから命ばかりはお助けを、ってか?」
「うん、まぁ……そう言う事、なんだけど……」
「あのさぁ。お前、バカなの? 取引ってのは、対等な立場の奴同士でするもんなの。俺の方は正直、お前さん達を殺すのも訳ないし。その上でベルを奪えばいいんだから、俺はそっちでもいいんだけど」
相手もバカじゃないか。そうだよね……だけど、このままだと間違いなく全滅じゃないか。さて、どうしようかな。
ボクが考え込んでいると……ティデルの傷の手当をきちんと終えたリヴィエルが、横からオプションの提案を乗せてくれる。
「でしたら、私が魔界に行って、リッテルの傷や病気を治しましょう。こう見えて、私は回復魔法を一通り使えます。いかがですか?」
なるほど。それだったら……リヴィエルが生きていないとできない事だし、全滅は回避できそうかな? さっすが、オーディエルのところの切れ者は違うなぁ。
「……却下。下手にポイントを打ち込まれて、ポータルの基準点を作られても困るし」
だけど……相手も一廉の悪魔らしい。リヴィエルの折角の提案を、事も無げに撃ち落としてくる。
「用心深い、ですね……。私はポータルの基準点を作るタイプの転移魔法は使えません。そんな芸当はできませんよ」
「言われたことをハイ、そうですかって信用するとでも? ……ま、いいや。俺もだんだん面倒になってきたし、この際、代わりのベルで手を打ってもいいか。その代わり、そこの大天使。ちょっと聞いてもいいか?」
「え? あ、何?」
深いため息をつきながら、2本の武器を宙に浮いている鞘に収めると、彼の方はボクに質問があるらしい。少し首を傾げながら、こちらを見ている顔には……さっきの背筋が凍るような嘲笑は残っていない。
「やっぱ、リッテルは神界に帰ると……お仕置きされるのか?」
「うん、多分ね。リッテルの行為の重大さと危険性を考えると、翼2枚程度では足りないくらいの懲罰になると思う」
「そっか。……それって、時効とかあったりするの?」
「ないかな。君も知っての通り、天使に寿命はないもの」
「たった一度の失敗で……なんで、そこまでされないといけないんだ? 誰だって、一度や二度は間違えるもんだろ?」
「リッテルがどこまで君に話したのかは、知らないけど……実際のところ、リッテルの間違いは一度や二度じゃないんだよ。リッテルは再三の忠告を無視して、仕事に失敗した挙句に、個人的な感情で神界のシステムをダウンさせたんだ。神界の規律を根底から無視するその行為を、見過ごすことはできない」
「で、その規律を守るために……1人を寄ってたかって傷つけてもいいのかよ? ……多分な、リッテルは罰が怖くて帰りたがらないんじゃない。他の奴らに後ろ指指されて笑い者にされるのが、何よりも嫌なんだよ。さっきのチビブスの言い方を聞く限り、そんな風に馬鹿にされるのが……耐えられないんだと思う」
悲しそうに呟く彼の表情は……作り物じゃなさそうに見える。あぁ、そっか。この人、心底リッテルのことを心配してるんだ。
「あ、そう言えば。まだ……名乗ってなかったよね。ボクはミシェル。一応、神界では大天使をやってるよ。ほら、これ。約束のベルだから、受け取って。言っとくけど、こいつは大天使用の特注品だから。性能も高レベルだし、頑丈だし。超レア素材の魔力銀でできている、最高級品だよ。……きっと、魔界の瘴気にも負けないと思う」
自分の腰に付けていたベルを上空に放り投げると、ちゃんとキャッチする悪魔。しっかりと白銀の魔法道具を受け取った手元を確かめて……少し、嬉しそうな顔を見せる。
「……確かに受け取った。それじゃ、俺は帰る。もう会うこともないと思うけど。次に楯突いたら、命はないと思えよ」
「あ、待って。最後に1つずつ、質問とお願いをしてもいい?」
「あ?」
「君……もしかして、マモンって言ったりする?」
「……だったら、何?」
「あぁ、道理で。めちゃくちゃ強いと思ったんだよねぇ〜。流石にルシフェル様クラスともなると、格が違うというか。こうも歯が立たないとは、思わなかったよ……」
「あっそ。お前さんにそんな事を言われたところで、何にもならないんだけど。ま、いいや。……で、お願いって?」
「ボクも君の言う通り、リッテルは罰から逃げてるんじゃないと思う。……でも、ボクが言うのもなんだけど、神界っていうのは女しかいなかったりするせいで、結構ドロドロしててね。このまま帰ってきたら、リッテルはとても辛い思いをするだろう。自業自得と言ってしまえば、それまでなんだけど。きっとその仕打ちは……罰を受ける以上に苦しいものだと思う。だったら……このまま魔界で暮らしている方がいいのかな、なんて考えたりもするんだ。でも、これでボクも大天使だからね。責任を放棄するわけにもいかなくて。だから、彼女に伝えてくれる? もし罰を受ける覚悟ができたなら、神界に帰っておいで。ラミュエルも心配してるよ、ってさ」
「……わぁーったよ。ラミュエルとやらが誰かは知らないけど、そのくらいは伝えてやるよ」
クルリと背を向けると……片手を振りつつ、いとも簡単に構築したポータルで帰っていく悪魔。魔界の大悪魔ともなると、この程度もお茶の子さいさい、と言ったところなんだろう。
「よかったのですか?」
「うん?」
そんなマモンの背中を見送った後、リヴィエルが小声で呟く。
「……仕方ないでしょ。だって……あのままモタモタしてたら、冗談抜きで皆殺しだったと思うよ? 魔法1つ使ってないのに、あの実力だもん。それにね……ボクとしては、これが今の所ベストかな、なんて思うよ」
「ベストですか?」
「だって彼の言う通り、帰ってきたらリッテルは間違いなく、辛い思いをするもの。そうならないように、ちょっと考えるけど……決定事項によっては、お仕置きで本当に死んじゃうかもしれない。そんなことになったら、リッテルも辛いだろうけど、彼女以上にラミュエルが立ち直れなくなっちゃうよ。だったら今は、彼女にはリッテルは無事だってことと、意外とマモンは悪い奴じゃなさそうだ、って事を伝えてあげた方がいいと思う」
「そう、ですね……。確かに、このままではラミュエル様の方も心配ですね」
「でも〜、リッテル先輩にはお仕置き、必要ですよね?」
「まぁ、それはそうなんだけど……。あぁ、そうそう、ティデル。必要以上に誰かを馬鹿にするのは、やめよう? リッテルがやらかしたことは自業自得だし、間違ったことだとは思うけど、だからって……一方的に誰かを蔑んだり、馬鹿にしていいわけじゃないんだよ。そんなんじゃ、君の尊敬する師匠には遠く及ばないんじゃないかな」
「ゔ……。ハイ、すみません……」
少し厳しめに言うと、しょぼくれて肩を落とすティデル。リヴィエルがいてくれたから、彼女の右腕はくっついたんだろうけど。軽口が原因で大怪我した事を、この子は分かっているんだろうか。
「にしても、悪魔ってやっぱり……みんな、イケメンなのかな?」
「あ、ミシェル様も気づきました?」
「うん。さっきのマモンって奴……危険な香りがしたけど、それが却ってたまらない、っていうか。超刺激的な感じがする。特に、胸元のセクシーな感じが痺れるぅ! ボクも悪魔に攫われてみたい!」
「お願いですから、ミシェル様まで攫われないでください……。とは言え、マモンもハーヴェン様とは違った意味で魅力的でしたよね。ハーヴェン様みたいな優しさはないけど、ワイルドというか。ちょっと強引な感じに、クラクラしそうです……!」
「……ハーヴェン様に相談して、魔界に連れて行ってもらおうかな……」
「その時は是非、私もお伴します……」
「あ、私も連れて行って欲しいです〜!」
「よっし。今度、相談してみよう、っと。さ、ボク達はとりあえず神界に引き上げるか。ティデルは報告書を作ってから帰ってくるんだよ。いいね?」
「は〜い!」
最後は元気に返事をして塔に帰っていくティデルを見送った後、その辺のドアにサンクチュアリピースを差し込んで神界への帰り道を開く。もう会うこともないと思うけど、なんて言われちゃったけど。ボクとしては……もう一度、マモンに会ってみたい。
※コンタローの呟き No.03
みなさま、お晩です。
モコモコ担当のコンタローでヤンすよ! 今回もちょっとした「大きさ」についてのお話をするでヤンす。よろしくです。
で、今回のお題は……。
『カーヴェラについて』
……って、言われましてもねぇ。おいらもこの街は好きでヤンすけど、そんなに詳しい訳じゃ……。仕方ない。今回はゴラニアのツアーガイドから知恵を借りるでヤンす。
えぇと……カーヴェラはルクレスの首都でして、時計台を中心に4本の大通りで区画が分かれているみたいでヤンすね。ルクレス最大の都市であると同時に、ゴラニア大陸の貿易都市とも知られ、クージェ帝国の首都・クージェリアス(?)の次に大きな街らしいでヤンすよ!
(とか言いつつ……おいら、クージェリアスは知らないでヤンす……)
あとですね、カーヴェラは芸術都市としても有名でして。おっきな美術館がブルー・アベニューにあって、他の地方の貴族様方もたくさんやってくるんだそうでヤンす! それにしても芸術でヤンすか……。おいらも、お頭の絵を描いてみようかな。
今回もここまで読んでくれて、嬉しかったでヤンすよ〜! それではみなさま、またの機会にお会いするでヤンす。
ありがとうございましたです!




