7−3 1つの拠り所
「そう言えば、マスター。えっと……」
「うん? どうしたの、ギノ」
食事が大分進んだところで、ギノがルシエルにおずおずと話しかける。その表情はどことなく、不安げでありながら……それでいて、使命感に燃えているようにも見えた。
「……神父様のこと、ありがとうございました。マスターが神父様を連れて来てくれるために、魔界で……神父様の気持ちを受け止めてくれたおかげで、僕はこうして神父様にもう一度、会うことができました。僕だけ生き残ってしまったことが、無駄じゃなかったこと……僕が生きていることを後悔しなくていいことに、やっと答えが出た気がします。本当に……本当にありがとうございました……」
そう言いながら、深々と頭を下げるギノ。その横で、彼の様子を伺いながらプランシーも頭を下げる。
「今、思えば……魔界では大変失礼を致しました。全てを失ったと思っていた私に、最後の望みを残して下さっていた方に……私はとんでもないことをしてしまうところでした。ギノを助けて下さって、本当にありがとうございました。そして……私はこの怒りを受け止める覚悟を示して下さったあなた様に、この先も誠心誠意尽くすつもりです。何かと、ご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが……今後ともよろしくお願いいたします」
ギノが帰って来てから懇々と2人で話をしていた中に、魔界での顛末も含まれていたらしい。おそらく……この先もそ怒りが枯れることはないのだろうが、ギノの存在はプランシーにとっても1つの拠り所でもあるはずだ。きっと……ギノのとりなしもあるのだろう。今の状態を見る限り、プランシーのルシエルに対する印象は随分と良くなった気がする。
「……元はと言えば、あなた達に辛い思いをさせてしまったのは、私達が予兆を摘むことができなかったからです。……今更、遅いのかもしれないけれど、これからはこれ以上あなた達に辛い思いをさせないように……こちらも最大限頑張るつもりです。だから、ギノにコンラッド。私の方こそ、至らない部分もたくさんあると思うけど……こちらこそ、改めてよろしくお願いいたします」
そう言って、嫁さんの方も丁寧に頭を下げる。こういう時は無駄な口を挟む必要はないと思うし、見守るに限ると思うのだが、なんと言うのだろう。とにかく俺の方は……こうして食卓を一緒に囲むことができるのが、何よりも嬉しい。
「マスター! 俺も一生付いて行きますぜ!」
「も、もちろん、私も精一杯頑張りますっ」
そんなギノとプランシーの様子に、何やら焦ったらしい。慌てて、ケット・シー達も名乗りを上げる。ちゃんと輪に加わって、忘れられまいとする健気さがなんだか可愛い。
「うん、ありがとう。2人とも、これからもよろしくね」
そして、そう返事をしながら……自然に微笑むようになった嫁さんの表情に、言いようのない充足感を覚える。以前は必要以上に恥ずかしがって、まごついていただけなのに。ルシエルさんも随分と、お変わりになったよなぁ……。




