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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第6章】魔界訪問と天使長
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6−38 絶対、違う気がする

 父さまが疲れた顔で戻ってくる頃に、ようやくエルもお昼寝が終わったらしい。ちょっと寝ぼけた顔をして部屋に入ってくるけど、何だか足取りが怪しいし……大丈夫なんだろうか。


「あぅぅ、おはようございます……」

「おはよう、にしては随分遅い気がするが……まぁ、いいだろう。とにかくエルノア、調子はどうだい?」

「うん、そんなに悪くはないと思うの……あ、ギノ! 今日は来てくれたの⁉︎」


 少し寝ぼけた様子でも、エルは僕にしっかり気づいたらしい。目が合った途端に嬉しい顔をされると、こちらに来てよかったなんて思ってしまう。


「うん。今日はハーヴェンさんから、おやつももらって来たよ。エルの分もちゃんと取ってあるから、落ち着いたら食べたらいいんじゃないかな」

「うん……。でもやっぱり私、ハーヴェンのご飯も食べたいよぅ……。おやつもだけど、ハーヴェンのスープが飲みたい……」

「そっか……あ、だったらハーヴェンさんにこっちに来る時に頼んでみるよ。実はね、ハーヴェンさんに父さまがお茶を美味しく淹れられるように、教えてもらえるように頼むつもりなんだ。だから、一緒にスープも作ってもらえるようにお願いしておこうか?」

「本当⁉︎ ハーヴェン、こっちに来るの?」


 そう言って、キラキラした瞳で嬉しそうにするエル。でもハーヴェンさんに会いたいのは……エルだけじゃないらしい。言葉こそないものの、母さまのお腹の上で丸くなっているコンタローも嬉しそうに尻尾を振っている。


「できれば、早いうちに来てもらえるようにお願いするつもりだから」

「うん! にしても、父さま……お茶、淹れられないの?」


 きっと、バツの悪い思いをしている父さまの様子を嗅ぎ取ったのだろう。エルが追い討ちをかけるように、父さまに詰め寄る。


「あ、あぁ……お茶は母さまにお願いしていたからね……。でも、明日から母さまに無理はさせてはいけないし、私がお茶を淹れる事になったのだが……」

「いい事、エルノア。普段からお婿さんになる人には、ちゃんとお茶を淹れてもらえるように訓練してもらわないといけませんよ。父さまみたいに魔法書に夢中で、必要な事もできないような旦那様にしてはいけません」


 父さまがしどろもどろで言い訳しているのを、ピシャリと母さまが遮る。


「テュカチア……それ、まだ蒸し返すのかい?」

「当然ですわ。母様にまであんな風に言われたのですから、心を入れ替えて私を優先してくださいまし」

「……そうだね。しばらくは屋敷にいられるのだし、これを機に……私も少しは家のこともできるようになった方がいいかもしれないな」


 ため息交じりに、父さまが呟く。それにしても、父さまは魔法以外の事はからっきしだったんだなぁ……。


「ですって。エルノア、聞いた? 父さま、明日から頑張ってくれるんですって」

「うん! 聞いた聞いた! だったら、私も今から将来困らないように、ギノにお茶の練習をしてもらう事にする!」

「えっ、僕?」

「だって、私、ギノ以外の男の子知らないもん」

「いや、そんな簡単な理由で決めちゃダメだよ……。これから先、エルにはもっと相応しい人が見つかるかもしれないよ? 相手が僕じゃ、あまりに不釣り合いだよ」

「そんな事ないの。だから、ギノ。明日もこっちに来て欲しいの。それで、お祖母様にも一緒に会いに行くの!」

「話が繋がらなくて、僕どうすればいいか、分からないよ……。どうして、女王様に会いに行く必要があるの⁇」

「……だって今日、お祖母様こっちに来てたんでしょ? 私も久しぶりにお祖母様に会いたいもん。それで、ギノのこと将来のお婿さんだって報告するの!」

「えぇ〜⁉︎」


 さっきもこんなやり取りをした気がするんだけど……。どうして竜族の女の人はみんな、強引なんだろう……。


「エルノア、ギノ君が困っているだろう。今からそんな事を無理やり決めなくてもいいんだよ。お前達はまだ子供なんだから、これから先のことはじっくり考えればいいだろう。それにしても……さっきからギノ君も本当に済まないな」

「い、いえ……。でも、何か妙にみんな焦っているというか……。そんなにお婿さんって、すぐに決めないといけないものなんですか?」

「そうだね。本人はともかく……メスの子供を持つ親は、かなり神経質になっている部分はあると思うよ。知っていると思うが、竜族はオスが極端に少なくてね。婚姻自体はオス側からの求婚をメスが受けることで成立するのだけど……当然ながら、アプローチが全くない者も多い。竜族にとって種の継承はとても大切な事なんだけど、お婿さんがいなければ種を存続できないからね。だから、メスはみんな……お婿さんの確保に必死なんだよ」


 竜族はオスがとにかく少ないって、マハさんも言っていたけど……。そんなにみんな必死なんだ……。


「うぅ……ギノは私の事、嫌い?」

「別にそういうわけじゃないけど、結婚ってなると……ちょっと違う気がするんだ。父さまの言う通り、僕達にはまだ早い気がするし、それにエルは女王様の孫娘でしょ? 相手が僕でいいとは、とても思えないんだけど……」

「そんな事ないと思いますぜ? 坊ちゃんは子供かもしれないけど、中身は立派な紳士だと思いますし。ちょっとワガママなお嬢様のお相手にはピッタリだと思いますけど」


 興味津々で話を聞いていたかと思うと、したり顔でダウジャがそんな事を言い出した。


「ダウジャ! またそんなことを言って!」


 そして、いつも通りにハンナが窘めるけど……。


「でも、姫様もそう思いませんか? 坊ちゃんとお嬢様はお似合いだと、俺は思いますよ?」

「た、確かに……そう言われてみれば、そうかもしれないけど……。そうね、しっかり者の坊っちゃまであれば……ちょっとお嬢様がワガママを言っても安心かしら……」

「ムゥ! 私、ワガママじゃないもん!」


 彼らの中でワガママキャラが確定しているのに、不服そうに頰を膨らませるエル。でも……僕もちょっとそう思っていたりする。


「ほらほら、とにかくこの話はここまでにしよう。エルノアはしっかり、コントロールの練習をしなさい。人間界にお邪魔したいのであれば、きちんとできるようにならないといけないよ」

「分かってるもん……」


 結局、父さまが話を纏めてくれるけれど。僕自身はどうしたいのか、分からないでいる。恋をしてみたいなんて、ぼんやりと思っていたけど。恋って、どうやって始めたらいいんだろう。……今度、ハーヴェンさんに聞いてみようかな。


「……それでは、僕達はそろそろ向こうに帰ります。ハーヴェンさんにも今日のことお願いしてみますし、ハーヴェンさんが来れなくても……僕はこっちにお邪魔したいと思います。それで……とりあえず、明日は一緒に女王様の所にお出かけしよう? だからエル、機嫌を直して。それと、ちゃんともっと早く起きてこないとダメだよ?」

「うん! 私、頑張るの。だから、ギノはそれまでに私のお婿さんになってくれるか、決めておいてね!」

「え、それ……明日までに決めないと、いけないの?」

「もちろん! だってそうしないと、他の人に取られちゃうかもしれないじゃない!」


 どうしよう。明日までにそんなこと、決められないよ……!


「コラコラ、エルノア。そんなことを無理強いしては、いけないよ。ギノ君の気持ちをちゃんと考えてあげられないようでは、お婿さんになってもらうのは難しいんじゃないかな。ギノ君のお嫁さんにして欲しいんだったら、エルノアも頑張らないといけないだろう? 相手にばかり、求めすぎてはいけない」

「うぅ……でも母さまは父さまにワガママ、一杯言ってるもん。母さまは良くて、エルノアはダメなの?」

「それは母さまは父さまのお嫁さんだからよ? それに、母さまは父さまを困らせない程度のワガママを言っているだけですもの。ギノちゃんにお婿さんになってもらうには、エルノアの方もちゃんと、ワガママの言い方を覚えないとね?」

「そうなの?」

「そうなの」


 絶対、違う気がする。父さまもきっと、そう思っているのだろう。……もの凄く怯えた表情で母さまを見つめている。父さまも、これから1ヶ月本当に大変だろうなぁ……。僕も少しお手伝いできるように頑張らないと……。

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