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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第6章】魔界訪問と天使長
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6−13 お礼の総攻撃(+番外編「モフ撃座談会」)

 ベルゼブブの屋敷には可能な限り、足を踏み入れたくなかったのだが。ハーヴェンの親の住まいである以上、避けて通れないと覚悟する。しかし、今日はオーディエル様がどんな反応を示すかも不安で……それはハーヴェンも一緒らしい。悪魔の姿だとあまり表情は見えないのだが、彼がなんとなく困っている顔をしているように思える。そんなちょっと困っているらしい彼が一呼吸おくと……さも仕方ないと、屋敷のドアを開いて私達を招き入れた。


「かなり悪趣味な場所だけど、中にどうぞ。……子分達は元気かなぁ?」

「子分って……もしかして、ウコバクの事ですか?」

「あ、あぁ……今は6人のウコバクがこの屋敷で仕事をしているんだけど。しっかり者のクロヒメがいないから、心配でな……」


 そんな事をオーディエル様に答えつつ、頭を掻くハーヴェンの後に続いて相変わらず、奇妙な配色の廊下を進む。刺激的な色合いに馴染めないまま、しばらく歩みを進めていると……ハーヴェンの気配に気づいたらしい。途中の部屋から、ウコバク達がワラワラと出てきた。


「お頭ぁ〜、お帰りなさいませ〜」

「会いたかったですよぅ、寂しかったすぅ!」

「お、ただいま〜。お前達、ちゃんと仕事してたか〜?」


 ハーヴェンの問いに、6人が一斉に元気に返事をする。みんなピョコピョコと跳ねて、尻尾を振っている様子がこの上なく可愛い。


「あ……お頭。ところで、そちらの天使様が姐さんですか?」

「どっちが姐さんですかぁ? 両方?」

「いや、両方はないだろう……」


 そのうちの何人かが私達に気づいたらしく、ハーヴェンの影からこちらを窺っている。前回の差し入れ効果で警戒心は薄れているみたいだが、まだ怯えている様子を見る限り……あまり手放しで歓迎されていない気がする。


「あ、分かった! ちっちゃい天使様の方が姐さんですよね⁉︎」

「お? アイジロー、どうして分かった?」

「姐さんはぺったんこだって、ベルゼブブ様から聞いていましたです。だから、ぺったんこの方が姐さんですぅ!」

「あっ、そういう事……」

「ぺ、ぺったんこ……」


 しかし、そんな警戒されているらしいウコバクからもぺったんこ呼ばわりされて、妙に悲しくなる。いい加減、そこは触れないでもらえないだろうか。


「そんな事を言ったら……嫁さんからおやつ、もらえなくなるぞ?」

「え、おやつ? 天使様からおやつ、もらえるんでしゅか?」

「うん。今までお前達に小魚を用意してくれてたのは、他でもない嫁さんなんだ。だから、あんまり失礼な事を言うと、ご褒美がなくなっちまうぞ〜」

「えぇ〜、それは嫌ですぅ! と、とにかくすみませんでしたぁ〜!」


 ハーヴェンがわざと意地悪く言うと、彼の影に隠れていたウコバク達がようやく転がるようにこちらに出てくる。


「ハイッ! 全員整列! 折角だから、嫁さんと天使のお偉いさんにお前達を紹介するぞ〜! 番号!」


 何やら軍隊っぽくハーヴェンが号令をかけると、6人がピシリと1列に整列して番号を声に出す。2番と6番が欠番なのは多分、コンタローとクロヒメの分なのだろう。


「それじゃ、ルシエル。すまないけど……順番にお土産あげてくれないかな」

「あぁ、いいよ。……今回に限り、ぺったんこと言われたことは水に流してあげる」

「……だ、そうだ。そんな心優しい嫁さんから、お土産の授与を行いま〜す。順番に呼ばれた者から、ルシエルのところに行っておいで。まず1番、ウルシマル! 3番、アオスケ!」


 番号と名前を呼ばれたウコバクが私の足元にやってくる。そうしてワクワクした様子で、ウルウルの瞳で見上げられると……大抵の事は許してしまいそうだ。


「はい、それじゃ。竜界産の小魚だよ。大事に食べてね」

「あ、ありがとうございましゅぅ!」

「1袋丸ごともらっていいんですか?」

「うん、今回は人数を把握できてたからね。だから、1袋ずつ用意したよ」


 私が何気なく答えた途端に、激しく尻尾を振って嬉しさを前面に出されると……こちらもつられて嬉しくなる。


「はい、次! 4番ヒスイヒメ、5番スミノジョウ!」


 続いて呼ばれたウコバク達にも、同じようにお土産を手渡す。どうやら、ヒスイヒメは女の子らしい。モコモコの頭に青いリボンをしていて、それがまた可愛い。


「はい、最後に。7番ルリサブロー、8番アイジロー!」


 いよいよ最後の2人にも小魚を渡してやると、みんな目をキラキラさせて口々にお礼を言ってくれる。そうして6人に小魚が行き渡ったのを確認すると……ハーヴェンは更に何かをしでかすつもりらしい。彼らをもう一度整列させると、高らかにヘンテコな攻撃命令を出してきた。


「ハイっ! 全員傾聴! 今から天使殿2名様に、お礼の総攻撃を仕掛けます! なお、大きなお姉さんの方は神界最強の天使様です! 心してかかるように!」

「え、え?」

「な、何が始まるんだ⁉︎」


 ハーヴェンのよく分からない命令にも関わらず、当のウコバク達は何かを心得ているらしい。受け取ったばかりの小魚の袋を足元に置くと、前にピョコンと飛び出す。


「総員、位置につけ! ……3、2、1……全力でモフ撃〜‼︎」

「モ、モフ撃⁉︎」


 ハーヴェンの掛け声と同時に、甲高い子供のような声をあげながら、こちらに飛びついてくるウコバク達。そして驚く間も無く、ウコバクまみれにされる私とオーディエル様。

 こ、これがモフ撃……! なんて暖かく、ゆるい攻撃なんだろう……! しかも、めちゃくちゃ癒されるッ!


「ハイ! 総員、撤収〜!」


 しばらく私達をもみくちゃにした後、ハーヴェンの掛け声と同時にウコバク達が楽しそうに撤収していく。見れば、頬を紅潮させたオーディエル様もモフ撃を存分に堪能したらしい。


「モ、モフ撃……! なんと心地よい攻撃なのだろう……! 病みつきになってしまいそうだ……!」


 圧倒的なモフモフの暴力に思わずうっとりしている私達を他所に、ハーヴェンがウコバク達に仕事に戻るよう促している。ハーヴェンがまたいなくなってしまう事を残念がりつつ、そこはお頭と子分という事なのだろう。彼らはハーヴェンの話をきちんと聞き分けて、持ち場に戻るようだ。


「姐さん〜! 今日はありがとうございました〜!」

「またいらした時は、小魚お願いしますぅ!」


 最後にちゃっかり小魚のお願いを欠かさないところにあざとさを感じつつ、手を振りながら快諾する。またそのうち、お土産を用意しておこう。

【番外編「モフ撃座談会」】


「アイジロー、ところで……」

「えぇ、どしたの、スミノジョウ? 何かあった〜?」

「お前……姐さんの胸に真っ先に抱きついてたろ? あれ、お頭的にはアウトなんじゃないか?」

「そうかも〜? でも、そんな事言ったら、ウルシマルは大っきい天使様のお尻にくっついてたよ〜? あれは大丈夫なのかなぁ……」

「あっ、確かに……」

 

 ……説明しよう!

 ウコバク隊のモフ撃には、厳格なフォーメーションとルールがあるッ! 特にバストとヒップにくっつくのは失礼極まりないから、いけないと……エルダーウコバク隊長から厳命されていたのであーる! なので、ウルシマルとアイジローのポジショニングは、完全に反則なのであった!


「……って、おい! ルリサブローはそれ、どこの誰に話しかけているんだよ⁉︎」

「あぁ〜、ごめーん。なんとなく誰かが聞いている気がしてー、ちょっと解説してみたー。僕、これやってみたかったんだよね〜」

「やってみたかったって……。お前の意味不明さ、マジでベルゼブブ様並なんだけど……」

「あ、いいな〜。僕も“説明しよう!”ってやってみたい……」

「だろだろ〜? アイジローも解説ゴッコ一緒にやってみる〜?」

「あ、やるやる〜!」

「……最近ウコバク隊もまとまりないし……。クロヒメ、トットと帰ってきてくんないかな……」

「「説明しようッ! スミノジョウはクロヒメにほの字なのである!」」

「って、うるせー! どっちかっていうと、ヒスイヒメ派なんだけどッ!」

「「説明しようッ! ……って、えぇぇぇ⁉︎」」

「……(あっ、勢いでボロっちまった……)!」


 エルダーウコバク隊長がいなくても、それなりに頑張るウコバクズ。お仕事の合間に変な遊びを見つけるのも、魔界ならではの時間の過ごし方なのであった。

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