6−3 クレームブリュレ
「さて、そろそろデザートの時間かな? ルシエル、いつも通りで悪いんだけど……皆さんのお皿、下げてくれる?」
「了解」
そう請け負って、テーブル横のカートで皿を回収しつつ、厨房に向かう。確か、デザートは……。
「今回はクレームブリュレ……だったよな?」
「その通り。いつも通り、ちゃんとパリパリに仕上げてあるから、スプーンを入れた瞬間が楽しいと思うぞ」
「うん……!」
そんなことを話しながら、クレームブリュレを受け取ってテーブルに戻ると……お待ちかねのみんなに配る。
「これが……クレームブリュレ?」
「えぇ。初めに表面のカラメルを割った後、中のクリーム状のプディングと一緒に頂きます。……因みに、私はこのカラメルを割る瞬間が、とても好きです」
「そうなんだ〜。……どれどれ?」
私の言葉に殊更、好奇心を刺激されたらしい、ミシェル様が早速スプーンをクレームブリュレに立てる。そうしてスプーンが押し込まれた瞬間、パリンと心地よい音がして、プディングに焦がしカラメルがゆっくりと沈んでいく。
「おぉ〜! 確かに、これは気持ちいい! しっかも、これめちゃくちゃ美味いし! 何これ? いや、本当、何がどうなってこんなに美味しいんだろう⁉︎」
彼女的には原因不明の美味しさに、ただただ興奮しているらしいミシェル様。個人的にはカラメルのほろ苦さと、プディングのまろやかさが丁度いいから美味しいと思うのだが、そんなしみったれた解説はいらないだろう。
「まぁ〜、本当。ほっぺがとろけそう……まろやかで濃厚だけど、何というか……時折感じられるほろ苦さに、キュンとしちゃうわ〜」
「……うむ……これが恋の味というやつか……?」
……恋の味は違うと思います、オーディエル様。
「そう言えば、恋で思い出したんだけど……ルシエル達って、どっちが一緒に生活しようって言い出したの? そもそもの出会いって、どんな感じだったのかしら?」
何かを思い出したついでに、ラミュエル様が突然そんなことを聞いてくるので、一瞬時が止まったように感じられる。全員の視線が……なぜか私に集まるのが、何となく痛い。
「……ラミュエル様。なぜ、それを今ここで聞かれるんです?」
「え〜? だって興味あるじゃない? 折角、旦那様もいるんだし。根掘り葉掘り、聞きたいわ〜」
「……と、言われましても。私はハーヴェンに出会った時はコテンパンに負けて、しばらく意識がありませんでしたし……」
そんな風に会話を回避すると、今度はハーヴェンの方に視線が集中する。
「え、それ……俺が話すの?」
「いや、だって。私は気づいたら手当てされてて、よく覚えてないし……」
「……ずるい逃げ方するなよ……。まぁ、一緒になってくれって言ったのは、俺の方からだけどさ……」
ちょっと恥ずかしそうに頭を掻く、ハーヴェン。これは間違いなく……本気で困っている顔だ。
「……えっと。ハーヴェンさんはマスターに一目惚れしたんだそうです。それで殺せなかった、って言ってましたよ」
「ギノ……それ、ここでバラすの……?」
珍しく空気を読まずに、そんなことを言い出したギノに対して、裏切り者……という感じの視線を向けるハーヴェン。とは言え、いつもは会話のアドバンテージを取られている手前、彼には悪いが……私もこの流れがとにかく面白い。
「え? あ……僕もちょっと知りたいです。マスターとハーヴェンさんの出会いがどんな感じだったのか……」
「俺も気になるぞ、悪魔の旦那」
「ダ、ダウジャ! そんなこと言ったら、ハーヴェン様を困らせるでしょう?」
「でも……気になりませんか、姫様も」
「そ、それはそうだけど……」
その上、ダウジャまでそんなことを言い出して、キラキラした瞳でハーヴェンの話を待っている。確実に追い詰められているハーヴェンがしばらく困った顔をしていたが、どうやら無駄な抵抗は諦めたようだ。
そうそう。無駄な抵抗はやめて、素直に白状し給えよ……なんて、内心で思うのは、やっぱり意地悪だろうか。
「あぁ〜、もう。分かったよ。ルシエルと出会った時の話をすれば、いいんだな?」
「うん、そうしてやって。多分、私も含めてみんな聞きたいと思っている」
「……ルシエル、お前もか……?」
そんなことを言いながら、ハーヴェンはため息1つ、吐くと……いよいよ観念したように、あの日のことをポツリポツリと語り出した。




