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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第5章】何気ない日常の中に
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5−6 シルバークラウン

「ふ〜ん。君達も色々と大変だったんだね〜」


 一頻りお茶を楽しんだ後、口一杯のクッキーをゴクリとやりながら……ベルゼブブさんは猫さん達の事情も一緒に飲み込んだらしい。そこまでの様子を見守って、ハンナが遠慮がちにベルゼブブさんに尋ねるけれど。ベルゼブブさんは終始ニヤニヤしたまんまだし……もしかして、この状況を楽しんでいるのかな……。


「あの……私達の長靴を作っていただくことは、可能でしょうか?」

「うん、いいよ〜。僕も新しい魔法道具を作るなんて、ワックワクしちゃう〜。どんなものを作ればいいか分かったし、すぐ作ってあげられると思う。……で、長靴の機能は魔力の吸収と定着だけでいいの? 良ければ、色々とオプションも付けてあげられるよ?」

「……例えば、どんな?」

「うん、魔法を自動発動させる機能、とか。ある程度の攻撃魔法を仕込んでおけば、そのダイアンなんとかにも、やり返せるんじゃないかな」

「ほ、本当か⁉︎」


 その言葉にいつになく、前のめりになって食いつくダウジャ。彼にしてみれば、仲間を奪われたということもあるのだろう。そんなダウジャにとってダイアントスに一矢報いる機能は、何よりも魅力的に思えるに違いない。だけど、ダウジャが興奮するくらいの内容のはずなのに……ハンナの方は首を振りながら、どこか悲しげに答える。


「……私達には、そこまでの力は必要ありません。ただ、死んでいった仲間のためにも、力一杯生き延びることだけを考えたいと思います。長靴の機能としては、魔力のコントロールができれば……それ以上は望みません」

「ひ、姫さま! でも、あいつを懲らしめられるかもしれないんですよ? いいんですか⁉︎」

「えぇ。それは私達の領分ではありませんから」

「そっか。お姫様の方はちゃ〜んと、理解しているみたいだね〜。……シルバークラウンかぁ。僕も初めて見たけど、伊達に知恵ある白銀と言われているわけではないね」

「知恵ある……白銀でヤンすか?」


 そう言えば、ハンナの方は希少種、なんだっけ。でも、知恵ある白銀って……どういう意味なんだろう?


「ケット・シーはね、化け猫の精霊ではあるんだけど。それと同時に、猫の王様の集まりでもあるんだよ」

「猫の王様……?」

「猫っていうのは犬と違って単独行動を好む傾向があるけど、別に孤独が好きなわけじゃない。きちんと情報交換をして仲間と連携を取る、賢い動物でもあるんだよ〜。それぞれのコロニー内できちんと井戸端会議をしてて、まとめ役がいわゆる“猫の王様”。中でも、シルバークラウンは特に知性の高い王様の中の王様として出現する、レア精霊なんだ。いや〜、僕もお目にかかれるなんて、思いもしなかったよ〜。超ラッキー?」

「そ、そうだったんだ……。ハンナって、とっても凄い猫さんだったんだね……」

「い、いえ……そんなに大したものではありません……」


 僕の言葉に更に遠慮がちに応じるハンナ。その様子を見ながら、お茶のおかわりを注いでくれているハーヴェンさんが、更にベルゼブブさんに質問する。


「でも、ただの希少種ってだけで、そんな大層な二つ名はつかないだろ? もしかして、他に何かあるのか?」

「うん、シルバークラウンは知恵を物理的に、他の相手に分けることができるんだよ」

「知恵を物理的に分ける⁇」

「まぁ、うま〜く今まで隠していたみたいだけど……シルバークラウンは本来、三つ目の精霊なんだ」

「……⁉︎」

「シルバークラウンの第3の目から流される涙は、どんな者にも分け隔てなく知性を与える霊薬として、超有名なの。きっと……ハンナちゃんの額の毛の奥にも、3つ目の目玉があるんじゃないかな?」

「おっしゃる通りです……。シルバークラウンは毛皮が特殊なのと同時に、霊薬を生み出す目玉のこともあって、今までは魔獣族の長の庇護を受けてきました。……ですが、現在の魔獣王であるダイアントスは、その事実を知らされていないのでしょう。毛皮ばかりに目が行き、持ち主が生きていないと流すことのできない涙には、目もくれませんでした」

「でも、それを知ったところで……あいつが姫さまを丁重に扱うとも思えないけどな」


 ダイアントスに一矢報いることを諦めたらしいダウジャが、今度はさも憎々しげに吐き捨てる。


「まぁ、ケット・シーは運を操るのが、もともとの能力だからね。お姫様の方はその辺も理解しているから、さっき攻撃は自分達の領分ではないと言ったんだろう? 本当はそれも含めてちゃんと扱えれば、これ以上強力な能力もないと思うけど。君達の今の王様は、そんなことも考えられないようなポンコツなんだろうね〜。ご愁傷様、って感じ?」


 おかわりのお茶もすっかり堪能したらしい、ベルゼブブさんがそんなことを説明してくれたけど……それはあまり、軽々しく言っていいことじゃない気がする。


「あのさぁ、ベルゼブブ。頼みごとをしている手前、こう言ってはなんだけど、さ。それ……こいつらにとっては、かなりの死活問題だから。トップがふざけた感じだと、下の奴は想像以上に苦労するんだぞ? それはお前も、よ〜く分かっていることだろうが」

「あ、あんまり突いちゃいけないところだった? ごめんごめん。ベルちゃん、調子に乗って、ごめんちゃ〜い」

「ごめんちゃ〜い、じゃありません! ったく、お前の人を食った感じ、いい加減どうにかならないのかよ?」


 流石、実力派のナンバー2。目上の相手にもビシッと的確に注意できるなんて、ハーヴェンさんは凄いな……。


「え〜? 僕、別にふざけてないよ? でも、ま、ちょっと言い方は悪かったかな。ごめんね。そのお詫びといってはなんだけど、長靴はちゃ〜んと作ってあげるよ。とびっきり格好いいの作っちゃうから、楽しみにしてて」

「は、はい……よろしくお願いします」

「あ、あぁ……できれば、普通な感じで頼むよ……」


 結局、相変わらずの調子で猫さん達に向き直るベルゼブブさんに、なんだか怯えた様子で応じる猫さん達。そして、やれやれとため息をつくハーヴェンさん。それにしても、ベルゼブブさんは変な人だけど……とっても物知りなのも分かった気がする。一緒にいるとちょっと疲れるけど、質問にはちゃんと答えてくれるし、頼りになる人であることには違いないんだろう。

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