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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第4章】新生活と買い物と
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4−26 夕食とっても豪華なの!

 カランカランとベルを鳴らしながら開かれる、エントランスのドア。それと同時に広がる、いい香りの我が家の空気を堪能しつつ。ゲストと共に足を踏み入れる。


「はぅぅ〜、お邪魔しま〜す」

「お邪魔します」

「あ、ルシエル、お帰り〜! 今日の夕食とっても豪華なの!」

「あい! 豪華でヤンす!」


 ベルの音を聞きつけ、子供達が嬉しそうにエントランスに出てくる。どうやら、みんなで食卓の準備を手伝ってくれていたらしい。ギノもやや少し遅れて、出迎えてくれた。


「マスター、お帰りなさい。お夕食の準備もバッチリだって、ハーヴェンさんが言ってましたよ」

「ただいま。なんだか、君達にまでお手伝いさせて、すまなかったね」


 そう言いながら、子供達の頭を順番に撫でる。普段はこんなこと、あまりしないのだけど。嬉しそうに出迎えられると、そうせずにはいられなかった。コンタローに至っては、私に抱っこを要求してきたので、抱きかかえて……これでもかと言わんばかりに、ナデナデしてみる。


「あぅぅ〜、お頭もいいですけど、姐さんの抱っこも最高でヤンす〜」

「そう?」

「あ、その子がウコバクちゃんですか?」

「あい?」

「うわぁ〜、本当にモフモフなんですね〜。いや〜ん、可愛い〜」

「あ、あい⁇」


 そんな私達の様子に……ポニーテールとおかっぱの天使2人が、コンタローの頭を撫で始めたが。反面、コンタロー自身は若干警戒しているようだ。やはりコンタローと言えど、初対面の天使に対する警戒心は抜けていないらしい。やや困惑気味の彼を、必要以上に怯えさせてはいけないと適当に話を切り上げて、3名様をリビングに誘導する。


「……とにかくリビングにどうぞ。ハーヴェンもきっと待っていると思いますし」

「イヤッフゥ〜! ハーヴェン様の手料理! デッザートぅ!」


 もう既にテンションマックスの様子のマディエル。先ほどのやりとりもしっかりメモしていたみたいだが、そのテンションで妙な事を書かないか、ちょっと心配だ。


「お姉ちゃんも、ハーヴェンのデザートが楽しみなの?」

「はいぃ! もちろんですよ〜。ハーヴェン様のお料理はどれも美味しいと、ルシエル様からも伺っていますし〜。それにしても、エルノアちゃん。お久しぶりですね〜。元気でしたか?」

「うん! 元気にしてたよ?」

「そうですか〜。それは何よりですぅ。あ、それとギノ君……色々あったみたいですが、こうして無事に生きていてくれて、私も嬉しいですよ〜。しかも、ちゃんと竜族になれたんですね〜。おめでとうぅ」

「あ、ありがとうございます。それにしても……僕のこと、ご存知だったんですか?」

「えぇ、もちろんですよ〜。あなた1人でも助かることができて、神界でもみんな大喜びだったんですから〜。しかもべへモス、でしたっけ? カッコイイ竜族になれて、本当に良かったですね〜」

「はい!」


 いつの間にか、子供達とも溶け込み始めているマディエル。この社交性の高さも、彼女の才能の1つなのかもしれない。……ちょっと見習おう。


「ようこそお越しくださいました〜。さ、準備もできていますから、お席にどうぞ〜」


 リビングに入ると、忙しそうにしているハーヴェンが既にいくつか料理を並べていた。それでも迷惑そうな顔1つせず、満面の笑みで迎えてくれるのに……どことなく、申し訳ない気分になる。


「えっと、どこに座ればいいでしょうか?」

「そうですね、まずこちら側は子供達と私達で座ります。なので、奥側の席に並んでお座りください。……で、コンタローはここ、と」

「あい!」


 下座に4人分の席が用意されているところを見ると、ゲストは奥側、ということなのだろう。彼女達を奥の席に案内した後に、最後にいわゆるお誕生日席に抱っこしていたコンタローを鎮座させる。一方で、ハーヴェンがまだ忙しそうに厨房で料理の盛り付けをしているので、流石に先に食べているわけにはいかないと思い、彼に声をかける。


「私も手伝うよ」

「そう? それじゃ、ルシエル、これをお願い。それと、みんなには先に食べていていい、って伝えてくれる?」

「うん」


 そう言われて、カウンターに並べられている料理を運ぶ。


「皆様は先に並んでいるものを召し上がれ、とのことです。料理は全部できているみたいですので、遠慮なくどうぞ」

「はぅぅ〜、いただきますぅ〜!」

「いただきます」


 みんなの「いただきます」の挨拶を聞き届けて、スープの味に驚いているらしい彼女達を尻目に……煮込みハンバーグとリゾットをハーヴェンと手分けして運ぶ。新居に移ってから、リビングのテーブルがいささか大きすぎるように感じていたが。こうして大人数で食卓を囲む可能性を考えると、この位がちょうど良いのだと実感させられる。


「ルシエル、ありがとな。さ、俺達もいただこうか?」

「……うん」


 全ての料理を並べ終えて、食卓を改めて確認する。スープにサラダ、何やらマリネらしき小鉢に……クリーム色とそら豆色のテリーヌ。そして煮込みハンバーグに黄色いリゾット。テーブルの中央には、小ぶりのカンパーニュがバスケットに入れられて置かれている。


(まずはスープから、と……)


 冷製スープのそれは……かぼちゃとトウモロコシを丁寧に裏ごししたものらしい。程よい甘みの中に、たまに混ざっているクルトンが食感も楽しいアクセントを加えていた。


「ハーヴェン様、これは何でしょうかぁ?」

「あ、それか? そいつはサーモンとパプリカのマリネだよ。ワインビネガーとオリーブオイルで仕上げてあるから、意外とサッパリしてるだろ?」

「なるほど、なるほど」


 変な意味で仕事熱心らしい、マディエルが手元のメモに料理の特徴と感想を書き記している。この調子であれば、本格的なグルメレポートが出来上がりそうだ。


「マディエルのお姉ちゃんは、私も会ったことあるけど……他の2人は初めてな気がする。……あの、ごめんなさい。失礼だとは思うんだけど、誰か教えてもらえませんか?」


 エルノアがスープを運ぶ合間に……そんな事を尋ねてくるので、慌てて他の2人を紹介する。そうだ、まずは顔合わせが先だよね。


「気がつかなくて、ごめんね。まず、ギノの向かい側のショートカットのお姉さんはキュリエルっていうんだよ。それで、お隣のポニーテールのお姉さんはリッテル。両方とも、私と同じように人間界の監視をしているんだ」


 私の紹介が終わると、向かい側に座っていた2人が折り目正しく名乗る。


「名乗るのが遅れて、すみませんでした。私はリッテルと申します。ルシエル様の後任で、ルクレスを受け持っています」

「お食事の前に名乗るべきなのに、大変失礼いたしました。私はキュリエル、クージェの担当をしております」

「ルクレス担当にクージェ担当か。なるほど。ラミュエル様は、お前の関連地区の担当者を寄越したんだな」

「そうなんだ。この先、仕事上連携もしなければいけないから、折角だし、こうして一緒に食事してはどうかと言われてな。……とか言いつつ、準備はハーヴェンに押し付けてしまっているんだけど……」

「いや、別にいいよ? 俺は料理を食べてもらうのが、1番嬉しいし。……ところで、どう? 味付け変なものないかな? 苦手なものがあれば、遠慮せず言ってくれよ?」

「いいえ、そんなことありません! こうして憧れのハーヴェン様のお料理を頂けるなんて、夢のようです!」

「はい! 特にこの……ルシエル様のリゾット、最高です! 優しい味なのに、後からじわっと濃厚な味がして! これ、一体何が入っているんですか? というか、どうしてルシエル様のリゾットなんですか⁉︎」


 ハーヴェンが話しかけた途端、妙に興奮した様子で答える2人。もしかして、彼女達もファンクラブとやらのメンバーなのだろうか? 


「あ、あぁ……うん。まぁ……このリゾットはルシエルに初めて出してやった料理でな……。髪の色とフワフワ感を表現しているんだ。……因みに味の決め手はチーズとバターなんだが、黄色は主に卵の色だな。卵黄と卵白を泡だててそれぞれ別々に入れることで、食感と色味を工夫しているんだけど……」


 彼の解説を聞くや否や、「羨ましい〜」と口々に言いながら……スプーンが止まらない様子の2名様。一方、マディエルはマディエルでペンを走らせている。そうしながらも、器用に煮込みハンバーグにも舌鼓を打っていて……こちらの食事のスピードも順調なようだ。


「お頭、パンが欲しいでヤンす。1個ください〜」

「はいよ。コンタローも大丈夫そう?」

「あい! おいら、このプニプニしたやつが好きでヤンす!」


 見れば……少し小さめのお皿に、私達と同じ品数の料理を出してもらっているコンタローが、テリーヌをフォークで器用に食べている。


「そうか〜。コンタローは魚、好きだな〜。そいつは白身魚のすり身と、鶏肉のレバーを混ぜたものだぞ。魚好きにはたまらない1品だろ?」

「あい!」


 嬉しそうに答えるコンタローの頭を撫でつつ、パンを取ってやるハーヴェン。そうされて、コンタローの尻尾がブンブン音を立てて振られている。


「そうか……。これ、お魚だったんだ……」


 ハーヴェンの解説に何か思うところがあるらしい、小さく呟くギノが不思議そうにテリーヌを見つめている。食事の美味しさもそうなのだろうが、ギノはどことなく……細かいディテールにこだわるというか。一口ずつ、確かめるように味わっているようだった。一方で、エルノアは小さな口を目一杯開けて、夢中で料理を頬張っている。彼女は美味しければ、とりあえず他はあまり気にならないらしい。食事中は口数が少なくなるのも、相変わらずだ。

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