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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第4章】新生活と買い物と
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4−7 俺史上最凶の極悪人

「さて、と。この辺でいいかな?」

「え? でもまだ森の中だけど……ハールお兄ちゃん、どうして?」

「う〜ん。このまま付いて行ったら、攫われちゃうから?」


 見れば彼女は確かに、ルーシーだろう。年恰好、髪の色、瞳の色。どれをとっても、俺の記憶とピタリと一致する。なるほど、そういうことか。


「……そんなに俺が邪魔かい? 随分、まどろっこしいことをして……。餌を用意しても俺が引っかからなかったもんだから、ノコノコやって来たか?」

「な……どうしたの、ハールお兄ちゃん……。邪魔だなんて……なんのこと?」

「フゥン? じゃぁ、なんで……タルルトの教会が“孤児院”だって、知ってたんだ? あそこは精霊が一発で孤児院だなんて、分かる建物じゃないと思うけどな?」

「⁉︎」

「それにな、セイレーンは妖精族じゃない。……魔獣族の精霊だ。天使のくせに精霊の知識はからっきし、と。ナメてんのか?」

「……そうですか。精霊ごときの力など、必要ないと思っていましたが……それが仇になるとは。なんと忌々しい」


 俺がそこまで言い当ててやると、目の前の相手の化けの皮が剝がれる。四翼の天使……記憶の中で、憎んでも憎み切れなかった俺史上最凶の極悪人が、張り付いたような冷笑を見せながら、こちらを睨んでいた。


「いや? 気づいてたのは、最初からだけど?」

「ほぅ?」

「妖精界の長老様が、リンカネートで助けてくれた? バカ吐かすなよ。リンカネートは光魔法の最上位魔法で、天使言語の魔法だ。妖精族の長老様だろうが、お偉いさんだろうが、絶対に使えない。そんな事も知らなかったなんて……本当、色々とお粗末だな?」

「そう、ですか。では次から……気をつけないといけませんね?」

「悪いが、次はないと思うぞ?」

「確かに? ここでお前を処分すれば、次に気を遣う必要はありませんか」

「しかし、選りに選ってルーシーに化けるなんて……趣味が悪い。お前、本当に性格悪いよな」

「ふん、悪魔にだけは言われたくありませんね⁉︎」


 やや強気な言葉と共に、臨戦態勢に入る中級天使だが……その実力は以前の物とは桁違いらしい。この様子だと……うん、ちょっと本気で時間稼ぎをしないといけないみたいだ。


「コンタロー! 悪いが、攻撃魔法を頼む!」

「あい! 紅蓮の炎を留め放たん、魔弾を解き放て! ファイアボール!」


 コンタローはレベル2の精霊だ。そうなると、初歩的な魔法しか使えないが……今はそれで十分だろう。


「まずは……目障りな小悪魔から処分しましょうか! 永劫の苦痛をもって罪を雪げ、光をもって制裁を与えん‼︎ ホーリーパニッシュ‼︎」

「あわ、あわわわ!」


 俺の可愛い子分が放った、これまた可愛い初級魔法を丸ごと飲み込んで。ノクエルの魔法はそのまま、コンタローを捉えた……ように見えたが。


「紺碧の深淵、永劫の苦痛に身を委ねん! 氷土の交わりを持って絶望を知れ‼︎ グレイシャルフィールド!」

「……⁉︎」


 グレイシャルフィールド。水属性の魔法にあって、攻撃魔法・ブルーインフェルノと並んで最上位の双璧をなす、補助魔法だ。放たれた極限の氷は、術者の前方にあるものを全てを、一定範囲で否応無しに氷結させる効果がある。


「……くっ、これは……!」


 視界中の全てが銀世界に様変わりした森。そうして、魔法ごと氷に閉じ込められたノクエルが壁の向こうでもがいている。以前の俺ではなかなか使いこなせない魔法だったが、こうして難なく使えるようになったことを考えると……試練を頑張ってよかったなと、本当に思う。


「コンタロー、グッジョ〜ブ!」

「あ〜い!」

「な、なるほど……小悪魔は時間稼ぎの補助役ですか……。ルーシーの姿を使えば、お前はホイホイ付いてくるかと思いましたが……読みが甘かったようですね」

「う〜ん、大体さ。俺を孤立させたところで……勝算あんの?」

「……できれば、有利なフィールドに引き摺り込んで仕留めるつもりでしたが……。フフフフ、仕方ないですね。こうなったら……もう少し、本気を出しましょうか?」

「お?」


 そう言いつつ、ノクエルはいとも簡単にグレイシャルフィールドの戒めを解くと、今度は4枚の黒い翼を広げて見せた。


「堕天使……か。あんたの黒い血について、嫁さんに聞いたことがあったけど。やっぱりって、ところか。ま、性格の悪さからすると、お似合いか?」

「ほざけ、闇堕ちした悪魔ごときが! 私は偉大な大天使様の意思を継ぎ、崇高なる世界を再構築する者ぞ! これ以上の邪魔ができぬよう、今ここで貴様を粛清してくれる!」

「コンタロー! 頼むぞ!」

「あ、あ、あぁい!」


 どうやら本気を出す、と言うのは冗談ではないらしい。仕方ない、このまましばらく持ちこたえることを考えると……あっちの姿に戻るしかなさそうだ。それでなくとも、ノクエルの手から放たれる魔法はまともにやり合おうと思うと、かなりキツイものがある。

 幾度の魔法の打ち合いと応酬。相手は光魔法はもとより、器用に闇魔法もポンポン使ってくる。俺としては光属性の魔法は弱点だから、最低限でもまともに受けることは避けないと、凌ぎ切れないかもしれない。


「初狩の鐘を打ち鳴らさん、弓付きの刃を振り降ろさん! 我は死を望むものぞ! ジャッジオブデス!」

「……って、ここで即死魔法かよ!」


 あまりに予想外な魔法に、ちょっと焦る俺。俺自身は即死魔法にある程度の耐性はあるものの……確実に防げるわけではないし、何よりコンタローが引っかかると、かなりマズイ。


「チィ! 常しえの鳴動を響かせ、仮初めの現世を誑かせ……ありし物を虚無に帰せ! マジックディスペル!」


 そうして、既のところで搦め手の即死魔法を無効化魔法で打ち消すが……って!  マジックディスペルはかなり魔力を使う魔法なんだけど⁉︎ どうしてくれるんだよ!


「ふん、流石にやりますね……! とっさに無効化魔法を発動させてくるとは。では、これならどうですか⁉︎」

「……⁉︎」

「穢れた大地を浄化せん、全ての罪を滅ぼさん! 我は偉大なる審判者なり、全てを光に還せ‼︎ アポカリプス‼︎」

「……オイオイオイオイ! マジかよ⁉︎」


 上空にまばゆい光が集まったかと思うと、幾千の純白の矢になって、銀世界の大地に降り注ぐ。これは、もしかして……俺の悪魔としての人生も終わったか?

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