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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第4章】新生活と買い物と
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4−2 お小遣いを進呈します

「ハーヴェン、今日はどうするの?」

「そうだな。折角だし、カーヴェラに買い物に行くか? それに、お前達にも報告しなければいけないこともあるし」

「報告? ですか?」

「うん、まぁ」


 いつもは歯に衣着せぬハーヴェンさんの言葉が、詰まる。


「ハーヴェン、大丈夫? もしかして、心配事……なのかな?」

「心配、か。そうだな。道すがらちゃんと話すから、きちんと聞いてくれな? それとな、今後はお前達2人にもお使いを頼もうと思っているんだ。だから、今日の道のりはちゃんと覚えるんだぞ?」

「道のりですか? 昨日歩いたルートとは、違うんですか?」

「あぁ。昨日は色々とピクニックも兼ねて、ちょっと遠回りしたから。ここからすぐのところにカーヴェラに行く列車が停まる駅があるんだ。ほれ、コルテ郊外はカーヴェラから2つ先の駅だったろ? 実は、その1つ前のカンバラ国境跡郊外の駅の方がここから近いんだよ」

「じゃぁ、昨日はどうしてそっちで降りなかったの?」


 ハーヴェンさんの言葉に、エルが騙されたとばかりに頬を膨らませている。無理もない。昨日は野宿になるかも、なんてちょっと脅されて一生懸命歩かされたのだから。でも、その理由は僕もちょっと気になる。ピクニックをするためだけに、ハーヴェンさんがそんな無駄なことをするようにも思えない。


「そうだよな。ま、理由はきちんとあるんだけど。まずは、コンタローに今朝の報告をお願いしようかな?」

「あい!」


 マハさんから貰ったマボロシトラウトを、すっかり平らげたコンタローが小さな胸を張って応える。


「今朝、ちょいとカンバラ駅までルートを確認してきたでヤンす。で、森の中とは言え……今の時間帯は瘴気もそこまで濃くなかったし、昼間歩く分にはお嬢様と坊ちゃんであれば多分、大丈夫でヤンすよ?」

「エルと僕であれば……?」

「そうか、コンタローご苦労様だったな。お前達も窓から見た景色に気づいたかもしれないが、この森は真っ黒に染まるくらいに瘴気が濃い場所でもあるんだ。で、カンバラまでこの屋敷から突っ切る場合は、森の中を延々と歩かなければいけない。ルシエルは多少慣れているのか、あまり気にしていないみたいだが……本来、天使は瘴気にものすごく弱いんだ」


 そうか、昨日の道のりはルシエルさんを気遣ってのものだったんだ。確かにまだ明るめの森で休憩した以外はほとんど平野を歩いたし、この屋敷はそちら側の道からであれば、そこまで拓けた場所から外れていない。


「でな。この屋敷には一応、魔除けと侵入阻害の魔法道具を配置してあるから、瘴気はかなり薄まっているし、魔禍もまず入ってこないと考えてくれていい」

「魔除けと……侵入阻害?」

「そ。まず、魔除けはそのままズバリだな。これに関しては、前の家にもしっかり配置してあったんだけど。ほれ、玄関のドアにベルが下がってただろ? あれな、ルシエルが用意した清めの魔法道具なんだよ。こいつはある程度、瘴気を抑える働きをするらしくてな。……天使が人間界で活動する場合は、必須の道具なんだそうだ」


 言われてみれば、確かに玄関のドアには銀色の大きめのベルが下げてあった。前の家でも使っていたのを持って来たのだろうと思っていたのだけど。あれ、魔除けだったんだ。


「で、侵入阻害の魔法道具はコンタローの次元袋にあらかじめ入っていたものを、引っ張り出してな。こっちはベルゼブブが作ったものだ。敷地内の四隅に、魔界産の水晶を加工した杭を打ち込んである。もし、この屋敷の敷地内に塀を乗り越えたり、門をこじ開けて入って来るような奴がいたら、拘束系の魔法を発動する仕組みになっていて。小さめの妖精とか、虫だとか小動物……分かりやすい例で言うと、コンタローサイズくらいまでには反応しないみたいだが、ギノとエルノアは間違いなく引っかかる大きさだから。きちんと鍵を使って、門から出入りするんだぞ?」

「は、はい……」

「外出する時は、玄関と門の戸締りはしっかりすること。それで、今日はルシエル抜きのこのメンバーであれば……カンバラ国境跡郊外の駅まで歩いても問題なし、と判断した。なので早速、今日はお前達の予行練習も兼ねて、カーヴェラに買い物に行くぞ。それと……2人には小遣いをやろうな」


 そう言って、ハーヴェンさんはエルと僕に銀貨を3枚と、それを入れるための皮袋を渡してくれるけど……。お小遣いはもちろんのこと、そもそも僕は銀貨を手にする事自体、初めてだ。


「こんなに……?」

「ギノ、これって多いの?」


 きっとエルの方は、お金というものにも初めて触れたんだろう。不思議そうに銀貨3枚を積み上げて尋ねる。


「うん、ちょっとお小遣いって額じゃないと思うよ? ……実際、僕はこんなに貰うの初めてだよ……。人間だった時は銅貨1枚だって、貴重だったのに……」

「そう、なんだ。あ、でも、もしかして……これがあればお洋服買ったり、ケーキとか食べられたりするの?」

「もちろん。ただし、無駄遣いはしないこと。欲しいものをある程度買うのはいいが、本来は金っていうのは、働いた対価として貰うべきものなんだ。これからはお手伝いしてくれたり、お留守番をいい子でしてくれていたら、その都度お小遣いを進呈します。だから、自分の部屋くらいはちゃんと掃除するんだぞ?」

「うん、私頑張る!」

「僕もお役に立てるように、頑張ります」


 初めてもらったお小遣いに、僕達が盛り上がっているのを……コンタローが羨ましそうに見ている。コンタローもきっとお小遣いが欲しいのだろうけど、立場上言い出せないんだろう。僕達だけ盛り上がって、ちょっと可哀想なことをしてしまったかな……。だけど、流石はお頭と言うべきか。彼の様子にきちんと気づいたらしいハーヴェンさんが、最後にコンタローの前にも銀貨を3枚並べる。


「そうそう、コンタローにもちゃんとあげないとな? これからも、2人のサポート頑張るんだぞ?」

「あ、あぁい! お頭、ありがとうでヤンす!」


 無事にお小遣いを貰えたコンタローが、小さな手で大事そうに3枚の銀貨を代わる代わる持ち上げては……余程、嬉しかったんだろう。今日は尻尾だけでなく、ちっちゃな羽もパタパタさせている。


「それじゃ、着替えたら出かけるとするか? なお、俺からお使いを頼む時は、必要な代金と足代は出すからな。とにかく3人とも、お小遣いは計画的に使うように」


 初めてのお小遣いに、初めての銀貨。こんなにもらったのも初めてなら、自分が自由に使えるお金を持たされるのも初めてだ。そんな初めてだらけの何もかもに……僕はワクワクしている反面、何だか申し訳ない気分になる。僕ばっかり、こんなに幸せでいいんだろうか?

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