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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【おまけ】天使と悪魔の後日譚
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Ep-13 新生・オフィーリア魔法学園

「……魔力と言うのは、非常に流動的かつ、非常に気まぐれなのです。そんな魔力を捕まえ、魔法を行使するには、魔力の正しい扱い方を学ばなければいけないと同時に、魔法の概念をしっかりと理解することが肝要です」


 講堂に朗々と美声を響かせるのは、白髪に紫の涼やかな目元を持つ、いかにも若々しい白皙の教師。時たま、彼の優雅な所作にうっとりとしたため息が漏れるが……当人はどこ吹く風と、淡々と講義を続けている。


「……魔法は概念を読み誤ると発動しないどころか、場合によっては暴発を起こし、大惨事を引き起こすことがあります。魔力を捉え、魔法を扱うということは、付随する力に対して責任を負わなければならないということなのです。決して、生半可な心構えで扱えるものではありません」


 ここ……新生・オフィーリア魔法学園の一室で、今まさに教鞭を振るっているのは、魔法学園所属の最上位魔術師の1人であり、副学園長でもある大悪魔・アケーディア。かつての悪事も鳴りを潜め、今では人間界での「魔法知識普及」に精力的に取り組んでいた。


 グラディウス崩落から、人間界時間で約30年。世界に魔力が行き渡り始めると、人間達の中にも魔法を使える者が出始めていた。しかしながら、魔法はどこまでも特別な力である。当然の如く、魔法を使える者と使えない者の間には、格差や確執もじわじわと生まれていく。しかも、魔法の誤った使い方をする者も少なからずおり、人間界には差別と同時に混乱も広がっていった。


 ……たかが30年、されど30年。事態をあらかじめ予測していたと同時に、重く見た神界は、人間界に魔法の正しい使い方や見聞を広めるために霊樹・オフィーリアの膝下に魔法学園を設立する。そうして開設されたのが、新生・オフィーリア魔法学園だった。魔力がある者なら誰でも入学可能な特別学校であり、学びの園で教鞭を執るはいずれもトップクラスの魔術師でもある精霊や悪魔達。魔法知識の面でも、実践的な経験の面でも、これ以上ない程の布陣である。

 もちろん、教師陣は天使達に「協力的な者」によって構成されているが、グラディウス崩しの際に一丸となった経験もあるのだろう、天使と精霊、そして悪魔による学園運営は上手く回っている。その上で、人間達の「悪魔=悪者」という認識も薄れており、彼らの存在もまた、学園内外にかかわらず人間達の生活に溶け込み始めていた。


「っと……おや、もうこんな時間ですか。本日はここまでと致しましょう。次回からは本格的な魔法概念の読み解き方をお教えする予定ですので、きちんと教材を読み込んでおくように。皆さんのデバイスにも、次回の講義内容は送信済みですから、しっかり予習をしておいてください」


 そうして最後にニコリと微笑むと、しっかりとフォローも加えるアケーディア。そんな「気配り上手」な彼に、何も知らない子女の皆々様が色めき立つのは……仕方がない事なのかも知れない。彼も歴とした悪魔ではあるが。やはり、諸事情さえも流せる程の美貌は大いなる武器になる。彼の左薬指に鎮座するエメラルド色の輝きも、彼女達の目には届かない様子だ。


「なお、今後は各エレメント毎で異なる講義も発生してきますから、しっかりとスケジュールを確認しておくのも大切ですよ。場合によってはエレメント専属教師に助言を乞うのも、有効な手段でしょう。教員リストはライブラリページにありますから、是非に活用してください」


 そこまで言い切り、「では」と退室するアケーディア。そんな彼が講堂の外に出ると……そこには、見慣れた顔が2人。彼を待っていたらしく、ほんのり待ちくたびれた様子で声を掛けてくる。


「随分と熱が入った授業だったな? それはともかく……お疲れ、兄貴」

「えぇ、お疲れ様です、マモン。それで……ハーヴェンも揃っているとなると、例のことですか?」

「あぁ、そんな所だな。あらかじめ連絡が行っていると思うけど……調査先で出くわした変な奴について、話し合おうってことになって」

「で、ルシファーの奴もお出ましになっててな。兄貴も一緒に、話し合いたいことがあるんだと」

「そうでしたか。では、すぐにでも参上したほうが良さそうですね」


 神界に君臨する天使長であり、魔法学園の学園長でもあるルシフェルが自らやってきたとなれば、アケーディアも無視はできない。それに、彼としてもハーヴェンやマモンの調査結果が非常に気になる。最近「不穏な動き」が見られるとあらば……意外と気に入っている「平穏な生活」を台無しにされてしまうかも知れない。そんなことを考えながら……ついつい、アケーディアは左薬指の指輪に向かってため息をついてしまう。

 学園での毎日は充実しているし、その忙しさは心地よくもあるのだが。……流石に、しばらく伴侶に会えていないとなれば、そろそろ会いたいと思ってしまうのは「人情」だろう。


「……兄貴、大丈夫か? 最近、根詰めすぎじゃねぇ?」

「大丈夫ですよ。ちょっと、ヴェルの事を思い出していただけですから」

「あっ、そうなんだ。そう言や……孤児院の奴らは元気かなぁ……」

「まぁ、あちらはあちらで、上手くやっていますからね。若干、ティデルやバビロン……それに、ヴェルに任せきりな部分も否めませんけれど。だからこそ……できれば、ちょくちょく様子を見に行きたいんですよねぇ。特に、リルグの分校は僕の古巣でもありますし」


 ルシー・オーファニッジの元院長が逐電してしまったため、孤児院の院長は上級悪魔・アーニャが代理で勤める格好となっている。そんな彼女の元、直接的な子供達の教育係や世話係として、ティデルやバビロン……そしてザフィールにネデル、妖精族のヴェルザンディが配属されているが。そのヴェルザンディは、再会を果たしたアケーディアと「再婚」していたのだった。


(本当に……こちらでの生活には、想定外が多すぎます。でも、そんな想定外も悪くないと思えてしまうのが……意外と心地いいんですよね)


 実際に元鞘に戻ってみると、ヴェルザンディとの生活は彼の中に燻る「憂鬱」を何よりも緩和してくれていた。今まで無理やり周囲を見下し、自分が優位だと思い込むことで、憂鬱をやり過ごしてきたが……そんな無理をせずとも、自然体でいられる相手がいるというのは何にも勝る「特効薬」になるらしい。今更そんな事に気づくなんて、と彼自身も自嘲せずにはいられないものの。何だかんだで、彼女との生活が気に入っていると同時に……離れる期間が長くなると、どうにも会いたくなるのは厄介だ。


「ヒューヒュー、お熱いこってな。ま、理由を付けて嫁さんに会いたくなるのは、旦那のサガだな」

「それは言えてる。……俺もルシエルに早く会いたいなぁ。今日のデザートも腕にヨリをかけて、仕込んであるし」

「って、あなた達! 別に、僕はそういう訳では……」

「ほーん? そうか、そうか」

「へいへい……それじゃ、そういう事にしておこうかな?」

「クッ……その顔は、信じていませんね……?」


 カラカラと2人の「同僚」に揶揄われながら、3人揃って学園長室へと向かうが。和気藹々とした空気とは裏腹に、マモンとハーヴェンが揃っているとなると、相当の事態だろうとアケーディアは既に腹を括っていた。


 彼らは魔法学園に所属しているエレメント専属教師の中でも、戦闘技術を専攻とする「荒事担当」の教師ではあるが……そもそも、荒事担当を作らなければならなくなった理由が非常に厄介なため、神界も学園関係者も頭を抱えているのだ。


 グラディウス崩落からしばらくは平穏な日々が続いていたが、最近になって新種の魔物が発生するようになったのだ。そんな新しく発生し始めた魔禍……通称・「深魔」と呼ばれる怪物を鎮めるため。マモンやハーヴェンのように適宜現地調査に出向いては、深魔を鎮める役割を持つ魔術師は、いつしか「特殊祓魔師」と呼ばれるようになっており、魔法学園でも彼らのような存在を育成することが急務となりつつあった。


 彼らはそれぞれにトップクラスの戦闘能力を誇り、状況によって相手を退治する任務を負っているが……対象を祓うかどうかを慎重に見極めてからの実力行使となるため、実戦経験だけではなく、秀逸な判断能力も求められる。そのため、簡単に育成できる人材でもなければ、教育目標を掲げたのだってつい最近の話である。……現在のところ、「特殊祓魔師」はマモンとハーヴェンの2人しか存在していない。

 そして、普段は各々のパートナーを共にする以外は別行動であるため、マモンとハーヴェンが同じ相手の対処をすることは、まずないのだが。今回は相当に特殊事例が発生していたらしい。同じ相手に貴重な人材を2人も割いたという現実が、何よりも事態が深刻であったことを物語っていた。

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