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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【おまけ】天使と悪魔の後日譚
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Ep-6 暴れるのには好都合

「あふっ、お頭! 多分、この先でヤンす!」

「おっ?」

「このドアの先から、ゴウンゴウン変な音がするです!」


 意外と今回の事案は根が深いかも……。俺がそんな事を考えていると、更に派手な稼働音を聞きつけたらしい。コンタローが麻呂眉を凛々しく釣り上げながら、胸を張っている。しかし……胸を張っても、こじんまりしているせいか、得意げにされてもちっとも偉そうに見えない。


「そうか、そうか。偉いぞ、コンタロー」

「あぃ!」


 しかし、俺よりも先にマモンが「偉いぞ」と褒めたもんだから……お頭を無視して、怪盗紳士様の胸元にダイブするコンタロー。ま、まぁ……コンタローが満足なら、それでいいか。お頭としては、ちょっと寂しいけど。


「しかし……この扉、そのまま開きそうもないな。こういう時は……ルシエル。まずは例のアレ、頼める?」

「もちろんだ。……空虚なる現世に風の叡智を示せ、我は空間の支配者なり! ウィンドトーキング!」


 そうそう、これこれ。頑固な扉相手にはまず、嫁さんに解錠のヒントを探ってもらうに限る。だけど、今回はそうは簡単に道を開けてもらえないらしい。ルシエルが申し訳なさそうに、フルフルと首を振る。


「……内側からしっかり鍵がかかっているみたいで、外からはこじ開けられそうにないんだ……」

「そか。それじゃぁ……」

「あい! おいらの出番でヤンすね! テッテテレテ〜♪ ウコバクの油匙〜!」


 シュタッと怪盗紳士様の胸元から降り立ち。ゴソゴソと次元袋から取り出したるは、ウコバク自慢の油匙。……きっと、ベルゼブブ譲りなんだろう。自前で変な効果音を付けながら、これまた得意げに油匙を掲げるコンタロー。チョコチョコとドアの前に歩み寄ると、パタパタとドアノブまで飛んでいっては……コンコンと油匙で持ち手をノックする。すると……。


「どうでヤンす? お頭!」

「おぉ〜! うんうん、相変わらず見事なお手前で。大活躍だな、コンタロー」

「あふふふふ……!」


 やっぱり、魔界の魔法道具は効果も抜群だな。相手がどんなドアであろうと、油を差してやればいう事を聞かせられるんだから。


(まぁ……効果がバッチリ発揮されるのは、ウコバク達がきちんと手入れをしているお陰でもあるのだけど)


 彼らのマイ油匙はそれぞれの体格・個性に合わせたカスタムメイドの特注品だ。製作者はもちろんベルゼブブではあるのだが、いい加減で放任主義な彼のこと。作った後の面倒な部分は、ウコバク達に任せっきりだった。それでも無責任な親玉に特段指示される事もなく、ウコバク達が一生懸命に油匙をキュッキュと磨いては、お互いに自慢し合っていたのを思い出す。


「べっ、別に悔しくないもん……」


 一方……コンタローの活躍にしっかりと嫉妬したルシエルが、イジイジといじけている。悔しくないもんと言いつつ、ジットリとこちらを見つめてくるのを見るに……うん、完璧に拗ねているな、これは。


「ルシエルも、もちろん偉いぞ〜。仕組みを理解したり、空間を把握するのは大切だからな。それで、どう? ドアの中まで探れたか?」

「とっ、当然だ! えぇとな……扉の先はかなり広めの空間になっているみたいで、長い廊下の先に広間があるみたいだ。因みに、遮蔽物もないようだったし、暴れるのには好都合だと思うぞ」

「お、おぉう……」


 これまたフフンと胸を張っては、そんな事を得意げに報告してくれるルシエルだけど。……いや、暴れる前提で話を進めないでくれないかな。


(ハーヴェン……このまま突撃して、大丈夫なのか……?)

(どう見ても大丈夫じゃないと思うけど。でも、行くしかないだろ、ここは)

(だよなぁ……)


 とにかく、頑張ろうか。俺とマモンで。


(お邪魔しま〜す……)


 無事に突破したドアの先へ、足を踏み出す。大聖堂の奥の奥で、廊下の先に広めの空間……となれば。おそらく、この先は祭壇の間だろう。何かとガメついリンドヘイムの事だし……きっと、祭壇も金ピカなんだろうなぁ。お布施もたんまりと使い込んでいそうだし、無駄にゴテゴテしてそう。とは言え……どう考えても、あんまり大暴れしていい場所ではない気がするけど。


「……まぁ、とっても静かなんですね。ちょっと、不気味だわ……」

「そうだな。しかし……何もないな?」


 尻込みしている俺とマモンを置き去りにしたまま。意気揚々と嫁さんズ2名が先陣を切って、扉の先に足を踏み入れるものの。扉の向こうはちょっと仄暗い上にひんやりとしている。それでも、慣れてきた目をよ〜く凝らせば。柱にもびっしりと天使様のレリーフが彫られているし、明るければ間違いなく輝いているであろう、白と金のコントラストが眩しい場所だったと思う。しかし……今の聖堂は全体的に省エネモードなのか、人も建物も死んだように静まり返っている。


「それはそうと……姐さん。さっきよりも、ゴウンゴウンの音が大きくなっているです。……それに、あっちから何か来るですよ」

「えっ?」


 ルシエルの足元でチョコチョコと歩いていたコンタローが、ちっちゃなおててを前に伸ばせば。彼の示す方からゆらりと姿を見せたのは、いつか見た気がするラディウス天使らしき何かだった。


「こいつは確か、グラディウスの……」

「だな。リンドヘイムが新しく召喚しようとしていたのは、機神族の天使だったか……」

「でも、こいつはまた……変な形をしているというか。少なくとも、あの時にはこんな奴、いなかったぞ?」


 こんな所で感動の再会……という訳じゃないんだけど。ヒソヒソとルシエルやマモンと一緒に、先方の様子を窺っていると。どうも、向こうはどうやらやる気全開のフルスロットル状態な様子。コンタローがキャッチしていた「ゴウンゴウン」なる騒音の種明かしをしましょうと、床という床から伸びていたチューブを振り切り、間髪入れずにこちらに突進してきた。しかも……。


「フハハハハハ! ここで会ったが100年目! グリードやら! 私がしっかりと成敗してあげます!」

「あ? この声……もしかして、ペラルゴか?」


 一発目はマモン目掛けて、大振りの拳を振り下ろすラディウス天使(新型)だけど。フルメタルなボディから響いてくるのは、どうやら例の怪盗紳士様の顔見知りの声らしい。次々に執拗なまでにマモンを狙っては、ブルンブルンとメチャクチャに拳を振り回し始めた。


「クッ! チョコマカと……!」

「いや……俺、そんなにチョコマカしてないぞ? ただ、お前さんが鈍いだけで……」


 だが、相手は百戦錬磨の大物悪魔。ヒョイヒョイと相変わらずの身軽な動きで、翻弄するように攻撃を躱しながら、シルクハットの後頭部で腕を組んでいる。それにしても……ペラルゴさん(?)はマモン以外は目に入らないと見えて、こちらは随分と暇なんだが。


「あぁ〜。だめですよぅ、ペラルゴさん〜。そんなに暴れたら、定着しませんって」

「お?」


 マモンの余裕っぷりもあり、退屈すぎて俺があくびを噛み締めていると、間延びした声が奥から響いてくる。そうして、どれどれと目を凝らせば……ペラルゴさんの影から、ヒタヒタと裸足の男の子がやって来た。えぇと、こんな所に……子供?


「ですが、私はここであいつを叩きのめさなければ、気が済まないのです! 見ましたか、あのふざけた予告状を! あいつは私から愛しい妻だけではなく、大切な肖像画で奪おうとしているのです! 許すまじッ!」

「妻……? あのさぁ……もしかして、それ……リッテルの事を言ってる?」

「もちろんですとも!」

「……リッテル。一応、確認だけど。お前があいつの奥さんだった事って……あったっけ?」

「いいえ? 一瞬たりともないわ。そもそも……人の事を勝手に妻扱い、しないでくださる? あなたみたいなお馬鹿さんに馴れ馴れしくされるの、とっても迷惑なのですけど!」

「ふ、フゴッ⁉︎ な、な……何を言うのです⁉︎ この上なくエレガントで! この上なくチャーミングで! この上ない地位にいる私を、袖にするなんて……! なんて、馬鹿な女なのでしょう⁉︎」


 ペラルゴさんが残念な感じの人だった……と言うのは、何となく聞いていたけれど。こいつは凄いな。当然の拒絶に逆ギレするのも、エキセントリックだけど……相手はあのマモン様夫妻だし。命知らずもここまでくると、いっそ天晴れだな。


「って……あっ! これはこれは、マモン様じゃないですかぁ。お久しぶりですぅ!」

「あ? ……お前、誰だっけ?」

「いやだなぁ、もう。ほら、僕ですよ、僕。バルちゃんですよぅ」

「バルちゃん……って、まさか。お前、あのバルドルか?」


 勝手にプンプンしているペラルゴさんをサラリと受け流し、男の子の方が意外なまでに気さくに話しかけてくる。しかし、変哲もなさそうな男の子こそが、今回のキーパーソンでもあるバルドルその人らしい。……彼の出自を考えると、人扱いしていいのかは分からないが。どこをどう見ても、普通の男の子だし……今はそこにこだわる必要もないか。


「ほぉ……貴様が噂のバルドルなんだな……?」

「えっ?」


 妙な寸劇含みの再会シーンを、俺がぼんやりと見守っていると。隣からすかさず、ドスの効いたおっかない声が聞こえてくる。その声に、俺が慌てて振り返れば。……すぐ横には、悪魔もたじろぐ凶悪なお顔の嫁さんが立っていた。


「ふふふふ……これは丁度いい。折角だ……我らを欺いた礼も込めて、ペラルゴとやらと一緒に地獄に送ってくれる!」

「ちょ、ちょっと待て、ルシエル! なんの準備もなしに、飛び込んだら……」

「心配するな、ハーヴェン! これで、私も機神族を沈めるのは慣れている!」


 沈めるのは慣れている……って、色々とおかしいからな⁉︎ そもそも、心配しているのはそこじゃないんだが。


(え〜と、ハーヴェン。これ……どうするよ?)

(とにかく、隙を見てバルドルの確保と、ペラルゴさんの救出でいいと思う……。このままだと、本当にスクラップにしかねないし)

(そうなる? しかし、今更だけど……ルシエルちゃん、こっわ)


 うん、俺もよく知ってる。本当によ〜く、知ってる。ルシエルが凶暴で、凶悪で、最凶だって事。今更、そこに驚かないでやってくれるかな。

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