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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−85 『天使と悪魔の日常譚』

 残り1%。侵食されなかったシステムを頼りに、ヴェグタムルはその場凌ぎの空間で息継ぎをしていた。もちろん彼とて、ただ漠然と漂っている訳ではない。彼は待っているのだ……旧知の配下が帰ってくるのを。


「ぷはぁ〜……お待たせしましたぁ、ヴァルプス様ぁ!」

「……帰ったか。して?」

「はいぃ〜。バッチリ、言われた情報も持ち帰ってきましたぁ。まぁ……途中、天使長っぽい魔法道具に邪魔されちゃいましたけどぉ。クシヒメ様の記憶だけはちゃぁんと、回収してきましたよぅ」

「そうか、そうか。大義であった、スヴィパル……いや、バルドル」

「えへへ〜」


 種類名ではなく個体名で呼ばれて、バルドルは白竜の姿で目を細める。そんな彼の姿に、器用に作り替えられたものだと……ヴェグタムルは皮肉っぽく、唇を歪めた。

 そう……彼は知っているのだ。バルドルの「原料」はゴラニア由来の物でもなければ、魔界由来の物でもない事を。確かに、出どころこそヨルムンガルドの腹の中ではあるが。その彼とて……ルーツを辿れば、純粋なゴラニア大陸生まれではない。


「……お前を魔界に預けたままにしておいて、正解だったな。しかし……まさか、義指なんぞに作り替えられるなんて、思いもしなかったが」

「ホントですよねぇ〜。錆びていたとは言え……一応、貴重なヒヒイロカネだったんですけどぉ!」

「全くだ。悪魔というのは本当に何をしでかすか、分からんな。……どういう思考回路で、鏡を義指に作り替えるなんて発想が生まれるんだか」

「でもぉ、ベルゼブブ様は悪い人じゃないと思いますぅ。悪いのは、真経津鏡をホイホイ渡したヨルムンガルドですってぇ。割れてるから使えないだなんて、頭が悪いにも程がありますぅ!」


 もちろんヨルムンガルドとて、魔鏡の重要性は理解してはいたのだが……それをベルゼブブに持たせたのは、ある種の嫌がらせである。醜いお前には割れた鏡がお似合いだ……そう言いながら優越感に浸るだけ浸って、放置していただけに過ぎない。まぁ……それはそれで「頭が悪い」とするのも、あながち間違っていないのだが。

 一方……余程、「鏡だった時期」にぞんざいな扱いをされたと見えて、バルドルはプンプンとご立腹だ。今のバルドルは確かに、機神族である。だが元はと言えば、彼の大元はプランシーの義指であり、その原料はベルゼブブが「たまたま所持していた」魔鏡の枠組み部分だった。とは言え、かつての神聖性は龍神の腹の中でとっくに霧散している。それこそ……オリエントの英雄が勝手に持ち出した、かの国産みの矛と同じように。


「ヨルムンガルド……か。フン、邪神如きが大層な名を使いおって。しかも、我がクシヒメを蔑ろにして……新しい女神ともうつつを抜かしておっただと⁉︎ そんな事なら、クシヒメも巫女共も我が腕に収まれば良かったものを……!」

「それは言えてますね〜。あっちでヴァルプス様……あっ、いや。タケハヤ様に従っていれば、死ななくて済んだのにぃ〜」


 本当に馬鹿ですよね〜……等とご機嫌取りではなく、本心らしい言葉をこぼしては、バルドルがやれやれと首を振る。そんな彼がホロリと零した「本来の名前」に想いを馳せながら……ヴェグタムルもやはり、やれやれと首を振った。

 愛しい相手を取り戻すためだけに、ここまでの長い時間と苦労とを強いられるなんて……誰が予想できたろう。

 タケハヤ……それこそがヴェグタムルと「仮名」を名乗っている「彼」の本来の名前であり、古代の落神を追って海を渡った英雄の名前である。しかし……海を渡ったのは生身の英雄ではなく、英雄の魂を宿した聖剣という名の骨董品だったが。

 聖剣とは言え、道具の身では自ら動くことができるはずもなし。当然ながら、ヴェグタムル……いや、タケハヤは自身を握る者の体を乗っ取る算段でいた。しかし、無駄に「聖剣」だったのが、非常に良くなかった。かつての自分が握りしめていた時には、なんとも思わなかったし、気づきもしなかったが。聖剣はあいにくと持ち主を選ぶ仕様であり、内に持ち主の魂が宿っているともなれば、新しい使い手を定めることさえできなかったのだ。


(……その上、厄介な事にこちらの世界には、ローレライがあった……)


 タケハヤの魂を宿した聖剣は、ローレライの魔力に触れて、ようよう機神界に迎え入れられた。しかし、彼の本体は聖剣の姿のまま。しかも、分類的にはオルドダガーという中級精霊扱いという冷遇っぷりである上に、ローレライの魔力が届かない範囲に出てしまうと、機神族としての死を迎えなければならない「リスク」まで背負う結果となった。それはつまり……ローレライの庇護下から出てしまった瞬間、魂自体を霊樹に返還しなければならない事を意味し、英雄自体の死をも意味している。

 そうして、彼のクシヒメ探しは頓挫したかに思えたが……はてさて、なんの因果か、果報か。そんな聖剣に転機が訪れる。自身が抱えているクシヒメの「悪意」を警戒したローレライ、延いては機神王・ヴァルシラは兼ねてから計画を練っていたようだが。とうとうローレライが大天使・ミカエルに拐かされた段になって、本格的に情報を後継者に引き継ぎ、外へ逃すことにしたらしい。そして、その後継者……ヴァルプスを稼働させる「ローレライの旋律」として選ばれたのが、タケハヤを宿したオルドダガーの魔力回路だった。オルドダガーは一緒くたに同じ精霊として扱われているが、元にしているナイフやら剣やらで当然、性質が大幅に異なる。そのような事情も鑑み、ヴァルシラはオルドダガーの中でも魔力量が高く、かつ……天使と名前込みの契約をしていない個体を選んだのだ。


(条件的にも私はヴァルプスの材料としては「適材」だった……と。本当に、皮肉なものだ)


 ヴァルプスとして稼働してから、彼の魂は彼女の中に留め置かれつつも……表立って自己主張することは許されなくなった。それでも、意識の残滓は健在のまま。そして、ローレライがグラディウスに衣替えし、ヴァルプスがグラディウスの「悪しき魔力」……つまり、「クシヒメの悪意」に触れ、吸収した瞬間。彼女の中に眠っていたタケハヤも目覚めたのだ。ヴァルプスの意識を水面下で扇動し、ミカエルに吸収されてからも、虎視眈々と復活の時を待ちに待った。そうしてプログラムの仮想空間であっても、それなりの牙城を手に入れたのだが……。


(それも結局、調和の大天使に崩されてしまった……か)


 だが、既のところで脱出ができたのだから良しとしようと……ヴェグタムルは独り言ちる。グラディウスの苗木も、自身の魂もきちんと残っているのだから、再挑戦は可能だろう。そう……今度こそクシヒメを復活させ、彼女を苦しめた者に復讐する。そのために……グラディウスが好き好んで集め始めた「悪意」を利用しない手はない。


「……クク。今に見ておれ、マナの女神に……ルシエルとやら。この世界には生憎と、グラディウスの大好物で満ちているのだ。お前達がどんなに足掻こうと……世界に悪意が満ちる限り。このグラディウスが枯れることはない。そして……グラディウスの真の主人でもある、私も不滅のものとなろう……!」

「おぉ〜! でも……悪意を吸い取るのは、ヨルムツリーのオハコでもありますよぅ? それじゃぁ、ヨルムツリーと悪意を取り合うことになるんじゃ……」

「そんなもの、捨て置け。アレの好物は、悪しき魂そのものだ。こちらの求めるものとは傾向が異なる。それに……何も、私の糧はこの世界だけに求められるものではないぞ」

「と、言いますと?」

「この世界には、別分岐の世界軸……パラレルワールドが存在していることが分かっている。お前も知っての通り、オリエント地方には別枠で地獄が存在していたが……死後の世界が2つ存在しているのは、別世界の次元が捻れてくっついた結果らしい。それに……ゴラニアとオリエントの魔法概念が根本的に異なるのも、異次元の大陸が同じ海の上に浮かんでしまったことが原因なのだ」

「ほえぇ〜、そうだったんですかぁ? だけど、タケハヤ様……それ、どこで知ったんです?」


 バルドルの疑問は当然だろう。古来から同じ世界軸で存在していただけの、別大陸が実は「別世界同士がくっついた結果でした」だなんて、論理の飛躍にも程がある。


「……答えはこれだ」

「えぇと、それは……何の資料ですか?」


 ヴェグタムルが満足げに呼び出したのは、真っ白なパネルにただただ羅列されただけの、文字の山。そうして、1番上の表紙らしき部分に書かれている「タイトル」をバルドルに読み上げようとするが……。


「そもそも……それ、何の文字なんです? 全ての言語を網羅しているバルちゃんでも、読めないんですけどぉ?」

「これは『天使と悪魔の日常譚』と言うらしい」

「はい? 『天使と悪魔の日常譚』……ですかぁ?」

「あぁ。書かれているのは紛れもなく、この世界の物語のようだが……明らかにこの世界の言語体系とは全く異なる文字で書かれていてな。そんなものが……なぜか、ローレライの奥底に封印されていたのだよ。使われているのはオリエント・ヤポネに近い言語体系のようだが、同じアルゴリズムとも言えなくてな。私も冒頭しか読み取れていない。だが、これの存在からしても……この世界を知っている別次元の奴がいると、考えていいだろう」

「……えぇと? それで……パラレルワールドと、どのような関係が?」

「この世界を描いているはずなのに、明らかにこの世界で書かれていない物語が、なぜかローレライの奥に眠っていた。それは要するに、かつてのローレライには秘密裏に別次元の世界と繋がっている部分があるという事なのだろう。それが果たして、ローレライの意思なのか、偶然なのかは知らぬが。その別次元から、この世界の者ではない存在を呼び出せば……有用な戦力になると思わんか? 何せ、この世界の物語を“書いている者”がいるのだから。そいつはきっと、この世界の全てを知る者……全知全能の神に違いない。悪意も集め放題だろうし……そいつの手にかかれば、世界そのものを作り替えることもできるかも知れん」

「おぉぉ! それは確かに、凄いですぅ! そんな奴を呼び出せたら、あいつらに一泡吹かせられますね!」


 そうして……まだまだ暗澹とした仮想世界の隅っこで。古代の英雄と、古代の神具だった機神族は、果てしない夢を再び見始める。どんな世界であろうとも、どんな次元であろうとも。本当に完璧な神、失敗しない神……全知全能の神など、存在しないと言うのに。古代から続く横恋慕を拗らせに拗らせて……ヴェグタムルの旋律は途切れることを知らない。

 それでも、なお……彼の野望はこの先、中途半端に成就することとなるのだが。それはまた、別のお話である。

【作者より】

本編はここまでですが、この先は「後日譚」と称して、若干拾い切れていない部分のサイドストーリーを展開していく予定です。

もうちょこっとだけ物語は続きますので、最後までお付き合いただけると幸いです。

何卒、よろしくお願いいたします。

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