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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−76 ずっとずっと側にいるから

「ルシエル……! ルシエル……!」


 朧げな意識の遠くで、旦那が私を呼ぶ声が微かに木霊する。だけど、「当り所」が悪かったのか……私はロンギヌスから手を離せないまま、ハーヴェンの呼び声に応じる余裕さえ持てなかった。


(……あぁ、視界が霞んでいく……)


 魔力もない、疲労も蓄積している。今の今まで、緊張感と使命感とで無理やり戦線に参加していたが。ここにきて……どうやら、限界を迎えてしまったらしい。それでも……。


(私の意識がなくても、プログラムさえ……プログラムさえ、完遂してくれれば……)


 役目だけは全うできる。

 こんな状況になっても、手放せないロンギヌスの質感さえも、朧げになってくる。そうして、私の意識はフツと途切れたかのように、思えたが……。


(……?)


 ここは……どこだ?

 ぎこちない浮遊感に、不安一杯とばかりに辺りを見渡せば。そこは不思議な七色の色彩が蠢く、明らかに見慣れない場所だった。右手には相変わらず、寂しがり屋なロンギヌスが収まっているが……。


「ロンギヌスが……光っている……?」


 しかし、当のロンギヌスはただただ寂しいだけじゃないと、意思表示を忘れていないらしい。……何かを示すように、穏やかな光の収縮を宿していた。そんな神具の鋒を見つめれば……まるで私を案内するかのように、一筋の頼りなさげな光彩が続いている。


「……この先に、行けばいいのか……?」


 自分が置かれている状況も、自分が佇んでいる場所さえ、分からないけれど。だが……どことなく、安心させられるロンギヌスの仄かな煌めきを見つめていれば。私は何故か、光の筋を辿るべきだとハッキリと理解していた。何れにしても……今は立ち止まっている場合ではないことだけは、確かだ。


***

「ルシエル! ルシエルッ⁉︎」

「ハーヴェン、ここは妾に任せろ! とにかく、ルシエルの元へ!」

「すまない!」


 グランディアの相手を一旦、マナさんにお願いするものの。そうして、ルシエルの元に駆け寄ってみたところで……俺には、嫁さんを癒す手段はない。

 頭から血を流しているのを見る限り、ルシエルは天井の落下物をマトモに食らっちまったみたいだ。それでも、両腕でロンギヌスを抱えるようにしていることからしても、彼女は自分の命よりもプログラムの完遂を優先したらしい。意識を失っているのにも関わらず、ロンギヌスに添えられた小さな手は、がっちりと握り締められている。


「クッソ……! ロンギヌスのバカ野郎……! お前が嫁さんに行くなって言うから……!」


 仕方なしに、指先でルシエルのおでこをそっと撫でては、これまた見事に出来上がったたんこぶを冷やす。それでも、ルシエルはピクリとも動かないまま、反応もない……って、うん?


「ルシエル……?」

「……こっち……か?」

「えっ?」

「……こっちに行けば……いいんだな?」


 反応がないとばかり、思っていたけれど。俺の認識を軽く裏切って、ルシエルはピクピクと忙しなく瞼を動かして、唇から譫言を紡ぎ出す。もしかして、ルシエルの意識は……。


(この状況……何となくだが、ダークラビリンスのそれに近い気がする……)


 もちろん、ルシエルの魂は肉体から離れていなさそうだし、俺とのシンクロも維持されたままだ。気を失っているだけ……にしては、かなり心配な状況だけど。すぐに天に召される、と言うわけでもないらしい。だが、意識がどこかを彷徨っているのなら、話は別だ。もし、彼女の自我が迷子になったまま魂に戻らなかったら……最悪の場合、ルシエルの記憶が吹っ飛ぶ可能性がある。


「えぇと、こういう時は……」


 無駄に声を掛けるよりも、目印になれるように努めた方がいい。ダークラビリンスの効果とは状況が大幅に異なるだろうけど……もし、ルシエルが別の「精神世界」を彷徨っているのなら。ベルゼブブが気まぐれにやらかしていた「お遊び」の教訓も活かせるかもしれない。


(……こんな所で、あいつの「実験」が役に立つなんてな。本当に……悪趣味にも程がある)


 ベルゼブブのお遊びの教訓……それは他でもない、「ダークラビリンスから抜け出すにはどうすればいいか?」というお題に沿って、あいつが面白半分で獲物相手に禁呪をぶっ放してきた実績結果の事だ。

 ベルゼブブ、曰く。可能性は限りなく低いが……ダークラビリンスを使う側ではなく、かけられる側になった場合に、「どう抵抗すればいいか?」を模索していた時期もあったとの事。そして、あいつが無責任なりに辿り着いたのは、「迷子になったら救いの手を差し伸べてもらうこと」……と、当時の俺には微妙に分かるようで分からない対処法だった。だけど……今の俺には何となく、その対処法は効果がありそうだと思えてくる。


(ルシエル、大丈夫だ。……俺はずっとずっと側にいるから)


 ルシエルは俺が声を掛けても反応しなかったが、おでこを冷やした瞬間に反応を返してきた。このことからしても、今の彼女には聴覚よりも触感による刺激の方が効果的っぽい。実際に……彼女の手を慰めるようにさすると、ポッと頬に穏やかな赤みが差した。


「グリュリュリュ……! グルアァァァァッ! よくも……よくも……!」

「……!」


 しかしながら、ルシエルが気絶していてもグランディアの攻撃対象から外れるだなんて、甘い展開もなくて。2号ちゃんの自爆で出来上がった傷を庇いながら、グランディアが咆哮と同時に鎌首を上げる。そうして、睨まれると……うん、俺はそろそろ限界かも。ボタボタと粘度の高そうな体液(しかも色は黄土色)をぶちまけながら、ズリズリと蠢く様は……恐怖以上に不気味さが大盛り過ぎて、神経がキュッと竦む。


「……醜さもここまでくると、どう罵って良いのか、分からんな?」

「いや、そんなことを言っている場合では……」

「ふむ? そうかの? ……神にとって、ビジュアルは意外と大事な要素でな。現に……ほれ」

「お……?」


 マナさんがトンチンカンな事を言い出した……と、思いきや。彼女が視線で示す先には、いつの間にかグランディアこそを睨みつけている、いかにも偉大そうな竜の頭が見下ろしていた。だけど、その白い頭は竜族ではなくて……。


「あれ、もしかして……」

「うむ。……ドラグニールとユグドラシルが無事に手を取り合えたようだ。あの美しい姿は、ユグドラシルの新しい形態だと申して良いだろう。やはり、霊樹はこうでなくては。そして、だとすれば……そろそろ、かの」

「うん?」

「……妾は何も、1人でこいつを降そうとは思っておらん。今まで散々、独善で失敗してきたのだ。これを機に……新しい女神を補佐に迎えるのも、一興だろう」


 新しい女神(しかも、補佐)? それって、誰のことだ?


「グッ? ギャァァァッ⁉︎ お、おのれ……!」

「ふふっ、見事に命中っと! ほらほら、枯れ木はそれらしく、燃え尽きちゃいなさい!」


 意味ありげな女神様のお言葉に首を傾げていると、ド派手な火球がグランディアの頭に命中する。そんな不意打ちの卑怯技を放ったのは……。


「くっ……キサマ! ワタシをダレだとオモっている⁉︎」

「そんなの、知ったこっちゃないわ」


 恐れ多いはずの怪物女神様相手に、不敬極まりない言葉を吐いて。次々にヘルフレイムの特大火球をぶつけまくるのは、明らかなる顔見知り。えぇと……アーニャ、だよな。あれ。


「随分と苦戦してるじゃない。あんたらしくもない」


 グランディアを一通り燃やし尽くしたところで、ようやくアーニャが俺の側に降りてくるけれど。う〜ん、俺としてはやっぱり展開が読めないんだが。


「あ、あぁ……しかし、アーニャがどうしてこんな所にいるんだ……?」

「あら、随分なご挨拶だこと。折角、助けに来てやったのに」


 いつもの強気な調子で、俺を詰るアーニャだけど。マナさんの言っていた女神って、アーニャのこと……じゃないよな。多分。

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