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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−72 野蛮女神と田舎女神

「返せ! それは、私の継子ぞ! 返せ、汚らわしい悪魔め……! よくも……騙したなッ‼︎」


 喉元からセフィロトを切り離され、グランディアと名乗る古代の女神がしっかりと裏切り者を演じ切った悪魔を罵り、激昂する。しかしながら、そんな鬼気迫る形相で睨みつけられる、当の悪魔……ハーヴェンはと言うと。


「あはは……騙していて、悪かった……とでも、言えば良いかな? クシヒメ様」


 この余裕っぷりである。傷が癒えたせいもあるのだろうが、そうも朗らかに笑われると……一緒に緊張し切っていた私も、一気に脱力してしまうではないか。


(敵を騙すには、まずは味方から……とは言え、私は最初から騙されていないけれど)


 相変わらず、妙な符号を使ってからに。咄嗟に変な悪巧みに巻き込まれたのだから……全てをやり切ったら、美味しいデザートで穴埋めしてもらおう。


「その名は好かん! 私は新たなる女神・グランディア……新しき世界の、新しき最高神になるべき存在! 外道女神に負けた名など、とうに捨てておる!」


 それにしても、グランディア……か。その名前、ミカエルも名乗っていた気がするが。どうやら、グラディウスの女神は皆、自らを「グランディア」と名乗る習性があるらしい。かつての名前を捨て、自分自身を刷新したいが故の改名だと思うのだが……今はそこを気にしている場合ではないな。私はとにかく、一刻も早くロンギヌスのプログラムを完遂せなねば。


(……マナのお陰で、ハーヴェンは無事みたい……だな。セフィロトの容体も気にはなるが……まぁ、それこそハーヴェンに預けておけば大丈夫だろう)


 神界の女神であり、全ての光属性の魔法を熟知するゴラニアの唯一神の手にかかれば、どんな深傷の全快も容易い。先程まで風前の灯だったハーヴェンの命は、マナの魔法で見事に再起を遂げていた。


「う〜ん……そう言われても……。イマイチ、ピンとこないなぁ……そもそも、セフィロト君はマナさんの息子だろ? それを勝手に囲い込んじゃ、可哀想だろうに」


 しかも、本人はあれ程の傷さえも忘れましたとばかりに、呑気に頭を掻いているではないか。


(ここまで鮮やかに回復されると、なんだか悔しいが……ここは素直に感謝した方がよさそうだ)


 4重の魔法陣の上で、グランディアに応じる大きな漆黒の悪魔は、大切そうにお包みを優しく揺らしている。そんな悪魔の足元には、心配そうに彼を見上げる鋼鉄の肌を持つ幼な子。なんだろうな、姿形は悪魔なのに……ハーヴェンの動作が優し過ぎるせいだろう。魔法陣上の光景だけ見れば、穏やかな家族団欒そのものだ。まぁ……その家族構成もかなり特殊だけど。


「セフィロトは間違いなく、私が育てたのだ……! 長い長い間、ローレライの檻で一緒に過ごし……セフィロトを神にまで昇華させた! その私を母と呼ばずして、なんと呼ぶ⁉︎」

「いいや。あれは紛れもなく、妾の息子だ。お前の子ではない。しかも、セフィロトはお前を母親と認めてはいなかったようだが?」

「それは貴様も同じであろう!」

「そう、だな。口惜しい事この上ないが。……あの子は私ではなく、アリエルを母と慕っておったな」


 マナは既にセフィロトとの「親子関係」については、吹っ切れている様子。お決まりの皮肉めいたため息を漏らしながらも、手元に見るも禍々しい白銀の大鎌を呼び出した。


「まぁ、いい。……セフィロトが貴様の腕から離れたとあらば、もう遠慮も必要なさそうだ。ここからは存分に、力を奮う事ができる」


 まさか、マナの女神は肉弾戦もこなせるのか……? てっきり、ここから先は魔法戦になると思っていたのだが。


「それはこちらとて、同じ事! 居城を傷つけたくなかったから、力を抑えていたが……貴様だけは、完膚なきまでに切り刻んでくれる!」


 しかし、対するグランディアも負けていない。マナの得物に対抗するように、すぐさま姿を変え始める。そうして、むせ返るような臭気と一緒に、ザックリと彼女の背が破れたかと思えば……見事な翅をはためかせる、翡翠色の蛾がふわりと浮き上がった。だが……彼女の腹からはしっかりと3対6本の白い腕が生えており、前肢には鋭い鉤爪がしっかりと付いている。マナに並々ならぬ敵対心を燃やす、魔物の色彩は美しいながらも……ディテールはどこまでも不気味だ。


「大人しく、くたばれ! この田舎女神が!」

「それはこっちのセリフだ、野蛮女神!」


 ……しかし、武器がぶつかり合うと同時に幼稚な罵倒も飛び出すものだから、やっぱり私としては脱力してしまう。野蛮女神と田舎女神……か。取るに足らない軽妙な悪口でしかないが、当人同士にとっては癪に障る言葉でもある様子。激しく切り結ばれる武器と前肢の金属音より、女神達の金切声の方がグレードアップしていくのだから、仲裁に入るのも馬鹿馬鹿しい。


「……ルシエル様、お待たせしました。……ある程度の経路を特定致しました」

「本当⁉︎ それで、2号。その経路はどこに……」

「あちらになりますが……すみません。また、厄介な場所のようです……」

「……」


 プログラムを打ち込めそうな経路を確保したという、2号が場所を知らせてくれるものの。彼女が申し訳なさそうに指差す先は、どうやら……「田舎女神」が脱皮した後の抜け殻の下、という事らしい。


(嘘だろう……? あそこまで、どうやって辿り着けばいいんだ……?)


 チラと横目で、女神達のぶつかり合いを窺えば。言葉と一緒に、攻撃もますますヒートアップしている様子。髪を振り乱し、一心不乱にギリギリと鍔迫り合う様は優雅さの欠片もなく、修羅の形相そのもの。しかも悪いことに、互いの魔力までが放出され始めており、彼女達の熱気は部屋中の空気を震わせ、床や天井さえも崩し始めている。

 そして……目的地はそんな激戦区を横切った先。迂回しようにも、女神達が縦横無尽に暴れ回っているので、こっそり安全に辿り着くのは難しい。


「……⁉︎」


 その上、激しい揺れと同時に降り注ぐのは、天井を形作っていた金属の塊。グラディウスの前身がローレライということもあるのだろう、玉座の間自体はそれなりに堅牢な素材でできていたみたいだが……セフィロトの白い根による補強も剥がれつつある状況で、女神達の激突による衝撃に耐え切れなくなったのだ。今度は無作為に切り取られた黒金が、容赦無く落下してくる。


「クアッ⁉︎ あ、あいたたた……」

「ルシエル様、大丈夫ですか⁉︎」

「う、うん……何とか……」


 ……なお、私の魔力は未だ回復し切れていない。怪我をしても、回復魔法も満足に使えない状態だし……何より、自分に使える魔法があるのなら、ハーヴェンにかけてやりたかった、が本音だ。兎にも角にも、今が弱音を吐いている場合じゃないのだが……。


(って……あ、あれ? そう言えば……そのハーヴェンはどこに行ったんだ……?)


 さっきまで、マナの作り出した安全地帯に留まっていたと言うのに。彼の姿を探しても、魔法陣の上にはセフィロトのお包みをぎこちなく抱き締めているラディエルが座っているのみ。……こんな時に、一体どこへ……?


「大丈夫か、ルシエル」

「ヒァッ⁉︎ とっ、突然、後ろから声を掛けるな!」

「うんうん、この反応なら大丈夫そうだな。それはそうと……とにかく、行くぞ」

「えっ?」

「プログラムを完成させるんだろ?」


 そうしていつもの調子でウィンクしては、陽気に振る舞うハーヴェンだけど。しかし、だな。そうは言っても、かなり厳しい状況なんだが……。


「ほら、マナさんも言ってたじゃないか。責任を取らないといけないし、そのために道筋を示すくらいはしてやろう……って」


 確かに、そんなことを言っていた気もするけれど。彼女の呟きにどんな打開策が隠されているのか、私にはサッパリ分からなかった。だが、ハーヴェンには何かしらの心当たりがある様子。大丈夫だと、金属片で出来上がったおでこのタンコブを優しく冷やしてくれながら、嬉しそうにしている。しかし……なんだろうな。こうして抜かりなく気遣われると、ハーヴェンには色々と敵わない気がして、やっぱり悔しい。

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