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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−70 ロンギヌス・プログラム遂行作戦(仮称)

(うわぁ……なんだろうな、アレは。メチャクチャ、気持ち悪いんだけど……!)


 ロンギヌス・プログラム遂行作戦(仮称)が完遂されるまで、ルシエルから時間稼ぎをお願いされたのはいいんだけど。目の前のクシヒメさんはいよいよ、美的センスも壊滅的な化け物に成り果てていた。

 モゾモゾと波打つ表皮は不気味なくらいに真っ白で、無数に生えた手は忙しなく動き続け、落ち着く暇もない。しかも、本体の昆虫ボディはそのまんま。……いや、それどころじゃない。しっかりと「何かの栄養」を吸収したのか、芋虫チックな胴体がウニョ〜ンと伸びていて、プリプリしている胴体で器用に塒を巻いている。その姿に……俺とラディエルは、別の意味で戦慄していた。


(ベルゼブブ以上に悪趣味な奴は、この世にいないと思っていたけれど……)


 うん、ベルゼブブも真っ青だな。生存本能にガンガンと警鐘を鳴らしてくる、この生理的に受け付けない感じ。ベルゼブブも悪趣味と無責任の塊だったはずなのに。そんなうちの親玉が……無事にキング・オブ・悪趣味・第2位(俺史上調べ)にあっさり転落したぞ。


「それはさておき……どうしようかなぁ。お兄ちゃんも助けてあげないとなぁ……」


 そんな気色の悪いクシヒメさん……改め、女神・グランディアは鎌首の根本から生えた手で、愛おしそうに「お包み」を抱いている。そして、お包みの中身は言わずもがな。グランディアさんが「継子」と呼んでは、何故か溺愛している少年神様だったりするのだけど。


「どうなのかな? 私には正直、分からないわ。……別に、いなくてもいいと思うけど」

「おぉう……やっぱり、そうなる?」

「うん。むしろ、いない方が清々するわ。セフィロトがいない方が、この世界にとっても都合がいいんじゃない?」

「ま、まぁ……それもそうなんだけど……」


 とは言え、このまま見殺しはちょっと可哀想だし、状況的にまずいよなぁ……。どうもマナさんはまだまだ、セフィロトを諦めていないみたいだし。明らかに、彼女の攻撃の手は緩みっぱなし……お陰で、こちらへの流れ弾の数もかなりの量だ。


(できれば、女神様だけを仕留めたいんだけど……どうすればいいかな……)


 しかしながら、防戦一貫の状況で、芋虫女神様の本体を狙うのは相当に難しい上に……リスキーだと考えるべきだろう。彼女の本体を叩こうにも、彼女から放たれるのは無数の枝による、強烈な弾幕攻撃。コキュートスクリーヴァと尻尾の氷、そんでもってラディエルの防御魔法でやっと凌いでいる状態では、攻撃の隙さえ見つからない。

 しかも、マナさんの「セフィロトが取り込まれてしまう」という指摘からしても……愛でていると見せかけて、グランディアはセフィロトを養分として吸収しているらしい。少年神様を強引に丸め込み、赤子扱いするとと同時に……彼の存在そのものを吸い取っては、自身は成長しているのだから、どこまでも悪趣味だ。


「おほほほほッ! ほらほら、どうしたのだ? マナ! その程度では到底、私を降すことはできぬぞ!」

「……ふん。田舎女神がほざきおって。……仕方あるまい。これ以上、お前に預けたままでは……セフィロトは飼い殺される以前に、食われてしまう。……それにしても、意地汚い田舎女神はやり口も汚い。栄養を吸い取ると同時に、退化させるとは」

「おや、心外な。私はただ、この子に相応しい愛を注ぎ直そうとしているだけぞ。お前が諦め、汚泥の中で惨めに生き延びた経験など……私の愛しいセフィロトには必要のない記憶だからな。折角の機会だ。……世界を作り直すと同時に、正式に我が子として育て直すとしようかの。だが、その前に……」


 グランディアの言葉が途切れたと同時に、強烈な攻撃が襲いかかってくる……と見せかけて、明後日の方向に弾幕が向けられるけれど。ちょ、ちょっと待て! 狙うなら、俺を狙え、俺を! ここでしっかり、嫁さんに狙いを定めるなって!


「させるか……! グルルルルァッ!」

「ハ、ハーヴェン!」


 ゔっ……かなりザックリきたぞ、これは……。致命傷にならないにしても、咄嗟に飛び出たもんだから、キッチリ食らっちまった。しかも……。


(……ルシエルはさっきの防御魔法で、魔力をほとんど持っていかれているし……。何より、こんな事で心配かけたくないし……)


 仕方なしに、傷を氷で冷却しながら無理やり止血するけれど……当然ながら、痛みは全然治まらない。それでも……うん、ここはしっかり立ち上がらないと。生傷だって、痩せ我慢だって……悪魔になる前から、しこたま経験してきただろうに。今更この程度で膝を着いているようじゃ、大天使様の旦那は務まらないよな。


「ハーヴェン、待ってて! 今……」

「来るなッ!」

「えっ……」

「俺の事はいい! とにかく、お前は自分はするべき事を、するんだ!」

「だっ、だけど……!」


 今にも泣き出しそうなルシエルを牽制し、もう1つ獰猛に唸っては……グランディアを睨み返す。回復魔法を見込めないのは、少々キツイが……あぁ、大丈夫。ルシエルと一緒にこれから先も生きていくんだと、思い直せば。まだまだ、やれる……いや。やって見せる。


「……なるほど、お前も相当にしぶといようだの? ……ふふ。そちの健気で忠実な態度……それに、なかなかに良き面構え。非常に気に入ったぞ、悪魔。どうだ? その傷を癒してやるから、私の元に来ないか?」


 しかし、意外や意外。基準はよく分からないが、俺の蛮勇をグランディアの女神様は痛くお気に召された様子。芋虫ボディにくっついた、不気味なお顔でトロリとした眼差しを向けてくるけれど……あっ、この感じはもしかして。女神様、息子だけじゃなくて伴侶も欲しい感じ……なのか? そうなのか……どうなんだ⁇


「ゔっ……それ、どういう意味かな?」

「なに、悪いようにはせぬ。ただ、新しい眷属が欲しいと思っただけだ。あぁ。眷属扱いが嫌なら、情夫でも良いぞ?」


 いっ、いやぁぁぁ⁉︎ やっぱり、そっち? そっち方面のお誘い⁉︎

 もちろん、全身全霊を賭けてお断りだ……と、言いたいところだが。……待てよ? もしかして……これ、ひょっとすると大チャンスだったりする?


「よし、乗った。その話、詳しく聞こうかな」

「な、なにを言っているんだ、ハーヴェン! 回復魔法くらい、少しすれば私だって……」

「逆に、さ。考えれば、考える程……俺はどん詰まりじゃないか。こっちの女神様に従えば、チャンスが巡ってくると思わない? 俺だって、新しい世界を見てみたいよ」

「……!」


 綺麗なブルーの瞳を見開き、大粒の涙をポロッとこぼした後に……さも、悔しそうに俯くルシエル。だけど俯いた先で、控えめにコクコク頷いてくるのを見るに……ルシエル、しっかり気づいてくれたみたいだな。俺のグランディア誑し込み作戦(即席かつ仮称)に。


「ちょっと待ってください、ハーヴェン様! それじゃぁ、ルシエル様が……」


 しかしながら、ハタから見れば俺の言動は立派な裏切り行為に映る訳で。慌ててルシエルちゃん2号が、待ったをかけてくる。もちろん、俺だって辛いよ。分かってもらっているとは言え、ルシエルを泣かせるのは。


「いい……いいんだ、2号」

「えっ……」

「……ハーヴェンの言う通りだ。今の私は、彼に回復魔法もかけてやれないお荷物なんだ。するべき事もできず、言い募るだなんて、ムシが良すぎる」

「ですが……!」


 しっかりと2号を諫め、諦めたようにため息を吐くルシエルだけど。うんうん、ますますいい感じ。2号がちゃんと慌ててくれた甲斐もあり、俺の裏切り(演技)に信憑性もプラスできたな。これなら……しっかりとチャンスをもぎ取れそうだ。


(……失敗は許されない……。この傷で、仕損じたら……間違いなく、アウトだ)


 俺がルシエルを裏切るフリまでして、果たそうとしているのは……セフィロトをグランディアから引き剥がす事、ただ1つ。グランディアの栄養源であり、マナさんの泣きどころでもある少年神様をひっぺがせば、戦局は大きく変わる。それこそ……この世界で終わるか、生き延びるかの瀬戸際だ。何が何でも、裏切り者を演じ切らなければ。

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