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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−62 いちいち、口に出さんでもいいわ!

 ドラグニールに攻撃されていると見せかけて……いよいよ、ワラワラと悪巧みの根っこを伸ばし始めたグラディウス。その思いがけない接触に、心なしか……ドラグニールの面影が、歪んだように見えた。


(うわぁ……めっちゃ、気持ち悪そう……)


 目の前のアレを例えて言うなら……脱色したベルゼブブの触覚が大量発生した感じ? しかも、この場合は下手に色が白いのも、気色悪さに拍車をかけている気がする。ざわざわと無遠慮に巻きつき、蠢く様は何となく、死体に群がる蛆虫にも見えて。……生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない。


「カリホちゃん。えっと、悪いんだけど……」

(えぇい、分かっておる! いちいち、口に出さんでもいいわ!)

「うん、ごめん。そんじゃ、御託は程々に……ここらでいっちょ、大暴れと洒落込みましょうかね?」


 皆まで言うな……とでも言いたげに、カリホちゃんからはちょっぴり怒ったような反応が返ってくる。反抗的な態度も叱咤なのだと諒解しては、口よりも先に手を動かしましょうと、バサバサと気色悪い根っこを刈り上げてみる。


「あっ、グリードのお兄ちゃん! 来てくれたの⁉︎」


 そうして最前線に乗り込み、華麗に剣を振るう(なつもり)と同時に、妙に不本意な呼びかけが聞こえて……別方向にゲンナリしてしまう。天使長様からのご要望で、やって来たのはいいんだけど。皆さんの前で「お兄ちゃん」呼ばわりしないでほしいんだ。


「ハイハイ、ドラグニールさんの一大事に馳せ参じましたよ……っと。それはそうと、エルノアちゃんも随分見違えたな? ……中身はそのまんまっぽいけど」

「……すみません、マモン様……。エルには後で、ちゃんと僕から説明しておきます……」

「うん、それでお願いできる?(……ギノ君も見違えたのはいいけど、苦労続きっぽいな……)」


 特殊能力からしても、プリンセスには俺の気分は筒抜けだと思うが……ギノ君の萎れた声を聞く限り、エルノアちゃんご本人は自覚もすっからかんっぽい。これまた、キョトンと可愛らしく白いお顔を傾げているが。この調子じゃぁ、ギノ君も前途多難そうだなぁ……。


「それはそうと……あぁ、あぁ。キリがねーな、本当に……」

(……言っておくが、小生のせいではないぞ?)

「んなこたぁ、言われなくてもわぁーってるよ。これはお前さんのせいじゃなくて、俺のせいだ、俺のせい。俺の腕が足りないのは、気づいてるし」

(ほぅ?)

「……はぁぁ。俺はまだまだ、未熟みたいだぁ……」

(……)


 こんな所で、自分の腕のなさを痛感させられるなんて、切なさマックスなんですけど。それでも、腕が足りないなりに何とかしないといけないし……何より、頑張っているのは俺だけじゃないし。

 きっと、ルシファーの伝令がようよう行き渡ったんだろう。改めて周りを見やれば、さっきまでグラディウスを責め立てるばかりだった精霊の皆さんも一生懸命ドラグニールさんを引き剥がそうと、引っ張り始めている。


(……あっ、あのでっかいドラゴンはゲルニカさんかな?)


 灼熱の青い炎を吐きつつ、尻尾で果敢に根っこを薙ぎ払う姿は、流石は大精霊の竜神様と言ったところか。……いつぞやに、エルノアちゃんにさえも呆れられていた魔法書マニアと同一人物に思えない。


「今はとにかく、腕がないなりに頑張るしかないか。……ここは奮えない腕でも、振らにゃいかんだろうし」

(……そういうことなら、小僧。小生を使って良いぞ)

「えっ? いや、もう十分に使わせてもらってますけど?」

(そう言う意味ではない。……ティデルを小生から引き剥がした時、輝夜を取り込んでおったろう? 魔力は多少、小生も担保してやるから、バーサークモードとやらになればよかろう)

「あっ、そう言うこと……。だけど、いいのか? あれはそもそも……」

(……ふん。ここまで馴染んだら、小生とて腹を括るわ。皆まで言わせるな)

「……」


 刀の身で腹を括るって、どうやるんだ……は、さておき。この申し出、本当に受けても大丈夫なんだろうか?

 カリホちゃんのご提案……それは是光と同じように、俺に無条件で力を貸してくれる、という内容ではあるのだが。バーサークモード下での取り込みは、ただただ力を貸してもらうだけでは済まなかったりする。バーサークモードを意図的に起こす場合、どうしても紋章魔法を発動しなければならないが、紋章の影響は俺自身だけではなく……付随する要素全てに及ぶ。要するに、バーサークモードの俺に一度でも「取り込まれる」と、自動的に虎の紋が刻まれることになって……完璧に俺に隷属する格好になる。

 大悪魔の権能って言うのは、本当に厄介だよな。……俺自身が望まなくても、強欲の領分を発揮したら最後、使い込んでいる道具にさえも勝手にマーキングするんだから。相手が祝詞持ちのイキモノだったら、強制的に紋を刻むなんて暴挙は発生しないけど。カリホちゃん達はしっかり魔法道具、下手にマーキングできちゃう余地があるから、却って面倒臭い。


「しかし、なぁ……カリホちゃん。それ、大丈夫なのか? つまりは……俺を正式に持ち主認定するって事だぞ? しかも、悪魔の寿命はガッツリ無期限なもんだから……契約は半永久的になっちまうと思うけど……」


 それに、さぁ……俺はあんまり、紋章魔法を隷属側で使いたくないんだよ。十六夜以下、他の4振りとは本人(本刀?)と合意の上でご一緒していただいていますが。それだって、俺は渋々だったんだから。


(ほほ……若、迷うことはないぞえ? 酒呑のそれは照れ隠しぞ。どうせ、今更になって若から離れ難くなったのであろ?)

(違うわ、この変態が!)

(うむ、うむ。拙僧も痛いほど、理解できるぞ。敬愛する猊下がお困りとあらば、手を差し伸べたくなるのは道理なり)

(いや、そういう訳では……)

(おんや、主様のお手前に恍惚としておったのは、どこの誰でおじゃる? 心配せずとも、主様は麻呂達をぞんざいに扱ったりはせぬぞ? この際じゃから、主様とWin-Winの関係を築くのも、一興でおじゃる)

(だから! そうではないと、言うておろうに! 小生はただ……小僧が困っているのを見かねて、だな……)


 見かねてもらえるだけ、ありがたいのか、これは。それにしても、Win-Winの関係って。……相変わらず、風切りはどこでそんな言葉を覚えてくるんだろう……。


「ほれほれ、お前ら。そうもやんややんや、囃してやるなし。しかし……カリホちゃんも、本当にいいんだな?」

(……小生は構わぬぞ)

「紋章魔法の束縛は絶対だ。俺に取り込まれたら、クシヒメさんに愛でてもらうこともできなくなるんだぞ?」

(それも仕方あるまい。それに……クシヒメ様は巫女であって、剣客ではなし。存分に小生を振るう腕もなかろうて)

「そ? それじゃ、交渉成立だな。まぁ、会わせてやるくらいはしてやれるし、そこは心配しなくていいぞ。そんじゃ、改めて……今後とも、よろしく頼むわ」

(分かっておる! 小生の持ち主になったからには、キッチリ稽古もつけてやるから、覚悟しておけ!)


 おぉ、おぉ。言うね、言うね。

 なんだかんだで、こいつらは潔い程に実力主義者なんだよな。さっき、自分の力不足を再認識したばっかりだったけど。カリホちゃんの審査的には、俺は持ち主としての資格はあるらしい。お稽古のカリキュラムが気になるが……それはおいおい、ご教授いただくとしましょうか。


「そういう事なら、ここは勢いに乗るっきゃないな。リッテル! 悪いんだけど……」

「えぇ、もちろん大丈夫よ。存分に暴れちゃってください!」


 うっし、そうと決まれば……善は急げ、っと。とにかく、ドラグニールさんに取り憑く蛆虫を根こそぎ伐採してやらないと。


「刻まれし力を解放せん。我が根源の名に於いて汝の定めを覆さん! エンチャントエンブレムフォース・グリード……っと。そんじゃ、ま……カリホちゃん、性質貸与を頼むぞ!」

(ふん……! 勿体ぶらずに、サッサとせんか!)


 初めてのドッキング(苦笑)なのに、するすると馴染む魔力で齎されるのは、ビリビリとした刺激と不思議な一体感。右手の爪が長く鋭く……紫色に発光しているのも、しっかりと見届けて。ここらでいっちょ、大切な霊樹さんに群がる雑草駆除と参りましょうか。

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