22−61 戦闘センスがすっからかん
やっぱり、なーんかグラディウスの様子がおかしい。無事にリッテルの所に帰った途端、話し合う間もなく最前線に投入されてしまいましたが。対する敵さんは枝一杯の武器を有効活用するでもなく、ブンブンと振り回すだけで、敢えて隙を作っているようにも見える。
(どんなに戦闘のど素人だったとしても……こんなにも、スカスカと攻撃を外すもんかねぇ……?)
こりゃ……押されていると見せかけて、弱っちぃフリをしてそうだな。どうも、何かの機会を窺っているようにも見えるが……狙っているのは、反撃のチャンスか? 大逆転のチャンスか? 或いは……?
「リッテル。この戦況、どう見る?」
「えっ? どう……って、言われても……。こちらが優勢なのは間違いなさそうですし、このまま押し切れればいいな、と思うけれど……」
うん、こっちも何だかんだで戦闘に関してはシロートさんだった。リッテルは不思議そうな顔をするばかりで、キョトンとお目目もパチクリしてやがる。しかし、こんな時に何だが……。
(そんなにあざとく、コテンと首を傾げるなし。クッソ可愛いな、畜生!)
この際、嫁さんの戦闘センスがすっからかんなのは、どうでもいいや。以前、「お前は黙って守られとけ」なんて小っ恥ずかしいセリフを吐いたこともあったし。嫁さんの防衛は俺が頑張ればいいだけ、至ってシンプル。
「そんじゃ、カリホちゃん達は何か気づく事、ないか?」
(そこで小生らに話を振るのか、お前は。……まぁ、いい。その様子だと、さっき言っていた違和感をより濃く感じるのだろう? それに関しては……ふむ。小生も同意見だな)
「そか。やっぱ……わざとユグドラシルに虐められているよな、アレ」
(おほ? 若にもそう、見えるのかえ?)
「あ? 十六夜も気づいていたのか? あっちの死神さん、実は……」
(あはぁ! もちろん、気づいておりまする。アレはきっと、我と同類……おほほほほぉ! あちら様も、相当にゲスな趣味をお持ちのようじゃ! あの霊樹は我と気が合いそうだの! あぁぁぁ……是非に、我もかように若に責め立てられてみたい……!)
「いや、そーじゃなくて……」
十六夜の悪趣味は相変わらずみたいだな〜……。だけど、さ。どうして、こう……。
(なんで、俺はこんなにも白い目で見られているんだ……? しかも、自分の配下にまで……)
この様子だと、俺……しっかり、そういう趣味があると誤解されているっぽい。グスッ。みんなして、ヒドイ。
しかもリッテルはリッテルで、嬉しそうに「キャー」とか言って、別方向にはしゃいでいるし。あのぅ、ここは俺を慰めてくれる場面じゃないかな? 「お仕置きプレイ」を連想して、変な方向に突っ走らないでくれよ……。俺、ますます泣いちゃう。
(……泣くな、小僧。小生はお前がマトモな事くらい、分かっておるぞ……。とにかく、だ。察するに、あの死神は早々に切り離した方が良かろうて。霊樹相手であれば、小生を存分に使うといい)
「う、うん……そうする。俺、頑張るよ。頼むぞ、カリホちゃん」
(うむ、任せておけ)
意外なところで協力的なカリホちゃんに慰められ、グスグスと涙を拭っていると……お空の向こうから、猛スピードで迫力満点の見慣れたお顔が飛んでくる。
……あれ? ルシファー、そんなに急いで……どうしたんだ? もしかして、またまた緊急事態か?
「総員、傾聴! 攻撃は一時中止し……今すぐ、グラディウスから離れたし! これ以上、ドラグニールをグラディウスに近づけてはならん!」
何やら、慌ただしくやってきたかと思えば。ルシファーが肩を盛大に揺らしながらも、全力で「離れろ」とご命令を下さるが。そんな彼女の号令に、これまた嫌な予感が的中しちまったと……俺はハハと力なく、笑いを漏らす。
(あぁ〜……やっぱり、そういう事か)
死神霊樹のヤロー……案の定、演技していたみたいだな。
続くルシファーの解説によると、ルシエルちゃん達が接触に成功した機神族から、グラディウスの目的について少しだけ情報が得られたらしい。そんでもって……グラディウスはどーやら、ドラグニールさんを苗床にして「急生長」するつもりなんだとか。
「と、仰られましても……」
「今更あれを引き剥がすのは、少々難しいのではないでしょうか……」
しかしながら、いくら天使長様がカッカしたところで、周りの天使ちゃん達からは気弱なご意見が上がってくる。それもそのはず、グラディウスに噛み付いているドラグニールはガブガブと攻撃真っ只中。周囲を守る精霊の皆さんのテンションもマックスなご様子で、このままグラディウスをペキンとへし折ってしまえとばかりに、ボルテージも突き抜けていらっしゃる。
……この状況では、いくら天使長が「鎮まれぇぃ!」と言ってみたところで、収束も難しそうだ。
「……喜べ、カリホちゃん。早速、出番みたいだぞ」
(そのようだな。……ふん、仕方あるまい。小生の本当の切れ味、とくと見せてやろうではないか。小僧、存分に小生を使って良いぞ!)
「よっしゃ、いい返事だ。そんじゃ……遠慮なく、振るわせていただきましょうかね」
正直なところ、カリホちゃんの攻撃力は明らかに抜きん出ている。リルグで霊樹切りをした時もまぁまぁ、あまりの切れ味におったまげたが……手入れをしてやった後のカリホちゃんは、他とは比べ物にならないくらいに冴え冴えしていて。しかも、汚れで隠れていた鎬には見事な瑞雲模様が蒔いていたりする。そう言や……何だかんだで、カリホちゃんはオシャレなんだよなぁ。本体がここまでの芸術品ともなれば、下げ緒や柄糸の色に拘るのも無理はない気がしてきた。
(って、今はカリホちゃんのご趣味に気を取られている場合じゃないか)
他の3振にはそのまま周囲に待機を言い渡して、紫鞘片手に激戦ポイントに踊り出す。そして……今回も嫁さんにご協力をお願いしよう、っと。
「リッテル、援護を頼むぞ!」
「もちろんよ。任せてちょうだい!」
デュランダルと対峙した時と同じように、リッテルがサクッと補助魔法を展開してくれる。天使様印のありがた〜いアシストをいただいて。ここは1つ、グラディウスには舞台から退場してもらいましょうか。……つーか、演技が下手過ぎんだよ、演技が。大根役者ならぬ、大根霊樹はトットと降板するのがいいんでない?
(さっきまでバリバリ攻撃してきてたのに、一気に手を緩めたら、すぐにバレるだろうが。何と言いますか……)
……グラディウスの神様も、かなり底が浅いのかもしれないな。どんな奴なのか、会ってみない事には分からないけれど。ヨルムンガルドの威厳は画用紙並みにペラペラだし、マナの女神様もお子ちゃまでしかなかったし。……揃いも揃って、神様っていうのは未熟なモノなのかも知れない。




