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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−60 甘い希望的観測

 ルシエルをこっそり泳がせつつ……ラディエルに加勢する形で、神様らしき怪物に暴言を吐いているけれど。そんな間も、俺は僅かに漂ってくるプランシーの匂いを必死で追っていた。もちろん、まだ間に合うかも知れないなんて、甘い希望的観測はとっくに捨てている。ただ……彼の決意がどんな形で終わってしまったのかを、どうしても確認したいだけなんだ。


(あの辺……だろうか? 匂いの元は……)


 遠慮がちに自己主張している、懐かしい匂い。幸か不幸か……ウコバク(亜種の俺も含む)の鼻は一度遭遇したことのある相手の匂いを、本能的に記憶する癖があるらしい。もちろん、鼻が高性能なのはいい事だし、尾行や偵察にももってこいの性能だが。忘れたい匂いも忘れられないのが、なかなかに厄介で辛い。

 そう……忘れたくても、忘れられないんだ。匂いだけじゃない。記憶も、思い出も……そこに付随する、後悔や失敗も。全部全部、ちっとも忘れられやしない。


《アーチェッタに行けばきっと彼らの苦しみも少しは和らぐように思います》

《子供達のことを考えれば、アーチェッタに向かうのが最善策だとは思うのですが……》


 そんな事を考えていると……頼みもしないのに、思い出が勝手に頭の中ででしゃばり始めた。

 あの時、確かにそれは「最善策」にしか見えなかった。それ以上の幸せへの道筋は、ないとさえ思っていた。だけど、現実の中身は最善どころか、最悪でしかなくて。アーチェッタに行かなかった未来の方に、彼らの幸せがあったかも知れないと思うと……軽々しく送り出してしまった事にさえ、後悔が積もる。


《与えられた穏やかな環境に満足して、すべき事を見失いかけていた》

《もう……逃げるのはやめなければ》

《私めに力を貸してください。そして……最後まで見届けて欲しいのです》


 積もった後悔の上に、更に孤児院に帰った時に呟かれたプランシーの言葉が降ってくる。

 苦痛を抱えならも逃げる事を否定し、悪魔の俺なんかに助力を乞うて、最後まで自分の理想の答えを求めてきたのに……その結末が、これだなんて。本当に、どうしてこんな事になっちまったんだろうな……。


“正しい、正しくないは結局、後から分かることなんだし。最初から全てを正解と不正解とで分ける必要なんかない”


 正解と、不正解……か。自分が何気なく言ってしまった言葉を反芻して、この結果が「不正解」だったのかどうかと、改めて突き詰めれば。……多分、誰がどう見ても「不正解」だったと言うに違いない。


(それでも……俺はやっぱり、プランシーの選択が不正解だったと、決めつけたくないんだ。まだ、何か救いがないかを探し尽くさない限り、諦めきれなさそうだな……)


 自分の心なのに、なんて複雑で面倒な作りをしているんだろうな、これは。もう助かりやしない事くらい、残酷なまでに分かりきっているのに。心はまだ諦めたくないと、否定し続けている。だったら……せめて、彼の姿の最終結果くらいは確認したいのだけど。


(大元はあの辺……だろうか? う〜ん……範囲が広過ぎて、特定が難しいが……)


 だが、何となくだが……視界の奥に、妙に人形っぽい白い塊が鎮座しているのに気づくと同時に、匂いの発信源もありそうな気がしてきた。どうやら、少しだけ高くなっている壇上から彼の残り香が漂ってくるらしいのを、微かに感じる。そして、目を凝らせば……それは蛹か繭にも見える、他の根っこの塊とは明らかに違う膨らみだった。


「マミーは自由になるの! あんたなんかに付き合っていたら、幸せになれっこないもの! 私……絶対に諦めないんだから!」


 プランシーの所在を確認し……よっしと意気込む俺の耳に、ラディエルの声が響く。おっと……忘れちゃいけない。そう言えば、今は兄妹喧嘩の真っ最中だったな。プランシーの「今」を確実に確認するためにも、聞き分けのないお兄ちゃんに大人しくしてもらわないと。


「無知もここまでくると、不愉快を通り越して、笑えるよね。……お前に何ができるって? 魔法1つ使えない出来損ないが、偉そうに……そう言う事だったら、さっさと死んでくれないかな。どうせ、魔力を遮断された以上、ゆくゆくは餓死するしかないんだし!」


 聞き分けが悪いだけじゃなくて、乱暴なお兄ちゃんの攻撃をコキュートスクリーヴァで切り裂く。勢い、ラディエルを庇う格好になってしまったが……考えたら、ラディエル自体の魔力レベルも高いんだっけ? 


(確か、魔力レベルの算出って……使える魔法数も関係しているんだよな?)


 魔力レベルの算出には、登録時の行使可能な魔法の種類と数が大きく影響する……なーんて、ルシエルがマハ相手に慰めついでに説明していたことがあったけれど。となれば、ラディエルも既に魔法を使える可能性もあるだろうし……エレメントからしても、自前で防御魔法を使える可能性は高い。……う〜ん、これはちょっとお節介すぎたかな。


(いずれにしても……プランシー探しは後回しだ。ルシエルのお役目をフォローすることを優先しなければ)


 だとすれば、お節介ついでに神様をもうちょっと煽っておこう。それに、神様はラディエルがルシエルに鞍替えしたことにも気付いていないみたいだし。ここまで他の事には無頓着となると……神様にとって、ママの確保は相当の重要事項なのかも知れない。


「コラコラ、妹ちゃんに死んでくれだなんて。お兄ちゃんの言い分にしちゃ、随分と薄情じゃないか。これだから、出来損ないの神様はいけないなぁ」

「また、お前か……! 第一、僕は出来損ないじゃない! 僕は……」

「いいや、十分に出来損ないだろうが。神様を名乗るんだったら、どんな相手にも優しくできないと務まらないぞ? それなのに……たった1人の妹さえも、受け入れられないんだなんて。そんな調子じゃ、神様を名乗るんじゃなくて、邪神を名乗った方がお似合いかもな?」

「だから、こいつは妹じゃないって、言っているだろう!」

「セフィロト! ちょっと、落ち着いて……」

「アリエルもうるさいよ! こうなったら……目障りな奴は全部全部、今すぐ壊してやる……!」


 この様子なら、もう少し時間を稼げそうだ……と、思っていたのだけど。彼の「全部全部、今すぐ壊してやる」なる意気込みは、冗談じゃなかったみたいで……部屋を覆う根っこを槍状に変化させると、こちらへと向けてくる。……うん。どうしようかな、これは。俺は防御魔法、まだまだからっきしなんだよなぁ。


(かと言って……ラディエルに魔法を使わせたら、自ずと鞍替えしたこともバレちまう……よなぁ)


 ラディエルがグラディウスの魔力を必要としなくていいことは、確かに彼女の強みではある。ラディエルの命運を握っていると錯覚している神様に対して、切り札にもなり得るだろう。だけど、それは同時にルシエルとの契約が成立していることを示す事にもなって……今、コッソリと事を成そうとしているルシエルの存在を気づかせてしまうキッカケにもなり得る。


(さて……そうなれば、ここは俺がちょっと頑張るしかないか)


 防御魔法が使えなくても、時間稼ぎはしっかり全うしましょう。そうして……獰猛に襲いくる純白に負けないつもりで、もう1回本性側にシフトチェンジすると、凶暴な感じで唸ってみる。


「グルルルルァッ! 本当に往生際が悪いな……神様とやらは! そんなに切り裂かれたいんだったら……お望み通り、片っ端から伐採してやる!」


 正直なところ、自分ではあんまり気に入っていないんだけどなぁ……この悪魔の姿。各種感覚が鋭くなるから、戦闘も格段に楽になるし……体がデカくなって目立つから、囮という意味でも打って付けなんだろうけど。でも……。


(気づかなくていいこと、気付きたくないこと。そんな……余計なことまで気づいちまうのが……たまに、辛いんだよなぁ……)

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