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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−53 ビビッと計算尽く

「ベルゼブブ、次はお前の番だ。分かっているのだろうな?」

「もぅ〜、分かっているよ、ハニー。ちゃんと、奥の手は用意してあるから心配しないで」


 そんなこんなで、妹天使ちゃん達を見送ったルシファーがベルゼブブに詰め寄っているが。彼女の迫力満点のしかめ面をさらりと受け流し、ベルゼブブは余裕の表情だ。しかし……あの天使長の不機嫌を前に、余裕とか。ベルゼブブ、マジで凄いな。


「……そう言えば、さっきから気になっていたんだけど。ベルゼブブの“次の手”って、どんなプランなんだ?」

「まぁ、別に大した事じゃないけど。ハニー2号とルシエルちゃん2号は、離れていても情報をやりとりできる様にしてあってね。で、今のハニー2号はアンカー兼・通信の中継機器として稼働している状態なんだ〜」

「そうだったのか?」


 ハエ男、曰く。ルシエルちゃん2号は最初から、ルシファー2号と密に連携を取れるよう構築していたらしい。そんでもって、ルシファー(1号)のパネルにルシエルちゃん2号が収集した分も含む情報を逐一レポートする仕組みになっていたそうな。だけど、ルシファー2号&ルシエルちゃん2号ができることは、情報を垂れ流すだけじゃなくて……こちらから情報なり、魔力なりを送り込んでやれば、都度システムをフィックスできるようになっているとのこと。


「で、僕もなんとなーく……ダンタリオンちゃんの魔法発動の瞬間を見た時に、プルエレメントアウトが時間差構成持ちだったのにも、気づいていたもんだから。後追い発動分に乗っかれば、ハニー2号の情報供給経路にも使えるかな〜、って思っててね。そんで、ルシエルちゃん2号には経路に目印を打ち込むプログラムも仕込んであるよ。だから、彼女が開拓したルートには新しいアンカーを打ち込む事もできちゃったりして★」

「……それ、大した事じゃない……で、済ませられない内容だろ。ここまでビビッと計算尽くだと、却って怖いんですけど」


 それにしても……なるほどな。ダンタリオンの奴、プルエレメントアウトをちゃっかり2段構えで構築していたのか。だから、追加の燃料(生贄)でブーストなんて芸当ができたんだな。

 魔法は構築中にきちんと結合して発動すれば、合成できるのは知っての通り。だが、展開する時に構築内容をフルで発動しなくても、必要最低限の魔法さえ担保されればきちんと効果を発揮するし、プルエレメントアウトのように複数の構築概念を内包している魔法であれば、各要素の発動タイミングをズラすことも可能だったりする。この辺は組み込まれた構築概念にもよるが、補助魔法は自動継続の錬成度によって継続時間を調整できるため、攻撃魔法よりは遥かに融通が利くと言っていい。

 そんでもって……珍しく、ヨフィさんの時の失敗を反省したらしいダンタリオンは、しっかりと生贄不足に対する微調整も加えておいたんだろう。細かい概要については答え合わせが必要だが、おそらく……生贄投入用の魔法陣が別枠で展開されることに着目して、投入部分の構成をある程度小分けにして構築していたんだと思う。


(とは言え、このテクニックは相当の上級者向けだけどな……)


 「魔法の大枠の中で、更に構築概念を分割する」。これをすることで、魔法概念の特定要素を抽出し、そこに対してだけ追加の魔力を無駄なく流し込むなんて芸当も可能だったり、実は最初から1つの魔法として構築していたものを概念の小分けをして構築することで、最後の最後に「実はオーバーキャスト(拡張式異種多段構築)でした〜」……なんて、騙し打ちもできたりするが。丸っと発動し切らずとも、展開した後は構築概念の全てに対して魔力を払わなければならないため、継続構築込みの魔法だった場合は、最小限の効果でも最大出力分の魔力を消費しなければならない。しかも、発動中は神経も持って行かれたままになるから、術者への負荷もかなりデカい。それなのに……。


(ダンタリオンは魔法を発動した後は否応なしにハイになるからなぁ……。神経は平常運転でカバーしているっぽいから、いいとして。……魔力残量、大丈夫なんだろうか)


 ……仕方ない。ご本人様は魔力の残量を気にしていなさそうだし、ここらで補給させておきますか。こんな所で配下にぶっ倒れられても、つまらない。


「おい、ダンタリオン!」

「……なんですか、マモン」


 しかし、さぁ。折角人が心配してやっているのに、どーしてこいつは俺には不機嫌そうな顔をするんだろうなぁ。いくら情けなくても、俺は強欲の大悪魔であり、紛れもなくダンタリオンの親玉なんだけど……。


(……まぁ、いいか。どーせ、ダンタリオンの頭が高いのは昔からだし)


 そう言や、こいつに敬意を払われたことなんて、1度もなかったなー。今に始まった事でもないし、サッサとご用件を伝えてしまおう。


「ツベコベ言わず、こいつを飲んでおけ。お前、そろそろ魔力もキツいんでない?」

「おや、もしかして……心配してくれていたのですか? 相変わらず、変な所は優しいのですね?」

「……変な所だけ優しくて、悪かったな」


 なんか貶された気分になりながらも、特製のお薬を処方すれば。意外と素直に、ダンタリオンがクイッと小瓶の中身を飲み干す。

 ……あれ? 「これは何の薬ですか?」とか、「怪しいから飲みません」とか……反抗的なお言葉も飛んでくると、予想していたのだけど。まさか、それすらできない程に魔力が枯渇してたのか……?


「ふむ……口当たりは悪くないですね。あぁ、なるほど。この渋味からするに、中身はヤマブキノコウイですか?」

「それは飲む前に聞けよ……まぁ、いいか。お前さんの予想通り、そいつはヤマブキノコウイから作った薬だな。ヤマブキノコウイには、高い魔力回復効果があるのも知っていると思うけど。なんでも……原産地の竜界では、こいつをお茶に仕立てて、弱った時にここぞと服薬するらしいぞ」

「そう言えば、竜族もお茶だけは嗜む習慣がありましたね。よく、奥様が私にもお茶を振る舞ってくれましたが……あぁ。そんなことを言っていたら、ゲルニカ様の所にお邪魔したくなってきました。美味しいお茶に、素晴らしい蔵書コレクションの数々……状況が許せば、住み着きたいくらいです」


 先方にとってはご迷惑でしょうけど……なんて、話を結んでいるのを聞く限り、最低限の常識はあるようでちょっと安心してしまう。無礼者の代表格みたいなダンタリオンでも、ゲルニカさんとは何がなんでも仲良くしておきたいんだろう。……嫌われたくない相手には、それなりに敬意と配慮を払うことはできるんだな、こいつも。


(……だとすると……)


 要するに、俺はどうでもいいって思われているって事か……。別に悔しくも、悲しくもないけれど。……配下にぞんざいに扱われるのは、結構切ないものがある。


「とりあえず俺のお役目は終了したっぽいし、後はベルゼブブに任せる。ここらで俺は向こうに戻りますよ、っと」


 そう言いつつ……本当はリッテルに会いたいだけなんだけど。それでなくても、切ない気分になった時はリッテルにヨシヨシしてもらうに限る。きっと、配下にベコベコに凹まされた気分と威厳も慰めてくれるに違いない。


「おやおや? そうなのん? 別にこのままいてくれてもいいのにぃ〜。グリちゃんがいないと、ベルちゃん寂しい〜」

「そうですよ。何かと、君がいてくれると助かる部分もありますし。それに……戦況を見る限り、向こうは向こうで大丈夫だと思いますけど。無理して戻らなくても、いいのでは?」


 おぉ! こんな所にも、俺を慰めてくれる同僚と兄貴がいるなんて……って、感動している場合じゃなくて、だな。アケーディアが示したように、確かに戦況はそこまで悪くない。上空で激しく激突し始めたグラディウスとドラグニール+ユグドラシルの霊樹同士の小競り合いは、何となく……こちら側が押している様にも見える。だけど……なんだか、嫌な感じがするんだよ。グラディウスの動きが妙に、おかしいと言うか、解せないと言うか……。


「なんとなくだが……グラディウスはまだ何か企んでいる気がするんだ。で、最前線では嫁さんも頑張っているもんだから。色々と心配だし……そろそろ、戻りたくてな」

「あぁ〜ん、そういう事ん? もぅ……グリちゃんの所は無駄にアツアツだから、超悔しい〜。だけど、それじゃぁ仕方ないよね。ここからはグリちゃん抜きでも頑張ってみるよ。ねっ、兄貴〜」

「あなたに兄貴なんて呼ばれるのは、気色悪いですね。まぁ、それはさておき。無意味に馴れ合うつもりはありませんが。しっかりと仕込みもされているみたいですし、これ以上はマモンの手を煩わせる必要もありませんか。……ったく。でしたら、サッサと行ってしまいなさいな。心配しなくても……この程度の事は上手くやって差し上げますよ」

「うん、悪いな。それじゃ、後は頼んだぞ」


 緊急事態は意外な結束と友情を生むものらしい。きっと、互いに一時的な共闘を選んだだけなのだろうけれど。この調子でアケーディアが魔界のメンツに馴染めれば、ゆくゆくは魔界でも暮らせるようになるかも知れないな。

今回登場している「魔法の大枠の中で、更に構築概念を分割する」手法については、「サブネット化」というネットワーク分割制御の概念を下敷きにしています。

毎度のことながら、魔法の構築について難解な内容になってしまい、すみませんです。

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