22−49 擦った揉んだに、イザコザもあったけど
「ウワォ! ね、ね! 見て見て、マモン! あれ、凄いよ!」
「ベルゼブブ……お前、さ。この状況でどうして、そんなにはしゃいでいられるんだよ……」
擦った揉んだに、イザコザもあったけど。無事に3人の力を合わせて、ようよう霊樹へのアプローチを成功させるものの。今度こそ、グラディウスを引き摺り下ろしてやろうって時に……上空を見上げては、ベルゼブブが無邪気な歓声を上げ始めた。
いや、確かに? 上空の霊樹大激突は見応えもバッチリだと思うよ? そんでもって、滅多に見られない光景……どころか、きっと後にも先にもこれっきりな状況なのは、俺だって分かるよ? でも、さ……「このお方」の前で、そんなにはしゃぐべきではないと思うんだ……。
「こんな状況で、何を浮かれているのだ……? もっと真面目にやらんか!」
「うわっ⁉︎ ハ、ハニー……来てたの……?」
うん、ついさっきからお目見えしてたな、ルシファーが。しかも、可愛い妹ちゃん達も同伴で。
多分、こちら側の状況(主にベルゼブブの様子)が心配になって、わざわざ来てくれたんだろう。それなのに……旦那はこのお気楽っぷりだもんなぁ。こんなんじゃ、お嫁さんが落胆するのも無理はない。
「人が折角、来てやったと言うのに……なんだ、その気の抜けた返事は! お前こそ、真っ先に私を見つけんか!」
「い、いや、そんなことを言ってもぉ〜……ベルちゃん、魔法の調整に忙しくってぇ……」
「嘘こけ。連結後はやんややんやしてるだけだったろーよ」
「あっ、マモンの裏切り者! ここは僕をフォローするトコロでしょー⁉︎」
ハイハイ、俺は当然の事実を述べただけでーす。なーんにも裏切っていませんからねー。
「とにかく、ベルゼブブ! 魔法の再連結が成功したというのに、どうして報告をして来んのだ⁉︎」
「いやぁ……別に報告しなくても、見れば分かるかなぁ……って」
「見ても分からんから、来ておるんだろうに! 第一、絡みつくだけで、グラディウスの抑止力にすらなってないではないか⁉︎」
あっ、それは確かに言えてるな。意外とグラディウスがパワフルなもんだから、ダンタリオンの魔法だけじゃ出力不足でしがみ付くのがやっと。この調子じゃ、引き摺り下ろすなんて芸当はできそうもない。
「そういう事だから、サッサと次の策を展開せんか! お前のことだから、どうせ次の悪巧みもしっかり用意してあるのだろう?」
「ゔっ……そ、そりゃぁ、もちろん用意してあるけど〜」
次のプラン、まだあるのかよ。新たなる作戦を嗅ぎ当てては、強要してくる嫁さん側の無茶振りも相当だが。知れっとそれに応える旦那側の先回りの速度が、俺にはもうもう付いて行けない。……しかも、ベルゼブブはベルゼブブで、悪巧み認定を否定しねーし。ちょっとは反抗しろよ、反抗を。
「ププッ……! これはこれは、非常に面白い光景ですね。まさか、魔界の大悪魔が天使長の言いなりだなんて……」
「そう言ってやるなよ、兄貴。天使ちゃん側には、契約のアドバンテージがあるからな。結婚もセットでしでかしている悪魔はみーんな、嫁さんの尻に敷かれるもんなんだ」
「おや、そうなのですね? それじゃぁ、マモンも……」
「ハイハイ、ご明察通りですよ……っと。俺もちゃーんと、嫁さんの尻に敷かれていますよ〜。それこそ、清々しいまでに」
とりあえず、契約している身の上は俺も一緒だし……。アケーディア相手にベルゼブブのメンツを保つ意味でも、そんな事を言ってみるけれど。……自分で言ってて、何だか悲しくなってきた。
「マモンはリッテルにだけはとことん甘いと、専らの評判ですからね。しかも……これで、マモンはとってもセンチメンタルで、ロマンチストな部分がありますから」
これまた「面白い光景」を嗅ぎつけたのだろう、ダンタリオンがしたり顔で割って入ってくる。それはそうと……誰がおセンチで、ロマンチストだって? こんな所で変な事を言うなし。
「そうなのですか? ほぅ……聞いたところによると、君は一応、魔界最強の悪魔なのでしょう? それがどうして、下級天使に大人しく従っているんでしょうねぇ?」
「いや、別に……大した理由じゃ……」
「後学のためにも、是非に聞いておきたいですね。マモンの契約理由を。それでなくても、これからは天使とも仲良くしていかなければ、なりません。彼女達と円滑に付き合うにはどうすればいいのか、ヒントが欲しいのです」
……俺の契約理由、ヒントになる? どっちかつーと、興味本位の質問だよな? それ。天使ちゃんシスターズもいる前で、そっち方面の話を展開しないでほしいんだけど。
「俺の場合はちょっと複雑っつーか、引け目があるっつーか……」
しかし、この様子だと……兄貴もダンタリオンも、俺が口を割らないと円滑にご協力してくれない気がする……。ルシファー相手に、必死な言い訳を並べているベルゼブブを横目に見ながら……あれよりはマシかと思い直し、仕方なく事情の切り売りをすることにしたけれど。世界平和(延いては嫁さん)のためとは言え、俺ばっかりが苦労している気がするのは、考え過ぎ……だと思いたい。
「リッテルとは契約ついでに、色々と約束もしたもんで。それに……一応は魔界最強だの、古株の大悪魔だの言われていても。一緒に生きていこうってなった時は、自分をちゃんと理解してくれて、ヨシヨシしてくれる奴がいいに決まってる。リッテルはその辺、冗談抜きでよーく心得ているし、何だかんだで一緒にいると安心するし。他の誰にどう思われても、構わないが。俺は嫁さんにだけは、嫌われたくないんだよ」
「ほぅ……」
「それはそれは……」
これでご納得いただけましたか? 魔法研究部のお二人。情けなかろうと、不甲斐なかろうと。これは偽りない俺の本心だったりする。
「素敵……! とっても素敵なの……!」
「いいなぁ、いいなぁ。悪魔のお兄ちゃんみたいな旦那さん、私も欲しい〜!」
「お兄ちゃんに愛されているリッテルは、とっても幸せ者だよね!」
「い、いや、それほどでも……」
そして案の定、ロマンチック路線に振り切れている妹さん達が、キラキラとした視線で俺を見つめてくるけれど。そんなに見つめないでくれるかな。照れるだろ。
「ふむ……ヨルムンガルドに瓜二つだから、そちら方面もソックリだと思っておったのだが。実際に話してみると、随分と印象が違うな。まぁ、リッテルの報告からしても、強欲の真祖の尽くし具合は相当だと見受けられるし……。あの腐れ龍神と一緒にするのは、野暮か」
「あ? そう言や……お前さんだけ、ちょっと雰囲気が違うな。なんか、こう……天使ちゃんと言うよりは……」
萌葱色の肌といい、威圧感のある魔力の感じといい。ちびっ子体型の割には、妙に尊大な感じといい……。もしかして、こいつは……。
「あぁ、申し遅れてすまんな。妾はマナ。霊樹・マナツリーの化身ぞ」
「……それ、申し遅れていい内容じゃないから。そもそも、どうしてこんな所に女神様まで降臨しているんだか……」
「こんな状況で高見の見物をしておるのも、格好悪かろう? それに……妾もそろそろ、尻拭いをせねばならんと思った次第なのだ」
尻拭い? それって、えぇと……?
(あぁ、もしかして。ヨルムンガルドとの馴れ初めや、クシヒメさんとの喧嘩のことを言っているのか……?)
彼女の言う「尻拭い」の中身はそんな所だろうと、勝手に判断して。ここは遠い昔のお話を蒸し返す前に、女神様がこんな所までやってきた理由を聞く方が先だろう。
「……で、マナツリーからそれなりの魔力を預かって来ている。あのグラディウスを引き摺り下ろすための楔として、妾も使うとよかろう。お前達も手伝ってくれるな?」
「は〜い!」
「もちろん! ラフちゃんとガブちゃんと一緒に、頑張るの」
あぁ、そう言うこと。グラディウスをなかなか落っことせないもんだから、見るに見かねてお出ましになったのか。……この辺は多分、ルシファーの口添えも効いているんだろうな。




