22−39 何事もバランスが大事(+番外編「無自覚サービス」)
いよいよガラガラと崩れ始めた、ローレライの名残。そんな崩壊に巻き込まれては大変だと、それぞれが散り散りに落下物を避けながら脱出を試みるけれど。……あぁ、本当に崩れていくんだな。ローレライの玉座も、祭壇も。
俺自身は機神族と直接交流がないもんだから、ローレライを懐かしむのはちょっと違う気がするが。つい、妙に物寂しさを感じては……やるせ無さに首を振ってしまう。このノスタルジーはきっと、ハミュエルさん由来の思い入れに違いない。
「取り敢えず、ここまで来れば安心かな?」
「そう、だな。だけど……」
無事に崩落に巻き込まれずに、お城の外に飛び出したけれど。肩の上では、嫁さんがちょっぴり不服そうに頬を膨らませている。きっと、ベルゼブブが作った魔法道具……ルシエルちゃん2号の処遇とディテールが、相当に気に入らないんだろう。姿形に関しては、多少は仕方がないとは言え……自分にそっくりなお人形が使い捨て前提な時点で、凹むなと言う方が無理な話だ。
「……せめて、ちょっとはお胸を大きく作ってくれてもよかったのに……」
「はい?」
だけど……うん? ルシエルさんの懸念、そこなの? お役目とか、ソックリ仕様とかじゃなく、純粋にスタイルの問題なのか……?
「ま、まぁ……俺はルシエルのお胸が大きいのは、ちょっと、なぁ……」
「そうなのか? ……胸はとにかく大きい方がいいと思っていたんだが、違うのか?」
「大きい、小さいの問題以前にな……相手が大好きな嫁さんだったら、大きさは関係ないと思うけど。別に、俺はルシエルのお胸サイズは好き・嫌いの判定に含んでないぞ。それに今更、ボンッと巨乳になられても、違和感しかない」
こんな事、前にも言ってやった気がするな。しかし……この緊急事態で「お胸のサイズ」を問題にしてくるとなると、ルシエルさんのお悩みは相当に深い様子。同じく無事に脱出してきたルシファーやリッテル達のお胸にチラチラと羨望の眼差しを向けながら、ウゥムと意味ありげに悩んでいる。
「確かに……実際には胸がないと、とっても戦いやすいんだ。腕も大きく動かせるし、体は軽いし、肩凝りに悩まされる確率も減るし。……腰痛や肩凝りなんかは、回復魔法でも治療できないし」
そ、そうだったんだ? あっ、でも……そう言えば、竜族の長老様も腰痛にひどく悩まされていた気がする。あれだけ回復魔法に長けた種族でも、治せないとなると……腰痛って、意外と厄介なんだな。
「おぉ! 肩凝りにならないなんて、いい事じゃないか」
「でも、羨ましいものは、羨ましい……!」
「う、うん……?」
「それに……リッテルは、肩凝りは旦那様の腕枕と愛で癒しているとか、なんとか! お胸が大きかったら、そういう苦労を愚痴ったりとか、ご褒美で癒してもらったりとか……体験できるみたいだしッ!」
と、とにかく……今はお胸の話題から、離れようか? こんな所でお胸談義で騒ぐの、やめとこう?
しかし……いつもながらに、マモンはリッテルに相当尽くしているみたいだな……。今の話だけでも、添い寝とセットでお悩み相談サービスまであるって、バッチリ判明しちゃうんだけど。
「ど、ドウドウ、ルシエル。そういう事だったら、俺はお胸に効くレシピを研究するよ……」
「そんなものがあるのか⁉︎」
だって、そうでも言わなきゃ……ルシエルさん、ヒートアップしたままじゃない。
「でも、それはきちんとお仕事を終わらせてから。……今はお胸問題よりも、世界平和の方が大事だろう?」
「……それもそうか。だったら……よし! こうなったら、何がなんでもあの女神を凹ませるぞ! そんでもって、ハーヴェンに美味しいお胸料理を作ってもらうんだから!」
「お、美味しい、お胸料理……?」
どうしよう。お仕事を優先してもらおうと、そんなことを言ってみたけれど。……何だか、無駄にハードルを上げた気がする。
「それで、それで? 実際にはどんなレシピ開発になりそうなんだ?」
おぉう……しかも、ここで予告までしないといけないパターンか……? 仕方ない。ちょっと姑息かもしれないが、折角の機会だから意地悪ついでに、苦手も克服してもらおう。そんでもって、お仕事中だって事を思い出してもらおう。
「そうだな……やっぱり、ピーマンを使った料理になるかなぁ……」
「な、なんだって……? どうしてそこで、ピーマンが出てくるんだ……?」
「ピーマンは緑黄色野菜と言われている中でも、お胸を育てる成分が豊富なんだぞ〜? だから、ピーマンを……」
ヒョイヒョイと降り注ぐ瓦礫を避けながら、盛大にホラを吹く。言わずもがな、ピーマンにお胸を育てる効能は多分ない。どちらかと言うと……全体的なバランスはもちろんだが、特に肉や大豆を積極的に食べて、マッサージでもしていた方が圧倒的に効果的だろう。しかし、天使様達然り、悪魔然り、精霊然り……。食事は栄養じゃなくて、魔力として吸収される設計上、食事で頑張っても無駄な気がする。
「で、でも……ピーマンは苦くて、美味しくないし……」
しかも……うん。ルシエルさん、完璧にピーマンで神経を持って行かれているな。摂食で補充されるのが魔力だって設定、綺麗に忘れているっぽい。ある意味で、扱いやすくて助かる。
「そんなにしょげるなって。お仕事を頑張ったら、ちゃんとピーマンを使わない方向でレシピを考えるから」
「ほ、本当⁉︎」
「うん、本当。だから、今は世界を守る方に集中しような? このままあの女神様が世界を牛耳ったら、お胸に効くレシピどころか、普通のお料理もできなくなっちまうぞ〜」
「そ、それは困る!」
耳たぶの圧も、いつも通りに戻ったか……。しかし、どうもルシエルは肝心な時に妙な事を気にして目標が迷子になる傾向が……と言うより、これは天使様全体の気風だとするべきか。お仕事中に別の関心事が発生すると、どうも集中力が途切れるんだよなぁ。
(天使様達って、欲望への忠実度は悪魔以上な気がするぞ……)
天使様は要所要所で、肝心な事がすっぽ抜けるからな……。常時お仕事よりも、恋愛優先。それに……
(……やっぱり、ルシエルはペッタンコな方がいいんだよなぁ、俺としては)
言っておくが……断じて、ロリコンじゃないぞ? ルシエルのおチビサイズは、魅力の1つ……だと、個人的に思う。それに、幼女体型なのにお胸だけデカかったら、存在自体がギルティ過ぎるだろ。何事もバランスが大事。それは体型も、食事も変わらない。
(ついでに、仕事と恋愛のバランスも節度を持ってくれるといいんだけど……)
少なくとも、脱出は全員無事にできたみたいだし……今は、細かい事(本人にとってはオオゴトみたいだけど)を気にしている場合じゃない。とにかく、これからの事を大急ぎで考えないといけないよな。
ある程度の目星はついているとは言え、ロンギヌスの修正プログラムは最終段階にまで到達できていないらしい。そして、最後の仕上げは新しい神様の玉座にて……だったな。
(ルシエルちゃん2号、どうしているかな……。まぁ、あの様子だったら、上手くやってくれるか……)
【番外編「無自覚サービス」】
「なぁ、マモン」
「あ? どした、ハーヴェン」
ようようローレライの崩壊圏外に逃げ延びて。未だ余裕な表情を崩さない強欲の真祖様に、「例の事」について質問してみる。ルシエルさんのお悩みを軽くするため。できれば、旦那側のサービスも是非にグレードアップしてやりたい。であれば、発信源相手に情報取集するのも賢いやり方だろう。
「……マモンって、ピロートークも相当に慣れていたりする?」
「は? それ……どういう趣旨の質問⁇ 何がどーなって、そんな話になったんだ?」
カクカクシカジカ、マルマルクマグマ……と、ルシエルさんのお悩みと暴露の元ネタを説明すれば。途端にお口元をひん曲げるマモン様。そうして、向こうで天使様の作戦会議に混ざっている奥様を見やっては……ハァ、といかにもなため息を吐いた。
「……まーた変な噂でも流れてんのか、神界で。リッテルのお口のライト加減、どうにかならんかなぁ……」
「あれ? それってつまり……実際には、そこまでサービスはしてないって事?」
「当たり前だろ? 毎晩そんな事をしてたら、俺の神経が持たねーよ」
「それもそうか……」
「いつもやっているのは、話を聞いてやって、場合によっては慰めてやって……あっ。最近はハーブティーなんかも淹れてるな。リラックスできていい感じだって、リッテルも言ってたし。今度、商材に加えようかと検討してる」
「……うん?」
いや……それ、いつもやっているのか⁇
「それにな、腕枕についてだが……。頭が腕に乗ってると、寝相もあまり乱れないっつーか。嫁さんの頭を寝返りで飛ばすわけにもいかないし」
無邪気な口調からするに……多分、これは無自覚にサービスしているクチだな……。ご本人は「変な噂」だと主張しているけれど、現実は噂と寸分違わぬ献身っぷり。相変わらず、強欲の真祖様はナチュラルにお嫁さんのお尻に敷かれているんだなぁ……。




