22−25 道はいくらでも切り拓いてやる
「よーするに、ここの神様は俺達ごと不要な部分を捨てようとしている……って事で、オーケイ?」
ラディの腕経由で得た「お城のマル秘情報(翻訳:嫁さん)」によれば。グラディウスは今まさに、区画整理中真っ只中とのことで……どうやら、俺達のいるエリアは削除対象になっているらしい。だけど、切り離されるだけだったら、急いで脱出すればいいだけの話だし……何がそんなに問題なんだろう?
「そのオハナシからするに……とりあえず、グラディウスから逃げればいいんだよな?」
「……それだけだったら、いいのだけど。多分、そうじゃないと思うわ……」
「あ?」
リッテルが今にも泣きそうになりながら、言う事にゃ。グラディウスの神様は俺達をポイッと捨てるだけでは飽き足らず、確実に亡き者にしようとしているらしい。しかも、着々と「良からぬ魔力」が集中し始めているとかで……猶予もあまりなさそう、とのことだった。
「そんだったら、サクッとミカエリス達を救出するぞ。爆発でもされたら、それこそ敵わん」
「そ、それもそうね!」
肉体が使い物にならなくなったら、冗談抜きで一巻の終わりだしな。こんな所でメソメソしている暇はない事だけは、確かだ。
「……とは言え、リッテル。この先はお前のガイドが頼みだ。道はいくらでも切り拓いてやるから、指示を頼む」
「もちろんよ。……えぇ、任せてちょうだい。ただ……かなり緻密な経路で魔力が流通しているみたいだから、間違えると大変かも」
「あぁ〜、面倒だなぁ、もう。だけど……ま、やるしかないか。一応、俺もそれなりに細かい作業は得意だし。……急がば回れ。とにかく、慎重に行くぞ」
「分かったわ。……えぇと、あなた! 早速、右手の壁……ポイントはそこの切れ目から、60センチ部分が隠蔽箇所よ」
「ハイハイ、ここ……だな?」
「うふふ。バッチリよ、あなた! それで次は……通路を3メートル進んだ先の左壁、角から40センチ区画をお願い」
バッサリ空間ごと大胆に……なんて、ご都合主義は罷り通らないか、これは。無茶を通してみた所で、想定外をフォローできるかどうかも未知数だ。
「あっ、そこの3歩先、天井部分が次の経路よ」
「おっと。ここで天井にまで手を出すか。ハイハイ、上へ参りま〜す」
そうして、仕方なしにリッテルが読み解いた「隠蔽箇所」の魔法効果を風切りで断ち切りながら、安全第一をモットーに進む。なにせ、1歩でも間違えると「良からぬ魔力」が通っている通信経路を傷つけることになるそうで。いくらお守りがあるとは言え、そんな魔力をブシュッと浴びたら、ひとたまりもない気がする。なぜなら、その「良からぬ魔力」は多分……。
(こっち側を機神族化する、例の特殊魔力だろうな)
……自分が機神族化するだなんて、考えただけでゾッとするな。そんなことになったら、嫁さんとイチャイチャできなくなるじゃないか。……ま、まぁ? 今更感もあるし、頻度はそこまでなくてもいいけど。悪魔の性分と寿命を抱えたまんまの禁欲生活だなんて、お先真っ暗なんてもんじゃないぞ。
「リッテル、次は?」
「……」
「リッテル? どうした?」
「……あなた、御免なさい。ここに来て……バッドニュースよ」
「あ?」
「その先には、ちょっと広めの空間があるのだけど。ただ……何か、変なものがいるみたい」
「変なもの……?」
オイオイ、勘弁してくれよ。こっちは大暴れできない事情込みで急いでいるってのに。
「……周り道はないのか?」
「……残念ながら、なさそうよ」
「……そうか」
だったら、仕方ないな。「変なもの」が何なのかが分からないなりに、ピンポイントで対処するしかないか。
(だけど……意外とターゲットだけ狙うのって、疲れるんだよなー……)
今までの地道な作業からしても、俺達が進んでいるのは問題を抱えた魔力が張り巡らされた危険地帯。一歩でも間違えば、ドカン! ……とまではいかないしても、致命的な事態になることは十分考えられる。そんな所で、よく分からない何かに応戦するとなると……。
(あぁぁぁ……マジで面倒臭ぇ……!)
内心で自分の不運を呪いながら、リッテルが示す通りに先に進めば。そこには確かに、予告通りの「ちょっとした空間」がある。よくよく見れば、広々空間の奥には立派な祭壇が鎮座していて、何かの儀式をしていました……って雰囲気がムンムンと充満していた。普段であれば、広すぎるのは嫌いな俺でも、今回ばかりは広いのも大歓迎。ただ……。
「……リッテル。あれ、何だろうな? 機神族なのは、間違いなさそうだが……」
ポツンと置き去りにされたかのような祭壇を固めるように、静かに待ち構えていたのは、見るからにゴツい白銀の甲冑が4領。それぞれの手には、切れ味も抜群そうな剣が携えられている。
「ちょっと待ってて。今確認す……キャァッ⁉︎」
「チィ! どうやら、敵さんは尻尾を掴ませてくれる気はねーみたいだな。リッテルはとりあえず、下がってろ!」
こちらに気づいたらしい甲冑野郎共が、ゴツい見た目とは裏腹に素早い身のこなしで切りかかってくる。しかも……
「クッソ! 見た目の割には素早いじゃねーか⁉︎ こうなったら……雷鳴! いっちょ、景気良くぶっ放してくれ!」
(御意! して……どこを狙えば良いですかな、猊下)
「狙うべきは剣だ、剣! あんだけ尖っていれば、導雷針にもピッタリだろうさ!」
狙いを的確に示してやれば、これまた「御意」と頼もしい反応を示す雷鳴。そんな彼がピタリと正確に奴らの得物目掛けて雷撃をぶっ放せば。圧倒的な熱も相まって、白銀の甲冑が清々しい程に溶けて……いかなかった。
「雷鳴の雷が通用しないとなると……」
(魔法防御力が相当に高いのかも知れませぬな。あるいは……)
「……地属性かも知れない、か」
雷の温度は30000度を軽く超えることがある。しかし、継続的に威力を発揮する炎属性の攻撃と違って効力は一瞬だから、属性の相性が悪かったりすると思うような効果を得られないことも多い。
「あなた! 彼らの正体が分かったわ!」
「おっ、本当か⁉︎ それで、あいつらはナニモンなんだ⁉︎」
「彼らは“デュランダル”という機神族で……デュランダルは機神王・ブリュンヒルドの守護を担っていた精霊みたい」
「へ、へぇ……。それって、つまり……かつての王様の守護者ってことになるのか?」
「そうなるでしょうね。えぇと、どれどれ……?」
そんな事を言いつつ、守護者様達と交戦中の俺に対して、リッテルが「デュランダル」なるものの情報をくれるけれど。精霊帳とやらの解説に、やっぱり懸念事項が増えた気がするんだが……?
【デュランダル、魔力レベル8。機神族、地属性。機神王・ブリュンヒルドの守護を担う精霊。機神族において最高防御力を誇る。攻撃魔法・補助魔法の行使可能。登録者:ラファエル】
と、言うことは……だ。こいつらはローレライの忘形見であると同時に、かなりの上位精霊っぽい。しかも、予想通り地属性かぁ〜。肝心のご主人様がいなくなっても、奴らは守護者のセオリーだけは見事に死守しているみたいで、俺達を「侵入者」と認識した様子。……予想以上に厄介かも知れないぞ、この状況は。




