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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−4 とんだ茶番

「おや? この違和感はなんだろう?」

「いかがしましたか、セフィロト様」


 グラディウスの最上階。満足げに、新しく出来上がった玉座に座するセフィロトだったが。裸足の感触が、明らかな牙城の非常事態を伝えてくるではないか。そうして、すぐさま神経を巡らせれば……例のお勝手口がまだ塞がっていないことを認識すると同時に、何かがグラディウスを引き摺り下ろそうとぶら下がっていることにも気づく。


「これは……もしかして、他のルートエレメントアップかな……」

「ルートエレメントアップ、ですかな? セフィロト様」

「うん。昔の頑固なローレライを、屈服させた魔法でね。端的に言えば、霊樹に言う事を聞かせるための魔法なんだけど……どうやら、古き民達はこのグラディウスの制御権を書き換えるつもりみたいだね」


 予断なく側に控えるプランシー相手に、さも忌々しいとセフィロトが「古き民達」への愚痴をこぼす。もちろん、彼の言う「古き民達」はセフィロトの新しい世界を拒む、「既存の住人達」のことだ。そんな住人達に自分の世界を受け入れる気がないと見るや否や、セフィロトは彼らを野蛮な原住民だと詰り尽くすと、最後にやれやれと首を振る。


「いずれにしても、今更引き摺り下ろされるわけにはいかない。仕方ない……ここはローレライの制御権を保護しなくっちゃね」

「制御権の保護……?」

「このグラディウスの前身・ローレライの制御権はミカエル……つまり、グランディアが保持していたんだよ。そう言う事情もあって、彼女を檻に詰めておいたんだけど。……うん、反応がないのを感じるに、彼女……死んじゃったみたいだね。だとすると……グラディウスにかかっているルートエレメントアップの効果を維持させるには、残っている情報を集めて、新しい制御役を仕立てなければならない……か」


 状況はあまり芳しくないはずなのに、セフィロトは意外な程に余裕の表情を見せている。そして、そんな彼の余裕を体現しましょうとばかりに……見慣れない姿に成り果てたアリエルがようよう、最上階の玉座にやってきた。


「あっ、いいところに来たね、アリエル。悪いんだけど、僕の代わりにここで神様をやってくれないかな?」

「あら、それはどういう意味かしら?」

「そのまんまの意味だよ。君なら、女神を名乗るのだって不足はないだろう? ……僕は多分、早めに霊樹に戻らなければならなさそうなんだ。だから……」

「……分かったわ。あなたが留守の間は、女神様とやらを演じていればいいのね」


 アリエルの「女神を演じる」という言い回しに、引っ掛かりを覚えるものの。セフィロトは素直に代役をこなしてくれそうなアリエルに、とっておきの「神様のしるし」を与えることに決める。それさえ、身につけさせておけば……もう、アリエルが自分の元から離れていくこともないだろう。


「いい子のアリエルには、これをあげるよ。ほら……僕の葉で作り上げた、神樹の冠だよ」

「……別にいらないわ、冠なんて。私はあくまで代理でしかないの。……この世界の神様になってやろうだなんて、野望もないし」

「フゥン? 意外に謙虚だね」


 口先では誉めてみたところで、セフィロトがアリエルの辞退に不服なのは目に見えて明らかだ。一方、そんな彼の様子に冠を受け取らなくて正解だったと、アリエルは心の端で確信する。彼が恭しく掲げる、あの真っ赤な冠は絶対に受け取ってはならない代物だ……と。


「ふむ、勿体無い事をなさる。セフィロト様の折角のご厚意を、拒否されるとは」

「新参者のあなたには関係のないことよ。いくらきちんと“作り替えられた”とは言え……あまり調子に乗らないことね」

「……」


 新しい女神に新参者と言い捨てられ、プランシーが顔を顰める。無論、アリエルとて彼の心情は理解できるが、かと言って仲良くしていくつもりもない。それに……プランシーのディテールは、アリエルに「嫌な事」を思い出させ過ぎる。


(この盲目的な感じ、スウィフトにそっくり。ただ……少し、彼の方が傲慢かしらね。セフィロトに心酔するのは、仕方がないのだろうけど。一緒に調子に乗るのは、頂けないわ)


 それでなくても、プランシーはアリエルの翼を無理やり捥いだ憎い相手でもある。いくらセフィロトの命令があったとしても、彼自身が「楽しんでいた」ことも感づいては……彼は相当な危険人物だろうと、認識を改める。

 ルシエルの契約下にいた頃は、憤怒の悪魔に似合わず非常に穏やかだと聞き及んでいたが。今の彼は見た目だけではなく、中身も彼女の監視下にあった頃の彼とは別物だと考えるべきだ。嗜虐的で、残忍性も異常。きっと、彼は相手が誰であろうと……傷つけて良いとなれば、躊躇の欠片もなくどんな相手にも手を上げるに違いない。


(……そう。彼は「善良な方」を捨ててしまったのね……)


 ルシエルとの契約と一緒に、彼が魂をシェアしていた「相方」を抹殺した事さえも、見抜いてしまっては。やはり、今の自分は嫌いだとアリエルは軽い喪失感をぶり返す。彼の内部に渦巻く真っ黒な深淵を見つめられるのは、間違いなく「女神」の能力だろう。


(あら? だとすると、もしかして……?)


 彼の資質を見抜けることに関して、セフィロトも同じであろうことにも思い至っては……アリエルは彼の寛容に身震いをする。アリエルに力を授けた「神様」であれば、アリエルと同じようにプランシーの魂に「欠損と補填」が発生している事を把握している可能性は高い。それなのに……セフィロトはプランシーを重用する姿勢を見せている。それはつまり、彼の歪んだ本性にも気づきながらも、手元に置いていることになるのだが……。


(……この余裕が神様、って事なのかしらね。きっと、彼に裏切られるだなんて、微塵も考えていないのでしょう。そんなこと……)


 万に一つもあり得ない……いや? むしろ……その逆か?


(違うわね。セフィロトの洞察力と……それを支えている情報量を見くびってはいけないわ。……この場合は多分……)


 おそらく、彼はプランシーを試そうとしているのだ。彼が「どこまでの忠臣」であるか? そして……果たして、彼には「新しい世界に迎え入れる価値」があるのか? そんな自前の情報量では賄えない不透明を、セフィロトはしっかりと見定めようとしている。

 相手の「心変わり」までは、いくら神様でも予測もできないし、見通すこともできない。魂の状態を見透かし、寄り添うフリをして付け込むことは出来ても。……不安定だらけの心を完璧に理解するのは、不可能である。


「あっ、そうだ。プランシーには、邪魔者の排除をお願いしようかな」

「承知しました。それで? どの邪魔者を排除してくれば良いのですか?」

「そうだなぁ……だったら、アレをお願いできる?」

「ほぅ……」


 アリエルが茫然自失の姿を見つめたのと同じ、姿見を呼び出して。セフィロトがプランシーに排除対象を示す。そこには、真っ青な水流を纏った海竜が映し出された。


「……羨望の真祖・リヴァイアタン。どうやらこいつが僕の城を壊した上に、修復さえも邪魔しているみたいなんだ。しかも、あっちの天使はアリエルにも見覚えがあるんじゃない?」

「えぇ、もちろん。……彼女は救済の大天使・ラミュエルだわね。だとすると、かなり厄介かもよ? あいつが持っているファルシオンはちょっと特殊な神具だから」

「知ってる。……相手の悲しみを読み取ると同時に、契約の有無に関わらず魔力を分け与えることができる。その上で……所持者が契約している相手の防御性能を大幅に強化させる、だったっけ? 他の神具と違って、魔法の自動発動はないみたいだけど。……派手さはない分、堅実な作りをしている。確かに厄介な神具だよね。う〜ん……言っておいて、なんだけど。神具込みだと、プランシーには荷が重いか……」


 そう言いつつも……チラとプランシーに意味ありげな視線をやる、セフィロトの「わざとらしさ」にアリエルは辟易してしまう。こんな「大物」相手にプランシーが勝利をもぎ取ってくるとは、到底思えない。そんなこと……吹っかける前から、分かり切っている事だろうに。


「かしこまりました。しかし、いくら属性の利があるとは言え……今の私では勝利は難しいでしょう。……ですので、新しい力を授けて頂いても?」

「やっぱり、そう来るか。……うん、もちろんいいよ。慎重なのも、計算高いのも悪い事じゃない」


 とんだ茶番があったものだ。

 アリエルは心の中でそう毒づいては、ため息を漏らす。プランシーが暴れられるのなら、容易く命令を実行することを理解しているセフィロトと。セフィロトが「自分を利用している」ことを理解しつつも、敢えて提案に乗ることで更に力を得ようとするプランシーと。それぞれ利用する側とされる側にあって尚、互いに牙を隠し合っては牽制し合う。

 そうして……腹の探り合いに余念がないなりにも、役目を果たすつもりらしいセフィロトとプランシーが出かけていく。そんな彼らの背中を傍目に見つめながら、もう知らぬ存ぜぬでは済まされない所まで来てしまったと、アリエルは嘆息していた。それでも、ようやく先程までの後悔を捨て去っては、セフィロト達を見送った後の玉座に腰掛ける。


 後戻りはできないし、するつもりもない。勝利をもぎ取らなければ、新しい世界に飛び出すことは出来ない。そのためにも……マナの箱庭だけは何が何でも、徹底的に壊さなければ。

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