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明日香は近くの公園のベンチに座り、自販機で買ったホットコーヒーで手を温めていた。
白い溜息が何度出てきても、それは明日香の中の霧ではないらしい。
明『…私は、何がしたいのかな…。』
慎一を想えば想うほど、自分の情愛の方向性を見失う。
咲抹殺を達成した暁に、明日香が得るものは何なのか。
それを考えては、明日香はさっき眺めていた慎一の笑顔を思い返した。
望むのはあの笑顔であって、悲しみに暮れた顔ではない。
それは分かっているのに。
明「はぁ……。」
明日香は更にため息をつくと、ようやくコーヒーを開けた。
火傷しないよう慎重に一口すすり、おまけにもう1つため息をする。
「南 咲は一國堂でバイトしてるのか…。よし、早速抹殺作戦を練りにかかるか。」
明「!?」
すぐそばに、あまりに自分とリンクする独り言を聞いた。
思わずその方を見ると、手帳に何か書き込んでいるワクワクした表情の女が、近くのベンチに座っていた。
ちなみにそれが女だと分かったのは服装からで、顔も声もむしろ青年に近かった。
明『咲を抹殺…? この人も咲のことを……?』
と、女はさっさと手帳をしまい、立ち上がった。
反射的に、引き留めようとして声が出ていた。
明「あ、あの…!」
女「ん?」
明「あ……えっと………」
明日香はもう呼び止めてしまって後には引けず、単刀直入に言った。
明「わ、私も! 南 咲を殺したいんです!!」
女はそれで独り言を聞かれていたことに気付き、一瞬激しく動揺したが、明日香が敵ではないと判断したらしく、すぐ落ち着きを取り戻した。
しかし、すぐ受け入れられるほど明日香を信じてもいなかった。
女「咲を殺すのは私の仕事だ。アンタたち一般人にどんな事情があるか知らんが、巻き込むわけには―――」
明「私はただの一般人じゃない! 咲が大嫌いでしょうがないの! あなた殺すんでしょ? 私も殺したいんだから、手伝うくらいさせてよ!」
明日香は「一般人」という言葉で、自分の事情も知らずに一蹴されたように感じ、ムキになってついいつもの口調に戻っていた。
無茶苦茶な理屈だが、女は余裕たっぷりに笑った。
女「まぁ、手駒は多い方がいいからね。手伝ってくれるってんなら協力させてやらないこともない。アンタ、名前は?」
明「五島 明日香。咲の同級生よ。」
女「同級生を殺すのか。よっぽどの事情なんだな。」
女はまた少し笑いながら、明日香を手招いた。
明日香が女に近づくまでに、女は自己紹介を終えた。
翔「私は麻池 翔。鬼灯族殲滅協会の会員だ。」
第12話 完




