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明日香は、何を注文するでもなく、慎一たちと咲のやり取りを、指をくわえて見ていた。
まさかこんな形で見せつけられる屈辱を味わうとは思ってもみなかった。
明『あ、あんな近くに…。今日南 咲を抹殺する予定だったのが、何でこんなことに……。』
悔しさで泣きそうになりながらも、咲と慎一が仲良くしゃべっている状況から目を離せないでいた。
自分の大好きな慎一が、随分と嬉しそうに喋っている。
その相手は、自分じゃない。
明『………。』
ふと気付くと、自分が見ていたのは笑っている慎一だけになっていた。
そのうち料理を運んできた咲にも目をくれず、ひたすら慎一だけを眺めていた。
咲への憎しみも少し忘れていた。
明「……慎一くん。」
小さな声でポソッと呟いた。
それだけだった。
慎一は気付くわけもなく、咲がいなくなってからは友達2人と楽しそうに喋っている。
笑っている慎一を黙って見ていられる今が少し幸せだった。
そしてふと、ある考えが頭をよぎった。
明『……もし私が南 咲を殺したら、慎一くんはあんな風に笑ってくれないんじゃ…?』
そう思った瞬間、不意に胸が苦しくなった。
座っていられなくなった。
何も頼まないまま、すぐに店を飛び出した。
しばらく走って、バテて、立ち止まって激しく息をした。
両手を膝について、むさぼるように息をした。
頬に違和感を覚えて触ったら濡れていた。
その濡れた指を眺めていると、疑問がよみがえる。
明『……何で…、私は南 咲を殺したかったんだろう? もしも殺せたとして、それで私は慎一くんと幸せになれるの?』
明日香は分からないままで、ふらふらと座る場所を探した。
走ったせいで火照った明日香の顔に、冬の空気は少し冷たすぎた。




