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いつになくたどたどしい咲に案内されて、3人は禁煙席に着いた。
早速メニューを開く。
勇「ここのランチいいな。ラーメンとご飯と日替わり一品と、餃子か唐揚げだってよ。」
慎「ホントだ。安いし。俺醤油の餃子セットでいいや。」
勇「俺担々麺の唐揚げセットにしよ。」
木「私そんな食べれないしな~。普通に醤油ラーメンでいいよ。」
腹が空いているとスムーズに注文も決まり、慎一がテーブルの呼び出しボタンを押した。
やってきたのは咲だ。
注文入力用のハンディを開き、緊張気味に口を開く。
咲「お、お伺いします。」
慎「えっとね、俺醤油ラーメンの餃子セット。」
咲「セットで…え~~…これだ。はい。」
ピッ、ピッとハンディが恐る恐る押される音を聞きながら、次は勇気が言った。
勇「俺は担々麺の唐揚げセットね。」
咲「唐揚げセット…ですね。」
反芻しながら入力キーを探し、見つけたところでようやく断定の助動詞をくっつけた。
木「私は醤油ラーメン単品で。」
咲「醤油の単品をおひとつ。」
これだけは手慣れた様子でピッピと入力を終えた。
咲「以上でよろすぃ……よろしいですか?」
慎「うん。」
咲「確認さすていただきます。え~と、醤油の餃子セットがおひとつ、担々麺のぎょ…違う、唐揚げセットがおひとつで、醤油の単品がおひとつ、以上で?」
いちいち危なっかしく読み上げ、終わると既にホッとしたような顔を上げ、慎一たちを見た。
勇「おっけー。」
咲「かしこまりました!」
そこでやっと自然に笑った咲は、最後に一つピッと押してからハンディをポケットにしまい、戻っていった。
勇「すげえ緊張してたな。今日初めてってワケでもないのに。」
慎「頑張ってんな~。」
木「注文確定してないのにホッとしてたから、ここで注文変えたら面白いかなって思ったけど、可哀想だからやめといた。」
慎「何その意外な一面…。」
しばらく3人で他愛もない話や、他愛もないテストの話などしていると、程なくして注文したものが運ばれてきた。
運んできたのは咲と、もう1人男の店員である。
店「お待たせしました。こちら、担々麺と唐揚げのセットですね。」
勇「あ、俺です。」
勇気が軽く手を挙げると、店員は勇気の前にお盆を置き、木葉にも同様にしてラーメンを配膳した。
そこで店員は早々に引き上げ、次に咲が来た。
咲「醤油ラーメンと餃子のセットです。」
慎「はい。」
慎一も条件反射で軽く手を挙げるが、それより前に咲はお盆を慎一の前に置く体勢であった。
咲がそれを慎一の目の前に置いてから、咲は慎一に声をかけた。
咲「実はバイトの先輩たちにもう知られてるんですよ、私と慎一くんの関係。」
慎「ん? そうなの?」
咲「だからさっきの人―――宮西さんっていうんですけど、あの人も私に気遣って、慎一くんの注文運ばせてくれたんです。」
慎「ああ、そうなんだ。」
勇「どうりではけるの速かった。紳士やな~。」
木「イケメンだったしね。」
談笑も束の間、そろそろ混む時間帯でお客さんが増えてきて、咲は呼ばれた。
咲「じゃあ、ゆっくりしてください。」
慎「おう、頑張れよ。」
咲はわずかばかりの笑顔でその場を後にし、来たばかりのお客さんの案内を始めた。




