12-1
いよいよ2年生の2学期も終わりを迎えようとしているこの頃。
慎一たちはクリスマスだ正月だを目の前にして浮かれることも許されなかった。
勇「なぁ、今週末くらいに次のテスト対策の勉強会やらね? いい加減やらないとヤベエよ。」
木「私はいつでもどころか、やらなくても構わないくらいだけど。」
勇「やらなきゃ死ぬ!」
いつもの4人はいつものように集まって弁当を食べながら、次の勉強会の話をしていた。
そう、期末考査が目前に迫っているのである。
慎「うん、今週末なら別に俺も用事ないし。」
咲「あ、すいません、私今週末ちょっと用事があって…。」
慎「え?」
一番用事がなさそうな咲がそんなことを言い出したので、慎一は思わず声を出した。
それで咲は自分が何かマズいことを言ったのかと勘違いし、あわあわし出す。
勇「珍しいな、南さんが慎一と遊ぶ以外で用事なんて。」
木「確かに聞いたことないかも。咲ちゃん、ちなみにその用事って?」
咲「あ、バイトです。」
慎・勇・木「バイト!!??」
これには全員が思わず声を出した。
咲はその反応を見てやっぱりマズいことを言ったのだと、勘違いを確信に変えた。
咲「ご、ごめんなさい…。」
慎「い、いや、しょうがねえよ。そうだよな。咲独り暮らしだし、高校生でもバイトぐらい珍しくないか。」
咲「あれ…そうなんですか?」
勇「基本的に校則で禁止されてはいるけどな。隠れてやってるヤツもいるし。」
咲「あ、それは、ちゃんと先生に許可を頂いたので、私はルール違反じゃないです。よね?」
木「許可もらえたんなら違反じゃないわよ。大丈夫。」
咲はそこでやっと胸をなで下ろした。
バイトをやっているという事実への驚愕が落ち着くと、今度はバイトそのものへの興味が湧いてくるのは世の情けである。
慎「何のバイトやってんだ?」
咲「ん~と、何とかっていう中華料理屋? です。何てったかな…。」
勇「あ、もしかして駅前に最近できた『一國堂』っていうラーメン屋?」
咲「あ、そうだそうだ、それです。」
木「へ~。ラーメン作ってるの?」
咲「私は作る方じゃなくて、お客さんを案内したり、テーブル片づけたり、お勘定したりっていう…」
慎「ホールか。」
咲「ホール? 分かんないですけど、多分それです。」
勇「何かすげえな~。いつから始めたの?」
咲「言っても先月末くらいからですよ。文化祭のすぐ後でしたから。」
3人はあらかた咲のバイト情報を引き出し、次の段階に移った。
木「あ、じゃあ今週末みんなでそこ行こうよ! どうせ皆用事ないし、咲ちゃんバイトなら勉強会もできないもん。」
慎「おお、いいな。行こう行こう。」
突然木葉が投下した爆弾が咲を取り乱させた。
咲「ええ!? ちょ…え、来るんですか!?」
慎「いいだろ? ちゃんと皆で飯食うから大丈夫だよ。」
咲「大丈夫? いや、恥ずかしいですよ…。」
咲と一緒に何故か焦っている勇気も口を開く。
勇「そうだよ、南さん恥ずかしがりなんだから、そんな意地悪してやるなよ。」
木「? 勇気何かノリ悪いね、今日。」
慎「いつもそんな風じゃねえだろ、どうしたんだよ。」
勇「…だって勉強会……」
木「だから咲ちゃんいないんだからできないでしょって。」
勇気は何が何でも―――咲が来れなかったとしても―――今週末に勉強会にこぎつけたかったらしいが、もはや手遅れだった。
木「じゃあ皆、お昼に一國堂集合ね!」
慎「おう。」
勇「う~~、テスト対策が…。」
咲「ウソ~~~…。」
2対2の期待と憂いが3組の一角で人知れず発生していた。




