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「皆さん、4時になりました。これで、第36回赤目高校文化祭を終了します。各企画は片付けを行ってください。なお、5時から体育館で閉会式を行いますので、制服に着替えた上で、遅刻しないように来てください。」
文化祭の終了を告げる放送が校舎中に響く。
慎一と咲はそれを聞いてから、のんびりと3組に戻ってきた。
慎「楽しかったな。」
咲「そうですね!」
咲は相変わらずCDラジカセを抱えたまま、心からの笑顔で慎一に答えた。
2人がクラスの片づけに加わってダンボールの解体などしていると、勇気と木葉も戻ってきた。
勇「お疲れ~。」
木「遅れてゴメンね。」
と言いながら、2人も片付けに加わる。
慎「そういえば2人とも、どうだった? バンドの方は。」
勇「やっぱり上手ぇよ皆。スゲェ。」
木「盛り上がったね~。」
慎「そっかあ。俺らも行けばよかったかな。」
と、咲が慎一の肩を指でつついた。
振り向くと、咲が少し恥ずかしそうに小さな声で言った。
咲「あの…ばんどって何なんですか?」
慎「ああ、バンドはね…。う~ん、何つったらいいのかな…。」
慎一が答えに詰まっていると、勇気が口をはさんできた。
勇「ライヴだよライヴ! スゲェんだぞ! ギターもベースもドラムも観客も、皆で一つになってグルーヴするんだ!」
横文字に次ぐ横文字に、咲は意味が分からなくて眉をしかめた。
そこに、今度は木葉が口をはさむ。
木「すごく簡単に言えば、音楽の演奏会みたいなものよ。咲ちゃんの村にはそういうのなかった?」
咲「う~ん、音楽…一応毎年1回のど自慢大会っていう、村ぐるみの民謡歌唱会はありましたけど……。」
木「…うん、多分そんな感じ。」
いまいちつかみきれない咲に、勇気が言った。
勇「慎一たちは何してたんだ?」
慎「あぁ、俺らは色んなクラスの出し物見て回ってたよ。」
咲「色んなのがあってすごく楽しかったです。」
木「良かったね。そういえば、ウチ以外にもう1クラスお化け屋敷やってるとこあったよね? そこは行ったの?」
途端に咲の表情が凍り付き、同時に慎一は噴き出した。
怪訝そうな顔をする勇気と木葉に、慎一は笑いをこらえながら説明する。
慎「いや、それがさ、そこ行ったら咲メッチャビビってて、すげぇ面白かったんだよ。」
咲「そんなの…アレはしょうがないじゃないですか! 全然前見えないしいきなり出てくるし!」
咲はムキになって言った。
しかし、勇気も木葉ももう笑っていた。
勇「うん、そうだな。怖いもんな、お化け屋敷ってな。」
勇気がからかうように気の無い励ましを咲に送り、咲は「ゴミ出してきます!」と言い捨てて逃げるように立ち去った。
慎「あ、咲、俺も行くよ。」
慎一も咲を追って教室を出る。
勇気と木葉はまだちょっと笑いを残しながらダンボールをビニールひもで縛ることにした。
慎一が咲に追いつくと、ちょうどそこにいたクラスの友達に色々つめ込まれたゴミ袋を渡された。
咲「私1人でも大丈夫ですよ!」
慎「焼却炉の場所知らねぇだろ。そんな怒んなって。」
2人はゴミ袋を持って、慎一を少し前にして校舎裏の焼却炉へ向かった。
咲が少し気の沈んだような目を左下に向けていたので、慎一も少し罪悪感を感じ始めていた。
慎『…ちょっとからかいすぎたかな。』
咲「慎一くん。」
慎「ん?」
慎一が謝ろうとしたのを咲の呼びかけが止めた。
咲「…でもホント楽しかったですね。」
表情は変わらないが、慎一には嬉しそうに見えた。
慎「そうだな。来年も楽しみだ。」
咲は口元をゆるませて頷いた。
慎一は今両手に持っているものの重さを実感しながらその日の回想を始めた。




