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一方その頃、3組に黒い影が忍び寄っていた。
明「今日は客として潜入して、咲を見つけ出し、殺す! 暗闇でたくさんの人が行き交うとなれば犯人も特定できないし、誰か1人倒れていたところで客にもそういう役がいるとしか認識されない! カンペキよ!」
守「そうだね、さすが明日香さん!」
明日香と守は、午前は自分のクラスの出し物でシフトが入っていたので、午後になってから大急ぎで3組に駆け付けたのだ。
ちなみに実は、やはり友達とさっさと何処かへ行ってしまったので、明日香と守の2人での行動となった。
明日香は実の自分勝手さが気に食わなかったが、守からしてみれば大歓迎極まりない状況である。
並んで徐々に自分たちの番が近付いてくると、しかし明日香の心には別の種類の不安が生じ始めた。
明『…怖そうだな、やっぱり。結構さっきから悲鳴がするし…。いや、でも状況的にはここが一番いいんだもん! やってやる! ……でも…。』
明日香が先ほどまでの獣のような目から、一転弱々しい目になっているのに、守は気付いた。
守『これは…もしかしたら僕にもチャンスなのかもしれない…!』
守は一つ大きく息を吐いた後、明日香に呼びかけた。
守「明日香さん。」
明「ん?」
守「大丈夫、明日香さんは僕が守るから!」『いった!!!』
明「守るって何が?」
守の男気はまるで伝わっていなかった。
守は肩を落としつつ、しかしめげない。
守『だ、大丈夫、口では伝わらないかもしれないけど、行動で示せば!』
と、何だかんだやっているうちに明日香たちの番になった。
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懐中電灯を渡され、中に入る。
明「あんた先行きなさいよ!」
守「あ…う…わ、分かった!」
何故かヒソヒソ声で明日香は守の背中を押し、守は一瞬抵抗しそうになってすぐ思い直した。
しばらく道なりに進むと、左奥の壁の上の方から手が伸びて、おいでおいでをしている。
しかし、懐中電灯でかなり遠目から確認できたので、ゾッとしただけに終わった。
明「ふん、大したことないわね…。」
守の背中にぴったりくっつきながら悪態をつく。
守は守で、美味しすぎる状況に浮かれまくっていた。
そこへ、突然飛び出してきて驚かせる役の登場である。
2人してしっかりと悲鳴を上げ、お化け役の人を喜ばせた。
明「ふざけんじゃないわよ、あんなの誰だってビビるでしょうよ!!」
守「び、ビックリした…。うぅぅ~~…。」
完全にお化け屋敷のペースに呑まれた2人は、その後もビクビクしながら進んでいった。
途中何もないなと思ったら、後ろから引きずるような音がして、振り返ると女が這いずって来ていたり。
それでビックリしすぎた明日香が守を押しとばして逃げたり。
散々叫ばされた挙句、ようやく出口から出てきたのは、明日香が引きずる伸び切った守だった。




