11-3
昼休憩の時間も終わり、午後シフトの入っていない者は全員教室からの撤退を余儀なくされた。
勇「じゃな。」
勇気と木葉は少し急ぎ気味に体育館へと向かっていく。
慎「…じゃあ、俺らもどっか入ろっか。」
咲「はい。」
2人は、とりあえず一番近かった4組の出し物に並んだ。
内容はただ入り口から出口まで、ゲームをしながら進んでいくというもの。
文化祭の出し物の中でもスタンダードな位置を占めるタイプである。
並べてある椅子に座って待つ間、2人に会話はなかった。
別に気まずいわけでもなかったが、とりわけ話す事もなく、午前のシフトでの疲れもあって会話は途絶えたのである。
しばらく待った後、ようやく中に入る事ができた。
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最初のゲームはイントロクイズだった。
最初一瞬だけ流して何の曲か当てる、王道中の王道である。
慎『咲は人間界の音楽とか全然知らないし、俺が頑張らねえとな。』
と、少しだけ気負っていざ第1問。
一瞬音楽が流れた後、係の子がすかさず止める。
「はい、何の曲でしょうか?」
テンション高めの台詞に、「はい」と応じたのは慎一ではなく、咲だった。
慎『え?』
咲「Bluuuuuueの、[こんな毎日]。」
「はい、正解です! これは簡単すぎましたか~?」
確かに今流行りの曲だし、慎一も分かっていた。
だが、まさか咲が答えられるとは思ってもみなかった。
その後も、咲は慎一が答えるまでもなく全ての問題を正解してしまった。
慎一も知らない、洋楽のヒップホップ曲までよどみなく答えるほどだった。
それには係の子も驚いていたが、慎一は途中から問題に答える気も失くして咲を見るばかりになっていた。
次のコーナーに進むときに、慎一は聞いた。
慎「咲、いつの間にあんなに音楽に詳しくなったんだ?」
咲「木葉さんにCDプレイヤーを貸してもらってから、レンタル店に行って色んなCD借りて聴きまくってますもん。」
咲はいつになく誇らしげだ。
慎一は、努力は人を変えるんだな~と思った。
次は射的だ。
撃ち倒した的の大きさに応じて点数がもらえるというもので、チャンスは1人2回。
慎『よし、今度こそ俺が!』
と、咲が迷いない射撃で2つの最高得点の50点的を撃ち倒す横で、慎一は決心していた。
慌てた慎一は50点的を外し、「あ、堅実に行こう」と思い直して手前の20点的を何とか倒した。
慎「…何でそんなに上手いんだよ。」
咲「小さい頃はお父様の山での狩りによくついてってましたから♪」
咲は慎一が少しすねているのに気付いていなかった。
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その後はしかし、輪投げで慎一が咲の不調を補ったりと助け合い、ついに最後のコーナーに来た。
そこに入ると、いきなり一面に写真が貼られていた。
ここに来た人たちの記念撮影のようにも見える。
係の子がまた高いテンションで慎一たちの得点表を受け取った。
「お~~、すごい! おめでとうございます! 360点はS賞ですので、この中からお好きな景品を1つと、記念撮影で~す!」
慎『そういうことか。』
係の子が示す一角には、割と高価そうなものが積まれている。
咲「え、ここから好きなもの1つ?」
「はい、もらっていってください!」
咲「いいんですか!?」
「どうぞ!!」
咲と係の子がキャッキャウフフしているうちに慎一はザッと景品を見たが、特に心惹かれるものはなかった。
慎「咲、どれにする?」
咲「え~~~、どうしよう…。」
咲はキラキラした目で1つ1つ慎重に物色していく。
しばらくして咲が手に取ったのは、小柄なCDラジカセだった。
慎「それでいいのか?」
咲「はい。これで木葉さんにCDプレーヤー返せます。」
咲はニコニコだ。
慎一は微笑ましく思いながら、適当にキャップを手に取った。
「景品はそれでよろしいですか~?」
既にカメラを持っている係の子に2人で返事をする。
「じゃあそこに並んでくださ~い。」
促されるまま、2人は並んだ。
もはやピッタリ寄り添っても恥ずかしさはなかった。
「はい、チーズ!」
シャッターが切れる音が、他のコーナーからのお客さんの歓声でかき消された。




