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10-4

夜の10時を回った頃、突然悪がすっくと立ち上がり、また超ボリュームで会場中に呼びかけた。


悪「全員注目!!!」


慎一がビクッとして会場が静かになると、また悪が話し始める。



悪「今日は集まってくれてありがとう。夜も遅くなってきたので、一旦ここでお開きにしようと思う。あとは各自帰るなり飲み続けるなりしてくれ。以上。」


毅然とした態度でそれだけ言うと、悪はさっさと座った。



それを合図にまた会場はざわめきを取り戻したが、ちらほらと帰り始める人もいて、慎一に終わりを感じさせる。



慎「終わっちゃったな。」


咲「そうですね。楽しかったですか?」


慎「まぁな。良い人たちばっかりで安心した。」


咲「良かったです。」


咲は心から安心したような顔になった。



落ち着いているように見えたが、やはりずっと緊張していたのかもしれない。


その緊張が慎一への気遣いだったのか単なる人前意識だったのかは分からないが。



慎一がしみじみとそんなことを考えていると、悪が慎一のもとにやって来た。



悪「慎一君、お疲れ様。」


慎「あ、お疲れ様です。」


悪「緊張したかい?」


慎「…まぁ、少し。」


悪「じゃあ風呂に入ったらいい。我が家の風呂は天然温泉だからな。最高に気持ちいいぞ。」


悪がその人相に似合わずものすごく良い笑顔で勧めてくるので、慎一は「はい」とだけ返事をした。



悪「よし! おい、誰か慎一君を風呂まで案内してやってくれ。」



悪が何故かすごい達成感のある顔で手を叩いたのが慎一には不思議だったが、何も言わず悪に呼ばれた女中さんについていった。














―――――――――――――――――――













慎「うはっ、すげえ…。」


慎一の予想以上だった。



まず脱衣場からして銭湯のようにしっかりしていて、しかも広い。


そして浴場に出ると、かなり広く、立派な露天風呂が慎一の目の前にあった。



壁にはたわしのようなものと桶が一緒にかけてあり、シャワーやシャンプー・石鹸のたぐいは見当たらない。




慎「かけ湯して、これで体こすって入るのか?」


ためしにそのたわしで腕をひとこすりしてみると、かなり痛かった。


慎「…かけ湯だけして入るか。」



この環境で暮らしていると自然と肌も都会人より強靭になるのだろうと勝手に納得しつつ、1杯かけ湯して湯につかった。



温度も多少熱めではあったが、夜の山の中とあってかなり冷えていたので、慣れればちょうど良くなった。




慎「フゥ~~~~~~~……。」


緊張をほぐすように長い溜息をつく。


そして、今日1日を回想した。



慎「ハア~、楽しかったな。鬼灯族、全然普通の…ってか、平均よりずっと良い人たちじゃん。」


慎一は改めて、咲と付き合えている喜びを噛み締めた。










と、浴場の入り口の扉が開いた。










慎「ん? …!!??」



慎一はそちらに目をやって、すぐに目をそむけた。



体にタオルを巻いた咲が入ってきたのである。





咲「慎一くん、お湯加減どうですか?」


慎「お湯加…いや、え!? 女湯は!!?」


咲「…?」



慎一はそこでようやく、ここがあくまで家の風呂であって旅館ではないことを思い出した。














―――――――――――――――――――












咲「いいお湯ですね~。」


慎「ソ、ソウデスネ。」


慎一と咲は並んで湯につかっている。



慎『き…危険すぎる…。早く出ないと……。』



咲「慎一くん。」


慎「ひゃいッ!?」


思わず声が裏返ったが、それを恥ずかしがっている場合ではなかった。



咲「…この村の風習なんです。ビックリしないでくださいね。」


慎「なな77何が…?」





慎一が覚悟する間もなく、咲が突然慎一の両手を取って詰め寄った。



















咲「私と……契りを結んでください!」



















慎一は生まれて初めて、座ったまま立ちくらみを起こした。



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