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9-6

その後、2人はたびたび地元民に会いながら、色々な場所を回った。


咲が小さい頃によく遊んだという空き地に行けば、やはり小さい子たちが遊んでいた。


また、村で唯一の駄菓子屋に行けば、気の良さそうなおばあちゃんが咲を見て、大きくなったねえと懐かしげに言ってきた。


川に行くと数人釣りをしている人がいたり、咲が小さい頃に登って落ちてケガをしたという川辺の大岩のことを教えてくれたりした。



何処に行っても、そこには咲の思い出があって、慎一の知らない咲が育った跡があった。


人間の街にいるよりずっとリラックスしている咲の笑顔はいつも通りだ。



慎「咲、何か嬉しそうだな。」


咲「? そうですか?」


その疑問にあまりにも説得力がなくて、慎一は思わず笑った。



2人して意味もなく笑いながら、そろそろ日が暮れるので帰ることにした。














―――――――――――――――――――――――――













咲の家に着いて、また何もない咲の部屋に戻ってきた。


咲「お風呂ならいつでも入れますよ。もし疲れてもう入りたいなら案内しますけど。」


慎「いや、まだいいよ。」


咲「そうですか。」



と、そこへふすまの向こうから女の人の声がした。



女「深裂様、よろしいでしょうか?」


咲「どうぞ。」



スラッとふすまが開くと、女中さんらしい身なりの人が礼儀正しく座ったままお辞儀をした。


女「失礼いたします。深裂様、支度ができましたので、こちらへどうぞ。」


咲「あ、分かりました。ご苦労様です。」


そう言うと咲は立ち上がり、慎一に「ちょっと待っててくださいね。」と言って部屋を出て行った。



慎『支度って何だ…?』



1人残された慎一は、仕方なく縁側に出て、庭園を愛でることにした。














―――――――――――――――――――――――――













慎「……………。」


慎一は、再び部屋に戻ってきた咲を見て驚き入っていた。



咲は真紅の綺麗な、しかし飾り気の無い着物に身を包んで現れたのだ。


よく見ると、それはかごと姉妹の着ていた着物の色違いのようで、よく似ていた。




咲「どうですか? これ、私が村にいる時の普段着なんですけど。」


慎「良いと思います。」


即答だった。


咲も安心に表情をほころばせる。


咲「良かったです。さ、こちらへどうぞ。もうすぐ始まりますよ。」


慎「? 何が?」


咲「この村に初めて友好的な人間が来たお祝いの宴です。もう皆さんお集まりですよ。」


慎「ああ、なるほど、皆さんが…………皆さんが!?」






慎一の背筋をドライアイスが駆け抜けた。



咲の「人間が来たお祝い」という言葉で、自分以外皆人喰いの血が流れていることを思い出した矢先、その皆さんが集まる宴会に呼ばれたのである。


途端に暴走した鬼灯族による血祭の絵図が慎一の頭をよぎった。



咲「…? どうかしましたか?」


突然万引きがバレたような顔で固まってしまった慎一に、咲は優しく声をかけた。


慎「…あ、いや、何でもない何でもない! 行こか!」



慎一は慌てて立ち上がり、咲の背中を追って部屋を出た。


咲の着物の赤が、急に血なまぐさいものに見えてきた。




第9話 完



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