表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/144

9-1

夏休みのある朝、慎一の家に1通の手紙が来ていた。


それはそれは丁寧な字で、しかも恐らく筆で書いたらしいその手紙は咲からのものだった。


朝新聞を取る時に慎一自身が気付いたので、家族に詮索されることもなく、慎一はその内容を読んだ。







慎一くんへ。いかがお過ごしですか。


さて、今回お手紙を差し上げたのは他でもありません。


実は、私は今週末に実家に帰ります。


それに際し、お父様が是非慎一くんに会いたいと申しております。


お父様は人間に非常に友好的で、人間との共存を目指そうとした第一人者もお父様です。


また、一族の長でもあります。


なので慎一くんが襲われるようなことは決してありません。


誰かが禁断症状を起こして襲い掛かろうとしたとしても、お父様が守ってくれます。


私のような鬼灯族を認めてくれる人間の存在は、共存に大きな力になると思っています。


それでは、良いお返事をお待ちしております。







慎『…………そうか、アイツ携帯持ってねえもんな。』



慎一は咲の家に行くことにした。


徒歩で行ける距離なのにわざわざ手紙で連絡を取る意味はないと思ったからだ。


ついでに、慎一はようやく"鬼灯族"に正しい漢字を当てられるようになった。


かしこさが30あがった。













――――――――――――――――――――――――












咲「あ、こんにちは。」


慎「おす。手紙見たよ。」


咲「あ、それでわざわざ…すいません。」


慎「いや、手紙書く方がめんどくさいしな、俺には。」


咲「あ、ここだと暑いし、とにかく上がってください。」


慎「うん。」



咲が突然の訪問に驚いた以外、最初にあったようなたどたどしさはなかった。



慎一が部屋に上がると、扇風機が回って窓が開いているだけで、クーラーはなかった。


慎『やっぱりか。』


慎一は持ってきたうちわで自分をあおぎながら、台所で何かやっている咲を待った。


そのうち咲が麦茶を持ってくると、割と遠慮せずに一気飲みし、本題に入った。




慎「…で、手紙の件なんだけど。」


咲「来てくれませんか? 山奥で行くのは大変ですけど、お父様が本当に会いたがっているんです。」



ここに来ても、慎一は迷っていた。


咲の親に挨拶しておきたいのはやまやまなのだが、その実家にいるのは"お父様"だけではない。


全員が、言ってしまえば喰人鬼と化す恐れがある、そういう場所に、慎一は乗り込もうとしているのである。



咲「周りの者が暴走しても、お父様が言えば襲われることは絶対にありませんから!」


慎『って言ってもなぁ…。"お父様"も暴走するかもしれんし…。咲は良いヤツだし、鬼灯族も否定しやしないけど、やっぱり怖いなぁ……。』





慎一はしばらく腕組みしてうんうん唸っていたが、ふと見えた咲の表情が不安げだったせいか、口が勝手に動いた。



慎「分かった。」


咲「わ! ありがとうございます! お父様もきっと喜びます!!」


慎『この笑顔裏切れないなぁ……。』



慎一はもう取り返しのつかない所に来てしまったことを思い、そっと頬をひきつらせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ