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明「…どういうことよ?」
2日目の朝から、明日香はあからさまに不機嫌だ。
実「だから、今日は純粋に修学旅行を楽しもうぜっつってんの。」
明「何でよ!? アンタらやる気あんの!?」
守「ち、違うんだよ、明日香さん。」
守が慌てて荒ぶる明日香をなだめる。
守「どっちみち今日は何もできないよ。ラフティングとか、体験学習とかで、南 咲に接近できる機会がないんだもん。」
明「ホテルは!? ホテルでなら…」
実「昨日できなかったじゃねーか。」
明「あ、アレは…だって……。」
明日香は言い返せなくなって、実を睨みつけながら口をつぐんだ。
実「だからよ、狙うなら明日の小樽市散策のときだ。あそこなら人も分散するし、奇襲をかけやすいからな。」
明「…まぁ、確かに。」
実「じゃ、そういうワケだから!」
実は爽やかに言い捨てると、さっさと自分の友達の所へ駆け出して行った。
明「あ、ちょ…」
明日香が呼び止める間もなく、実は友達と合流して雑談を始めてしまった。
その間に割って入るのは、人見知りの明日香には至難の業だ。
そして守はふと、「2人で行動できるのでは…!?」という期待を生じさせていた。
守「…ぁ、明日香さん、じゃあ、行こっか。」
しどろもどろで呼びかけながらパッと振り返ると、明日香ももう自分の班の所に向かっていた。
そこでようやく班行動だったこととその残酷さに気付き、守は肩を落として自分も班の所へ向かった。
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結局2日目は明日香も大人しくしていた。
ホテルでいくらでもチャンスはあったのだが、実も守もおらず、突然1人になって急激に心細くなった明日香は、しゅんとするばかりで何もしなかったのである。
明「心細くなんかなってないわよ! 何でアイツらなんかに…バカじゃないの!?」
本人はこう言っているが、歩く速度も口数も2人がいる時の5分の1ほどで、表情に至っては一度も変わらなかったのを見れば誰にでも分かる事実である。
そんな調子で迎えた3日目。
小樽に着いた瞬間、明日香は実と守をひっとらえ、人気のない路地裏に引っ張り込んだ。
明「今日こそは、今日こそは絶対に殺るわよ!」
実「マジで言ってんのかよ…。」
明「今日殺ろうっつったのアンタじゃないのよ!!」
実は明日香に見つからないよう班に混じってトンズラするつもりだったらしく、膝に手をついて「あ~あ…」とダレた声を出した。
明日香は構わず続ける。
明「で、作戦は考えてきたでしょうね?」
いきなり直接話しかけられた守は激しくキョドったが、提示できる作戦はちゃんと用意してきていた。
守「だ、大丈夫! ちゃんと考えてきたよ!」
明「どんなの?」
守は必要以上の身振りを交えて説明し出した。




