8-2
見晴らしのいいところに着いた。
実「ここなら突き落として殺せるんじゃね? 柵も低いし。」
明「つ…突き落とすって…」
実「え? だって殺すんだろ?」
明「う…うん。」
明日香はいざという時、殺す覚悟を決められずにぐずぐずしてしまうのを自覚していた。
そして、実はそれを面白がって、しれっと殺害を催促しているのである。
明『そうよね…、殺すんだもんね……。 …よし!』
咲が戻しきって慎一の横へ戻ったのを見計らい、意を決してその背後ににじり寄り始めた。
実は"ちゃんと殺すかどうか"ではなく、"殺すのをためらってどんな行動をするのか"を期待して、守はちゃんとハラハラしながらその成り行きを見守る。
明日香は明日香で、咲の背中が近付くにつれて荒くなる息を咲に悟られないように注意しながら近づいた。
明『………!』
ふと咲がビクッと動いたのを、明日香は見逃さず、とっさにしゃがんだ。
目の前に来た咲の足の角度を見れば、見上げずとも咲が振り返ったのが分かる。
しかし、今自分に気付いているかは分からない。
心臓はバクバクだった。
―――数時間に感じられる数秒が経過した後、咲はまた前を向き、更に数秒後、先生が移動の号令をかけた。
咲と慎一が歩き出し、明日香はもう大丈夫だと判断して、ブハッとたまっていた息を吐き出した。
直後、実と守が声をかけてきた。
実「あ~あ、せっかくのチャンスだったのに。」
守「そ…そんな言い方しなくても…。明日香さん大丈夫?」
明日香は守の気づかいが惨めに思え、たまらずその場を立ち去った。
守「あ、ま…待って!」
もはやテンプレと化した後の追い方で、今回も守と実は明日香の後を追った。
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ホテルに着くとすぐ、明日香は実と守に集合をかけた。
実「何だよ、もう今日は殺せなかった、で終わりだろ?」
明「朝言ったでしょ!? 見学とかで一緒になった時か、ホテル内に狙いを定めるって! 何か案! はい、実!」
実「マジかよ…。どうせお前殺せずに終わるじゃねえか。」
明「ぅ…うっさい!」
実は、だんだん明日香の鈍臭さが面倒くさくなってきていた。
実「…じゃあ飯前にアイツがトイレ行ったりしたら、そん時に殺ったら?」
明「だからどうやってよ?」
実「どうやって?」
実はいきなり守に聞いた。
守「え、僕!?」
実「ほれ。」
守「え、え~っと……、あ、僕折り畳み傘なら持ってきてるけど…。」
明「それでぶん殴るっての?」
実「伸ばしゃリーチあるし、いいんじゃね?」
実はさっさとミーティングを終わらせたくて、守の案を補助した。
明日香はまたため息をついて一考した後、「じゃあそれ貸して」と守に素っ気なく言った。
守「あ…ち、ちょっと待ってて!」
守は急いで部屋に戻った。
実『あ~あ、まさかこんなメンドくせぇことになるとはな…。せっかくの修学旅行なのに…。』
イライラしている様子の明日香の表情が途絶えることはなかった。




