7-6
明「で、作戦は考えてきたの?」
翌朝、明日香は学校に来るや、真っ先に実と守がいる席にやって来て、おはようも言わずに聞いた。
いきなり話しかけられてテンパる守を気にもせず、実は親指を立たせた。
実「おう、バッチリさ。守。」
守「ん?」
実「ん? じゃねぇよ。」
守「え? あ、僕が説明するの!?」
実「当たり前ぇだろ。」
守『当たり前なんだ…。』
守は理不尽だと思わないではなかったが、これ以上ぐずぐずして明日香を怒らせるのは嫌で、説明し出した。
守「えっと…、実君と話し合ったんだけど、今度修学旅行があるじゃない? あの前にケガさせて行けなくしてしまえば、南さんもへこむだろうし、東君と仲が深まる機会も減るだろうって話になって。」
明「南さん?」
守「あ、転校生の名前だよ。南 咲さんって……」
明「ターゲットにさん付けしてんじゃないわよッ!!!」
守「あ、ゴメ……」
明日香の怒号は教室中に響き渡ったが、明日香と守は気付かず、実は気にしなかった。
実「で。その作戦は早速今日実行に移す。」
明日香は目だけで実を見た。
明「どうするの?」
実「任務開始は放課後だ。」
実は意味深ににやっと笑ってみせた。
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放課後。
明日香たち3人は急いで学校を出発し、咲の帰宅ルートで待機。
待機場所は、道の横に建ち並ぶ民家のうちの1軒の庭。
明「不法侵入までして、一体どうする気よ?」
実「コイツを使うんだ。」
実は野球ボールを取り出し、明日香に手渡した。
明日香は予想以上にしょぼい武器の登場で、一瞬きょとんとした。
明「…これを?」
実「投げつける。」
明日香は民家の人に聞こえないよう小声で怒り出した。
明「は!? ちょ…そんな単純な…」
実「聞け聞け。」
実は明日香の反応に笑いをこらえながら、明日香を落ち着けようと手を動かした。
実「お前は考え過ぎなんだよ。野球ボール頭にしっかりぶつけりゃ相当なケガになる。それでいきなり修学旅行ダメにはならないかもしれんが、焦ることもないだろ。何より、これならオレらだとはバレない。」
明日香は険しい表情のまま、また実の無茶苦茶な理屈に簡単に丸め込まれてしまった。
明「……これを投げつけりゃいいのね?」
実「ああ。外すなよ?」
明「わ…分かってるわよ!」
明日香はそこでようやく外す可能性に気付いたが、気付いていたフリをした。
会話に入れていなかった守は、しかし律儀に自分にできる仕事―――見張り―――を遂行していた。
守「あ! 来たよ!」
その声で3人はかがみ、明日香が塀にあいている穴の狭い視野から咲の様子をうかがい始めた。
明『…あれ、南1人? この道はまだ2人で来るはず…。それにしても楽しそうにスキップしやがって腹立つなぁ~…!』
明日香が歯ぎしりしそうになった頃、ようやく慎一が視界に入った。
汗だくで、咲の速すぎるスキップに必死で追いついてきた感じだ。
明『スキップ速すぎんのよ! 気付きなさいよ! 慎一くんバテまくってるじゃないの! 情けない!』
自分勝手に慎一を苦しめている(ように見える)咲への殺意が膨張し、うっかり慎一への微々たる落胆も顔を覗かせて、ボールを握る手に力が入る。
明『…覚悟!』
明日香はタイミングを見計らい、ボールをその穴を通して投げつけた。
そしてすぐにまた穴を覗く。
明『当たった!?』
ボールは地面に転がっている。
咲は、その軌道の直前で立ち止まって、追いついてきた慎一と並んでいた。
明『な…バカな!』
実『あそこで東が呼び止めなけりゃ当たってたな。』
守『外れちゃった…。』
明日香が驚き、実が面白がり、守が残念がっているうちに、咲はボールを拾った。
それを見た明日香は実に詰め寄り、ヒソヒソ声で怒鳴り散らした。
明「どうすんのよ、あのボール持ってかれたら! 私の指紋ベッタリついてんのよ!? バレまくりじゃないの!!」
実「大丈夫だって、ほら。」
明「は?」
実が指差す後ろを明日香が振り返った時、投げ込まれたボールが明日香の頭に直撃した。
第7話 完




