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明「…そんだけ?」
舌打ちしながら聞く明日香に、守はビクつきながら弱々しく「うん」とだけ言った。
せっかく思い切ったのに素っ気ない明日香の反応は、十二分に守のメンタルを傷めつけていた。
明「あそ。じゃ。」
守「あ、ま、待って!」
明日香はさっさと咲を追おうとしたが、守は諦められなかった。
明「何よ?」
守を睨めつける明日香から、守は頑張って目を逸らさないようにして聞いた。
守「ぼ…僕じゃダメですか?」
明日香はすかさず答える。
明「ダメね。全然ダメ。アンタみたいに弱そうなヤツ、興味ないの。」
実「じゃあお前の興味あるヤツって誰だよ?」
いきなり明後日の方向から飛んできた質問に、明日香はまた極度に恥ずかしがり出した。
明「な…な、な、な…、何でアンタらに言わなきゃなんないのよ…!?」
実「だってよ、せっかく守は決心してお前に告白したんだぜ? それを"弱い"の一言で一蹴するなら、守が目標とすべき"強い"をお前が提示するのがけじめってモンだろ。」
守「実君…。」
守は実の言葉に感動して涙が出てきたが、それも"弱い"と言われそうで慌てて隠した。
明日香は明日香で、よく見たらメチャクチャな理論なのに反論が思い浮かばない。
内なるイケメンを表出させたように見える実も、本心は違った。
「こんな簡単に終わっちまったらつまらない。」
それが本音だった。
ただ守が明日香に認められるために無駄な努力を見せるのを楽しみにしていただけだった。
しかし、明日香にも守にもそれは分からず、明日香は観念したように口を開いた。
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実「東か…。今は3組だな。」
明「それで、東くんが転校生とくっついちゃったから、どうにかできないかと思って考えてるの!」
実「あ~、だからさっき撲殺しようと…」
明「し…、して…、してな…、してないわよ! 人聞き悪いわね!」
実「いや、してたじゃん。」
実はヘラヘラしながら、いちいち恥ずかしがって反応が過剰な明日香をいじって楽しんでいる。
守は慎一をよく覚えていなかったため、結局目指すべき"強い"は分からなかっただけでなく、2人の会話に入り込めなくて完全に置いてかれていた。
明「それじゃあ、そういうワケだから…」
実「待てよ。」
明「もお~~~、何回引き止めんのよ!」
実は守を差し置いて、悪魔のアイデアを思いついた。
実「俺らも転校生の抹殺手伝ってやるよ。」
明「え?」
一番焦っているのは守だった。
守「ま…ちょ…は? え、抹殺を手伝うの!?」
実は焦る守をぐいと引き寄せ、耳打ちした。
実「男を見せるチャンスだぞ。これで認められればお前の願いも叶うだろ?」
守「……そ、そうなのかな?」
実「そうに決まってる! 男だろ? 自信持て!」
もはや情緒不安定になっている守に催眠をかけるのはたやすかった。
守「…分かった、僕、やるよ!」
実「よし、それでこそ守だ!」
2人は明日香の方を振り返った。
守「僕も手伝うよ。」
明「あぁ、そう…。」
正直明日香も人数がいた方が殺りやすい気はしていたため、悪い提案には聞こえなかった。
明「…じゃあ、頼むわよ。」
実「おう。任せろ。」
守「よろしく!」
明日香はとりあえず、もうその日は咲の追跡を諦めた。
代わりに、
明「じゃあアンタら、早速明日の朝までに転校生を抹殺する方法を考えなさい。」
と、宿題を出し、さっさとその場を後にした。
実「了解。」
守「分かった!」
気のない返事とやる気満々の返事が被った後、2人も抹殺作戦のことを話しながら帰路に就いた。




