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さて、下校の時間。
昨日と同じように咲についていく明日香。
昨日と違うのは、棒を携えていることだった。
明日香が"安部公房の「棒」"と聞いて思いついた考えとは、ズバリ「棒でぶっ叩く」である。
明『バレないように後ろから近づいて、あのすました後頭部に1発キメてやる…! ひひひ…』
明日香は偶然拾った汚い棒を、力強く握りしめて不敵な笑みを浮かべる。
咲は依然感付いている様子もなく、風に髪を泳がせながら歩いているだけだ。
明『私の尾行術をもってしても標的に肉迫するのは至難の業…。でもアイツ結構ボケボケしてるし、気付かれずにこの棒のリーチに入れさえすればこっちのものさ!』
顔に差す影の度合いがどんどん悪者のソレに近づいていく。
今は、下手をすれば慎一以上に咲だけを考えて行動していた。
明『学校からも大分遠ざかったし、そろそろね…。』
明日香は遂に、「次の電柱から次の次の電柱まで」を犯行現場に決めた。
危なげなく次の電柱に到達。
隠れて様子を見ることもなく、そのまま咲の後を追う。
棒を構え、距離を詰める。
そして、射程圏内に入った。
明『天誅!!』
棒を振りかざしたところまでは迷いがなかった。
しかし、棒を振りかざしてすぐ、また何かが明日香の脳裏をよぎった。
明『……待って、私がやってるこれって、誰がどう見ても犯罪よね? もしこいつがこれで死んじゃったら、私って殺人犯? …いや、死ななくたってれっきとした通り魔じゃん。傷害罪じゃん。ムショ入りじゃん。周りは普通に民家が建ってる。見られてる可能性もある。……見られてなくても、現代の技術ならすぐに私にたどり着くんじゃ…? 私もうこの時点で傷害未遂だし…。いやだ、こんな女のために、何で私が懲役を科せられなきゃ……』
あくまで棒は構えたまま、その体勢で固まっている間に、咲は普通に歩いて「次の次の電柱」を通り過ぎていた。
明「あ……」
明日香もようやく正気を取り戻し、散々ためらったのに、無意識のうちにまた咲を追いかけようとした。
その時だった。
?「何やってんの?」
明「ビャアッ!!!」
あまりに不意打ちの呼びかけに思わず悲鳴が出て、サッと振り返って棒を構えた。
見ると、赤目高校の制服を着た男子が2人、驚いた様子で立っている。




