7-1
それは、1年前の春にまでさかのぼる。
そう、慎一や勇気、木葉たちが、晴れて公立赤目高校に入学した時だ。
中学から親友同士だった慎一と勇気は、ひとまず同じクラスになった喜びを分かち合い、木葉もほどなくサッカー部のマネージャーになり、そこで新入部員の勇気と知り合うことになる。
すぐに意気投合した2人は交際をスタート。
慎一は少し羨ましく思いながらも、友達として素直に2人を祝福した。
だがこの3人の中で、最初に恋愛事と距離を近付けたのが実は慎一であったことなど、3人は知る由もない。
3人と同じクラスにいた五島 明日香が、人知れず慎一に一目惚れしていたのである。
しかし、明日香は大の人見知りでもあった。
一時隣同士の席になったこともあったのに、話しかけることはおろか、挨拶を交わすこともできない。
そんな調子で、何のアクションも起こせぬまま1年が過ぎ、慎一は3組に、明日香は4組になってしまった。
せっかく同じクラスだったのに何もできなかった自分に腹が立ち、家で1人枕投げに興じた修了式翌日。
しかし、2年になってもやはり、クラスの壁も手伝ってなかなか1歩目を踏み出せない。
そんな時であった。
「3組に来た転校生と東が付き合うことになったらしい」という噂が明日香の耳に入ってきたのは。
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明『むぅ~~、あれが噂の転校生…。』
明日香は噂を聞いてすぐ、転校生が誰なのか確認しに向かったが、最初は咲が風邪で休んだので確認できず、その翌日にようやく咲を確認した。
それはつまり、慎一が咲から風邪をもらって休んだ日である。
帰り道も明日香は尾行を続けた。
明『まだ正面からちゃんと顔を見れてない…。くそ~~~~~!』
電柱の陰でじれったくなり、地団太を踏みそうになる足を何度も踏みとどまらせた。
そのうち、咲は「おじぎ荘」と書かれたボロアパートの階段を上がり始めた。
明『これ以上は無理か…。あ、でも2階なら下から顔見えるかも。』
明日香は下から咲を見ながら移動し、咲の正面になる位置に回り込んだ。
明「っ!!」
驚きで出かかった声を必死で飲み込んだ。
そんなことは露知らず、咲はさっさと鍵を開けて部屋に入っていってしまった。
明『………確かに可愛い。そんな……ほんとに東くんがあの人と付き合ってたんなら、私勝ち目ないじゃん…。』
明日香の頭の中を、低身長(145cm)を始めとする様々なコンプレックスが渦巻き始める。
そしてふと、堪忍袋という名の脳神経が音を立てて切れた。
明『…抹殺するしかない!』
角のようにツインテールを逆立てながら、異性に告白するよりよほど勇気がいるはずの決意をあっさり固め、明日香は強くこぶしを握りしめた。




