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バスが停まっている駐車場の近くにある土産物屋の前を通った時、木葉が口を開いた。
木「あ、私アイス食べたいな。他に食べたい人いる?」
見ると、確かに店先でソフトクリームを売っているらしい。
勇「俺は良いや。」
慎「俺も別に…。咲は?」
咲「私、アイスって聞いたことはあるし、見たこともあるんですけど、何か外見が怪しくて食べたことなかったんです…。美味しいんですか?」
木「美味しいよ。一緒に食べようよ!」
咲「じゃあいただきます。」
"女性にとってのデザートとは、山に登った者たちが叫ぶ「ヤッホー」のようなものである"とは、古代ローマの女流詩人、サッフォーの言葉だっただろうか。
咲も女の嗅覚でそれをスウィーツであると嗅ぎ取ったらしく、木葉と一緒にミルクアイスを買った。
木「ん~~、美味し~♪」
咲『何か器が冷たい…。なめて食べるの?』
コーンを器と勘違いしながら、木葉にならって恐る恐る舌を近づける。
そしてちょっと触れた瞬間、すぐに舌を引っ込めた。
咲「!? 冷たっ!」
木「でしょ? 美味しい?」
木葉が嬉しそうに聞いてきたが、咲は冷たさに驚きすぎて味が分からなかったので、慌ててもう一口、今度は少し多めに食べた。
咲「…ん、美味しいです。すごい何か、牛乳の味がして。」
木「さすが北海道だよね。」
咲『あ、北海道は牛乳も美味しいんだ…。海のものだけじゃなくて。』
また1つ勉強になった咲をよそに、慎一と勇気はその土産物屋の奥へ入っていった。
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もう買うつもりのないお土産を適当に見て回りながら、2人は話をした。
慎「何だかんだあったけど、やっぱ楽しかったな。」
勇「ああ。咲ちゃんはちょっと乗り物に弱かったみたいだけど、結局楽しめたみたいだし。」
慎「うん。」
勇「会員は警戒しなくていいのかよ?」
慎「…なんか、さっきのみかんといい、微妙なことしかしてこねぇじゃん? 実は大したヤツじゃないんじゃないかって、ちょっと気ぃ抜けちまった。」
勇「まぁな。一応木葉もいるし、大丈夫か。」
2人の会話が途切れかけた時、外から咲の声が聞こえてきた。
咲「え!? これ食べれるんですか!!? へ~~、すご~い!! エコですね~!!」
2人は思わず噴き出した。
慎「コーンだな。」
勇「コーンだ。」
慎「初めて食べるっつってたしな。」
勇「笑える。」
慎「あんまり笑ってやるなよ。」
勇「お前もな。」
慎「はは。」
慎一の苦笑が止まるとすぐ、勇気が会話を継いだ。
勇「…慎一、彼女できて良かったな。」
慎「な、何だよ急に。」
勇「何か分かんねぇけど、無性に嬉しくてさ。」
2人は一度も目を合わせなかったが、互いに笑っているのは分かった。
慎一も、もはや咲が純粋な人間でないことなど全く気にしていなかった。
慎「……俺らもアイス食わね?」
勇「そだな。」
2人はゆっくりと咲たちのところに向かった。




