6-1
2日目。
慎一たちは朝から川に来ていた。
ラフティングという、ボートによる急流下りのようなものを体験するためである。
数人のインストラクターの指示のもと、4人は水に濡れないための特殊な服に着替えていた。
勇「うわぁ、違和感ハンパねぇ。」
慎「スゲェなコレ。」
はしゃぎながら着替えを終え、班ごとに別れた。
4人は誰も一緒の班にならず、慎一はここぞとばかりに咲に話しかけまくる咲の班の面々が少し癇に障った。
そしてそれより、その班に会員がいたとしたら自分は全く守ってやれないことが歯がゆかった。
慎『俺の班はカップル1組とあと3人…。でも普通に喋ってるし……。』
実際、クラスメイトを疑うのは難しい。
誰も彼も、1年の時から顔は見かけたことがある連中ばかりで、2年に上がって初めて関係を持ったのは咲しかいないのである。
そんな中に、咲の命を狙うようなヤツがいるとは考えられなかった。
理屈としてではなく、感情的に。
勇気と木葉を見ても、2人とも楽しそうに班員と喋っている。
慎『…このクラスにはいないと考えていいかもな。もしクラス内にいたんなら、日頃からもっと色々仕掛けてくるだろうし。』
慎一の思考が一旦まとまると同時にインストラクターの号令がかかった。
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咲たちの班がスタートした。
班員が、めったに接点のない咲に興味津々で話しかけてくるため、咲はひたすら恥ずかしいのを我慢して対応していた。
遂にボートで川を下り始めても、機会があれば喋りかけてくる。
A「南さんって前どこの学校だったの?」
咲「あ…えっと…私の村は学校なかったです……。」
次々明らかになる咲のおかしな素性に、一同大喜び。
咲『うぅ~…。恥ずかしいなぁ…。ポロッと変なこと言っちゃいそうだし、ボート結構揺れるし…。木葉さんにもらった酔い止め薬すごい効いてるけど、もつかなぁ…?』
オールで適当に水をかきながら咲が心配した矢先、ちょっと落差があるところを通った。
考え事をしていてインストラクターの忠告も耳に入っておらず、全く構えずに通ったせいでモロに体が揺さぶられた。
咲「ごぇッ…!」
思わず変な声が出たが、他の生徒は皆思い思いに叫んでいたので聞かれていなかった。
咲『ヤバイ…ヤバめの目まいが……』
イ「この後もっとすごいトコありますからね~!」
インストラクターの元気な威嚇。
嬉しそうな「え~」、「マジかよ~」。
そして咲は、「もうダメだ」と覚悟を決めた。
咲『うわああああ、もうヤダ―――――――!!!』
会員の存在に対する懸念は、先ほどの揺れで振り落とされて川の底に沈んでいっていた。




