5-3-2
アイヌ民俗博物館に着いた。
小さな村落のような形の展示施設である。
咲たちは小屋のような建物に集まり、係員の説明を聞いたり、アイヌ民謡「ピリカ」を歌ってもらったりした。
講演が終わると、バスの出発まで自由時間になった。
慎「咲のヤツ、何処行ったんだ?」
木「勇気も終わるなりパーッとどっか行っちゃった…。」
2人はひとまず外に出て、それぞれのツレがいなくなっているのに気付いた。
しかし、咲の方はすぐに戻ってきた。
手一杯のパンフレットを抱えて。
慎「あ、咲、何処行ってき……何その大量の資料?」
咲「はい、アイヌ民族のこと聞いたら、色々私たちの役に立つかもって…。」
慎「咲たちの?」
咲「はい、人間との共存に。」
木「あ…、そっか。」
咲は酔いながらも、歴史的に本土の人間からひどい仕打ちを受けてきたアイヌ民族に、鬼灯族を重ねたらしい。
その歴史を勉強することで人間との共存に役立てようと、大量のパンフレットを持ってきたというワケだ。
慎「…頑張れよ。」
咲「はい。慎一くんたちは私のこと理解してくれたので、きっともうちょっとです!」
その無邪気な笑顔に、慎一と木葉は少し胸を熱くした。
と、そこへもう1人の行方不明者が帰ってきた。
勇「お待たせ! これ買ってきたぜ!」
慎「…それ、さっき講演で使ってた…」
勇「そう、ムックリ!」
ムックリとは、アイヌの民族楽器で、口元に持っていってヒモを勢いよく引っ張ると、ビヨ~ンと音が鳴る。
口の開け方で音程が変わり、先ほども講演で民族舞踊の時に使われていた。
それを勇気が早速土産物屋で買ってきて、やり始めたのだ。
失敗しては、ベンっとあまり気持ちよくない音が鳴る。
勇「あれ、結構ムズイな、コレ。」
慎「咲が真剣なもの持ってくる一方でお前は…。」
咲「何か面白そうですね。」
勇「やってみる?」
咲「あ、いいんですか?」
木「頑張れ!」
4人は笑いながら、次々にムックリを試しては失敗した。
そんな笑いの中、咲も鬼灯族と人間とのしがらみを忘れかけていた。




