5-2
そんなこんなで修学旅行当日。
勇「あ、来た、お~い!」
勇気と木葉が手を振り、慎一と咲は小走りで駆け寄る。
慎「はよ。」
咲「おはようございます。」
勇「おす!」
木「おはよう。」
慎「勇気朝っぱらから元気だな…。」
勇「だって修学旅行だぜ? テンション上がりまくりだよ!」
慎一と咲が眠い目をこする。
木「2人とも眠そうね。」
慎「そりゃ、この時間だしな。蓮樹さん眠くねぇの?」
木「正直眠すぎて今にも倒れそうだけど、何とか持ちこたえてるわ。」
慎「ギリギリなの!?」
木葉は自然な笑顔だった。
初日は、各自空港に朝5時集合であった。
慎一は朝が弱いからと泣きついてきた咲を起こしに家まで行ってから来たので、余計寝ていないのである。
しかも、咲は結局ちゃんと起きていて、慎一は寄り道で睡眠時間をロスしたことについて、「まぁどうせなら一緒に行く方がいいし。損してねぇし。は? 損してねぇし。」と無理矢理自分を納得させるのに苦労する結果となった。
咲に空港や飛行機について説明したり、金属探知機の仕組みを教えてと頼まれてさすがに無理だったりしているうちに、4人は飛行機に乗った。
番号順なので4人はバラバラに座り、独りになった咲は少し寂しくなった。
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木「…咲ちゃん? 着いたよ?」
木葉が咲のところに来ると、咲は両耳を塞いで苦悶の表情を浮かべていた。
咲「…み…みみみ…耳が……バキバキいって…パンパン鳴って………」
木「あ、そっか。そういう時は鼻つまんで息フンってやってみて。」
咲「…?」
咲は意味が分からなかったが、従うことにした。
鼻をつまみ、ロウソクを吹き消さんが如く口で「フッ」と息を吐いた。
木「あっ…ゴメン、違う。鼻で、鼻で。」
咲「? つまんでるのに??」
木「いいから。」
一瞬のち、咲は「ん゛グッ!」というこもった悲鳴を上げた。
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勇「着いた―――! 北海道! やっぱ寒ぃなー! ええ!?」
慎「うるせぇよ。」
慎一のツッコみも笑い混じりだ。
咲「し…慎一くんたちは…みみみは大丈夫なんですか…?」
一方咲は未だに残る鈍痛をこらえていた。
慎「ん? まぁ飛行機初めてじゃないし、ツバ飲み込んでりゃ大丈夫。」
勇「南さん、耳痛いの? 耳抜きしたら?」
咲「耳抜き?」
木「さっきやったヤツよ。」
咲「あ、木葉さんに教えてもらって、やって、少し楽になりましたけど、あれやると痛いです…。」
慎「咲弱いのか。先に教えときゃよかったな。」『ん? 先に? 咲に? まぎらわしっ。』
勇「まぁまぁ、そのうち治るさ! 気を取り直して楽しもうぜ!」
咲「そ、そうですね。」
咲はなんとか笑った。
そうこうしているうちにバスに乗り、更に乗り物酔いが咲を襲った後、昼食の場所に着いた。
咲『に…人間の乗り物って……。』
咲の心は少しずつ、しかし確実に折れかかっていた。




