5-1
咲「しゅうがく旅行? ですか?」
ある日の昼休憩、咲が間の抜けた声を出した。
勇「そう、修学旅行! 来週の日曜から2泊3日で、皆で北海道に行くんだ。」
咲「北街道……ですか。」
慎「まぁ旅行だな。建前は勉強のための旅行だけど、この時ばかりは先生たちも楽しむ気満々だよ。」
咲「……旅行って楽しいんですか?」
咲は依然首をかしげるのをやめない。
木「咲ちゃん、旅行したことないの?」
咲「はい。この学校来るときに初めて村を出ましたし、それ以前は絶対外に出るなと言われていたので…。」
木「楽しいよ! 皆でご飯食べたり、色んな場所に行ったり、お風呂入ったり。」
咲「お風呂!?」
咲は急にビクッとして、同時に顔を紅潮させた。
慎「…? 風呂がどうかしたの?」
咲「お風呂……え、皆で入るんですか?」
木「え、ええ。大浴場があるから、皆で。」
勇「何? 刺激が強すぎるとか??」
勇気が茶化すと、咲は顔をさらに真っ赤にして、口を半開いたままうつむいた。
勇『え、ガチなの…?』
木『可愛いなあ。』
慎『ああ…、"食欲"を刺激されそうで…ってことか。』
その後、何故か気まずいムードのまま、無言で昼食を終えた。
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その日の放課後。
咲はあの後散々旅行の楽しさを木葉に語られて、風呂を血の海に変えてしまうかもしれない不安は一転して修学旅行への期待に変わっていた。
帰り道もスキップ混じりで歩く。
慎「楽しみだな。」
咲「はい、まだ細かいことはよく分かんないですけど、何か楽しみです♪」
慎「それは分かったから、もうちょっとゆっくり歩いてくれ、スキップ速ぇよ…。」
咲「あ、すいません…。」
咲はそこでやっと、慎一が汗だくで何とか追い付いているのに気付いた。
咲がスピードを落とした時、2人の目の前を何かが横切った。
咲・慎「?」
見ると、2人の足元に野球ボールが落ちている。
慎「今、これが飛んできたのか?」
拾いながら慎一が言った。
咲「多分…。でも、飛んできた方は……」
見ると、ブロック塀と、その向こうには普通の民家があるだけだ。
慎「何で民家から? 普通逆だろ。」
咲「とりあえず返しときますか?」
慎「そうだな。」
慎一は投げ返すや否や歩き出し、咲もボールの行方など気にせずに歩き出した。
だからボールが塀の向こうに消えると同時に、小さな悲鳴が響いたのにも気付かなかった。




